Investigation1 尋問1
「あなたが今日も無事でホッとしましたわ。「プティットフィーユ」の甘さをおさえた抹茶とアーモンドのリンツァートルテは食べてくださったかしら」
ブレインマシンが空中に投影した画面で、アリスは神に祈るときのように手を組んだ。
ジーンにも見せるため他人にも見える画面システムに切り替えてある。
ディスプレイの前に置いたクッションに胡座をかいて座り、ジーンは画面を見上げた。
「あの甘ったるい物体は、相方が今後一週間かけて片づける予定だ。差し入れはとうぶん要らない」
リビングのテーブルに頬杖をつき、アンブローズはそう答えた。
新しい煙草のパッケージに手を伸ばす。いちど振って一本を取り出し咥えた。
「ついでにお嬢さまも顔は出すな」
「ちょっと待って。一週間リンツァートルテ責め?」
ジーンが苦笑する。
「一週間かけて食べるならそうそうキツい量でもないだろ」
「たまには誰か呼ばない? アンの彼女のうちの一人とか」
「ハニトラにかけた女に自宅教えるほど馬鹿じゃねえし」
アンブローズは煙草の煙を吐いた。
「付き合ってる女の人がハニトラの相手しかいないってどういうこと」
ジーンが苦笑いする。
「お前こそNEICの女性社員とか。そこらで待ち合わせて渡せる女いないのか」
「今のところ俺のいちばんの理想のタイプ、“食堂のメアリー” なもので」
ジーンが答える。
「そろそろ調理中の事故で死亡とかいう設定にしとけ」
アンブローズは煙を吐いた。
画面の向こうで、アリスが頬に手を当て思わせ振りに溜め息をつく。
「あなたのお仕事は理解しているつもりですわ。ですからハニートラップにかけた女性を何人キープしておこうが、わたくしは口出しは致しませんけど」
「お嬢さまに口出ししてもらう義理は一パーセントもない」
アンブローズは答えた。灰皿を指で引きよせ、トントンと灰を落とす。
「わたくし以上に理解のある女はいないとあなたもそのうち解ると思いますの」
「お嬢さまは子供であって女じゃない」
アンブローズは煙草を強く吸った。
「……いちおう尋問のためのアクセスなんだが。分かってんのか」
「女子供でもお仕事には容赦しないあなたの姿勢って好きですわ」
アリスが、ほうっと息を吐いた。
「容赦はしてやってる。時間限定のオンライン尋問なんざ、超絶甘々だ」
「まあ……俺らは敵国のスパイ容疑なんてあったら、今の時代でも何時間も拘束されて尋問されるもんね」
ジーンがディスプレイ前で苦笑いする。
「アリス・A・アボット」
アンブローズは改めて呼びかけた。
「一つめの質問だ。ドロシーといちばん始めに接触したのはいつだ」
アリスが遠い目をする。
「五歳のときですわ。あなたに会いにマンションに行ったら、見目麗しい黒髪の女性がいて」
「そこまで遡らんでいい。今回の件に関してだ。特別警察に連行されたのはドロシーの指示か?」
「わたくしの判断ですわ。わたくしが総帥だと名乗り出なければ、重役が何人か拘束されるところでしたの」
アリスは答えた。
「人質ってこと……」
ディスプレイ前でジーンがつぶやく。
八歳の幼女が社員を守るために自ら拘束されたのか。
本当なら、見事としか言いようがないなとアンブローズは思った。
幼少期から教育を受けている自身たち軍の将校も、八歳のときはまだ初等部で一緒に育った子たちと取っ組み合いの喧嘩をしていた。
「分かった、次の質問だ。ドロシーが介入してきたのはどこからだ」
「ドロシーさんの活動を追っておりますの?」
アリスが逆に問う。
「質問してるのはこっちだ、アボット財閥総帥アリス・A・アボット」
アンブローズはあえてそう呼んだ。
「軍内の活動なら軍内でお聞きした方がよろしいのではなくて?」
アリスがそう言い返す。
「質問に答えろ」
アンブローズは、煙草の灰を落とした。
「ちょっとバディの方?」
アリスが顔をかたむけ、ジーンの方を見る。
「ジーン・ウォーターハウスと申します、お嬢さま」
ジーンが答えた。
「この方、危険に身をさらすようなことを考えているのだと思いますの。気をつけて差し上げて」
ジーンが一瞬、真顔でこちらを見た。だがすぐにアリスの画面の方に向き直ると、いつもの軽薄な笑い顔をつくる。
「愛の力で止めますよお」
「そういうつまらないネタは要りませんの」
アリスは答えた。
「軍でお聞きすれば分かるような内容を、わざわざ外部のわたくしに聞いているということは、命令違反をしても動くつもりということですわ。違って?」
「……ドロシーが介入してきたのはどこからだ?」
アンブローズは改めて問うた。
灰皿に灰を落とす。
「バディの方、呑気に座っている場合じゃありませんわ。たぶんドロシーさんの先回りをして弾除けになるつもりですわ、この方」




