Parliament building 70th floor4 議会庁舎ビル70階4
ジーンが挙げた手をすばやく横にかたむける。
袖口に仕込んだ小型のハンドガンで、ドロシーに成りすましたアンドロイドを撃った。
アンドロイドがとっさに後転倒立で避ける。そのまま何度か後転倒立を続けて窓ぎわに行くと、立て膝で銃を構え直した。
アンドロイドの長い黒髪が、激しい動きに合わせてバサッとなびく。
アンブローズは、ハシゴの上からアンドロイドを撃った。
避けられ弾がはずれてガラス窓に当たったが、防弾ガラスなのは教育課程で習って知っている。
むしろ教わったことは本当だったなと脳内で確認してしまった。
ジーンがすばやく太い柱の陰に隠れる。ほぼ同時にアンブローズは最寄りの壁の影に隠れた。
「やっぱ陽動要員だった? 俺ら」
窓ぎわのアンドロイドに向けて銃をかまえながら、ジーンが苦笑いする。
「ドロシーの野郎……」
アンブローズは低い声で呟いた。
「推測だからね。まだ推測だから、兄妹喧嘩やめて、兄さん」
「兄さん言うな」
アンブローズはそう返した。
「陽動だとしたら、お嬢さまにドロシーがやっぱ指示してやがんのか。いやアボット財閥が軍を利用しやがろうと企んだ線も」
アンブローズはつぶやいた。
「ちなみにドロシーのいまの行動はどこで何だ」
「そういやそこは分析途中で止まってたっけ」
ジーンが答える。
「さっさと分析しろ」
「データは脳内にたっぷり詰めこみました。もう少し時間が欲しいであります、大尉」
ジーンが苦笑する。
「……わざとそこだけ隠してねえだろうな、おまえ」
アンブローズは銃を構えつつ顔をしかめた。
「何で」
ジーンが尋ねたが、アンブローズは無言で応じた。
ドロシーの弾よけになるつもりじゃないかとアリスがほざいていたが、それを止めるためだとしたら大きなお世話すぎる。
アンブローズは、議事堂の扉を横目で見た。
ジーンが撃ったハンドガンは、手首にバングルのように取りつけられるほど小型化しているとはいえ、仕組みとしては前時代のものとほとんど変わらない。
たとえ議事堂内が防音になっていたとしても、銃声は中に伝わるほどのものだ。
オーケストラのコンサートでもあるまいし、静かな審議中なら聞こえていそうなものだが、ドアマンやビルの職員ですら確認に来ないのか。
「ジーン」
中、と続けようとしたが、ジーンはすでに横目で扉のほうを伺っている。
「アン、おかしい」
ジーンが銃をかまえながら頭をわずかにかたむけた。
ブレインマシンを起動させているのか。
「審議のライブ配信にアクセスしてみたけど、いま配信されてる映像、まえに見た気がする」
「まえに……」
アンブローズはじっと銃を構えるアンドロイドの動きを伺った。
「たぶん過去の録画だ」
ジーンが言う。
アンブローズは眉根をよせた。
では、いま議事堂の中での審議はどうなっているのか。「審議中」との扉の横のディスプレイ表示は出たままだが。
「――あっ、あっ! ここで保守党のキャサリン議員がミニのタイトでデスクに飛び乗るんだよ! ――そうそう! んで労働党アンナマリア議員の巨乳の胸ぐらをつかむ! そこにミニのフレアースカートで民主党メリッサ議員が飛びだし応戦! 三つどもえのキャットファイト状態になったところに、クロスベンチの若手議員ヴァージニアが仲介に入るも、女性三人に殴られてロングスカートをたくしあげ、華麗なる中立的三方向ハイキック!」
アンブローズは呆気にとられて相方の様子を見た。
「三ヵ月くらいまえの審議のやつだ。見ごたえのある回だったから、よく覚えてる」
しみじみとジーンが言う。
「おまえがゲイじゃないってことはよく分かった……」
アンブローズは顔をしかめた。




