Thermal camera1 サーマルカメラ1
ジーンが議事堂の重厚なドアを横目で見る。
「仮にあのドアの向こうにアンドロイドの大群がいるとしてさ」
「ああ」
アンブローズは壁の陰からそう返事をした。
「あそこに放りこまれて閉じこめられるって、蠱毒イメージしない?」
なんだっけそれとアンブローズは考えこんだ。
教育機関での教養として習った呪いの一種と思いだし、顔をしかめる。
「……そのくだらねえ例えやる脳の容量を、さがしものに裂けないか」
「こういうの挟まないと脳のエンジンがかからないであります、大尉」
ジーンがこめかみに手を当てて「んー」とうめく。
「兄さん、国体護持の妨げになる人物および国家転覆を企てる個人や団体等に所属する人物」
「やかましい」
ふたたび同じセリフを繰り返した特別警察のアンドロイドに、アンブローズは改めて銃口を向ける。
「国体護持の妨げになる人物および国家転覆を企てる個人や団体等に所属する人物、それらに連なる思想をもつ人物ということを認めて」
「タバコ吸っていいか?」
何となくソワソワしてアンブローズは相方にそう問うた。
「やめて。ただでさえ面倒な状況っぽいのに火災報知器ならすとかやめて」
ジーンが苦笑いする。
「だいたい、ニコチンなしのタバコで何の中毒なのほんと」
「何だろな」
アンブローズは顔のまえでタバコを吸っているような手つきをした。
ジーンが何かに思いあたったようにこめかみから手を離す。
「おしゃぶり……」
「さっさとデータさがせ」
アンブローズは眉をよせた。
「国体護持の妨げになる人物および国家転覆を企てる個人や団体等に所属する人物、それらに連なる思想をもつ人物ということを認めてわが国における大逆罪は、女王陛下に対する重大な背信行為を内容とする犯罪で」
「お」
アンブローズは声を漏らした。
「言ってること変わったね」
ジーンが柱のかげから顔を出し、窓辺にたたずんでいるアンドロイドを伺った。
「文脈メチャクチャだけどな」
アンブローズは答えた。
もともとのマルウェアと、アボット社開発のマルウェアでカウンター攻撃。それが効いてきているのか。
「未遂、予備にとどまらず、また諜報活動をすることによって処罰されるものであ……」
「諜報、ヤバイんだってさ」
ジーンが眉をよせる。
「自国から諜報しろと言われて自国内で諜報してんだ。文句があるか」
「――あ、あった!」
ジーンが唐突に声を上げる。
「データみっけ」
「さっさと乗っとって撮影しろ」
カツッとピンヒールの音を立てて、アンドロイドがこちらに突進してくる。
アンブローズは、眉間めがけて撃った。すばやい動きでねらいが外れる。
すかさずアンドロイドの近くにあるカメラを狙撃した。
パキッと音がして、カメラの一部が床に落ちる。
「よし、一台誤射」
「あー改めて見たら、NEICのむかしのやつだ、これ」
ジーンが言う。
「宇宙ごみ放置か? いざとなったらカードにするから、あとでデータ転送してこい」
アンブローズは壁の陰から声をかけた。
「駆け引きのカードが増えてなによりであります、大尉」
ジーンがこめかみに手をあて、身をかがませる。
しばらく本気で応戦する余裕はないだろうなとアンブローズは銃をかまえ直した。
おふざけを返す余裕はあるらしいが。
「NEIC創業のころのか。会長も社長もぜんぶ違ってたころだ、これ」
ジーンがつぶやく。
「NEICは、んなごっそり変わった時期あるのか?」
「いちばん大きく変わったのは、三十年くらいまえだと思うけど」
「ナハル・バビロンが独立国として承認されたかされないかってころか。そのころにあっちの息のかかったやつが入社したとして、上役になって会社乗っとるには二、三十年。――いちおう時期的には合うな」
「仮定だけどな」とアンブローズはつけ加えた。
アンドロイドがこちらに走りよる。
カカカッとピンヒールの音を立ててホールのはしにある柱に垂直に昇ると、天井近くからこちらに向けて撃った。
アンブローズは、顔をねらい撃ち返す。
スッと銃口を横に向け、柱のもよりのカメラを撃った。
「誤射だ。しかたねえな」
そうつぶやく。
「そう何発も誤射って通用するもん?」
ジーンが苦笑する。
「どちらの側の人間だ、おまえ」
アンブローズは残りの弾数を確認した。




