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FACELESS フェイスレス  作者: 路明(ロア)
21 q.v./その箇所を参照せよ

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74/92

quod vide3 その箇所を参照せよ3

 夕方、寝室。

 そろそろカーテンの外が暗くなってきた。

 空中には相変わらず特別警察のだれもいない廊下の映像が投影されている。

 アンブローズはPC内蔵の椅子に座り、どきどき入れ替えて眺めながら煙草をふかしていた。

 休憩にちょうどいい。ぼんやり休めるが、仕事をしなくてはという強迫観念も感じない。

 室内の暗さをAIが感知して、少しずつ部屋の照明を明るくする。それに応じて空中に投影された画像も明るさが調整された。

 玄関口のドアが解錠される音がする。

 ジーンだろうとは思ったが、アンブローズは念のため椅子から立ちベッドの上に置いた拳銃を手にした。

「アンー、ただいまー」

 ジーンの声だ。

 拳銃をベッドに戻す。

「アンー?」

 寝室のドアが開いた。

 能天気な声とは裏腹に、ジーンの手には銃が握られていた。アンブローズの姿を確認すると、苦笑いして通勤用のカバンにしまう。

「返事ないから緊張しちゃったよ」

「DNAデータ登録済みのやつをいちいち出迎えるの面倒くせえし。だいたい何だ、ただいまって」

「データ登録されてたらふつうは家族扱いじゃん? その感覚?」

 ジーンが答える。

 どんな感覚だよと思う。いちおう上の階級の人間の自宅なんだが。

「昼間の通話の解説しろ」

 アンブローズはそう切り出した。


「ざっくり見当つけると、アボット財閥が自社製の特別警察アンドロイドを一斉処分するって話か」

 

「さすが俺のアン」

 ジーンがハグしようと両手を広げる。

 アンブローズは軽くにらむように目を眇めた。

「……そんな本気で怒んなくていいじゃん」

「発作はNEIC勤務中に解消してこい言ったよな」

 ジーンが苦笑いして手を引っこめる。

「発作というか一日のルーティン? 寝るまえの口腔ケアみたいなやつ?」

「いいから解説しろ」

 アンブローズはサイドテーブルに置いた煙草のパッケージを手にした。

 一本を出して咥える。

 先日いっぱいにしたままだった灰皿は、その後吸殻(すいがら)を捨てて洗った。

「NEIC総務部の会話を前からずっと傍受してたんだけど、どうもアボット社が特別警察のアンドロイドの人工脳にマルウェアを送ったらしいって」

 アンブローズは煙草を(くゆ)らせた。

「マルウェア送って? んで自滅させるのか」

「だと思うよ。アボット社としては、このまま法解釈の狂ったアンドロイドを放置するわけにもいかないだろうし」

「それはそうだ。むしろやれるんなら何でいままでやらなかったんだって話だな」

 アンブローズは煙草の灰を灰皿に落とした。

「アボット社としたら、メンテナンスのふりして正常なものとすり替えるって手もあったと思うけど、それだとまたNEICのマルウェアにやられる可能性がある」

「あのアンドロイド連中は、脳内にセキュリティシステムあると思うが、そもそもそれどうなってたんだ」

 アンブローズは問うた。

「NEICのマルウェアはそれ突破するプログラムのものだった。アボット社もさすがに対抗しうるシステムなり何なり開発するのは時間がかかったってことじゃないかな」

 ジーンが言う。

「んで? やっと開発できたらしいのか」

「たぶん。NEIC総務部が、“やっべ” を連発してた」

 ジーンが肩をすくめる。

 アンブローズはトントンと煙草を指先で叩いて灰を落とした。

「やっべ程度で済んでんのか? そこ少し引っかかるけどな」

「会社の裏を知ってる人間のコソコソ話だからね。表現の程度は会話から推測するしかないけど」

 ジーンがベッドに座る。

「アボット社としては、特別警察のアンドロイドに不具合があったまま何年も放置してたと世間に知られたら困る。たぶん株価におもいっきり関わる」

「たぶんじゃなくて確実に落ちる」

 アンブローズは言った。

「だからアンドロイドが自然な感じで機能を落として、メンテナンスとしておとなしく回収させてくれるところまでまず持って行きたいんだと思う」

「NEICのマルウェア入りだと、そこ抵抗されるわけか」

 アンブローズは煙草を強く吸った。

「そのあと、おそらく新品のアンドロイドに替えるんだと思うんだけど」

 ジーンが言う。

「アボット社はもしかすると」

 そこまで言ってから、ジーンが指先をクイクイと曲げた。「こっちにこい」というようなジェスチャーをする。

 不審を覚えてアンブローズは眉をひそめたが、煙草を手にしたまま上体をかがませた。

 さらにジーンが指先をクイクイと曲げる。

 何がしたいんだとさらにかがむ。

 ジーンが腕を伸ばしてガシッと抱きついた。アンブローズの耳元に口をよせる。

「何してんだ、てめえは!」

 煙草の火にいちおう気を使いながらも、アンブローズは声を上げた。

「念のため。どこで聞き耳立てられてるか分かんないし」

「本当にそっちの趣味なんじゃないだろうな、おまえ」

 今さらながら怪しく思えてきた。アンブローズは顔のすぐ横に頬をよせたジーンをにらんだ。

 耳元でジーンが声をひそめる。


「もしかするとアボット社は、NEICのマルウェアを逆手に取ってNEICのシステム全体を壊すマルウェアを開発したんじゃないかな」





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