Open Source Intelligence2 公開情報分析2
「アリスちゃんは帰ったの?」
ディスプレイを見ながらジーンが問う。
「ああ……」
「相変わらずでホッとしたけど、ドロシーちゃんの指示ってなに」
アンブローズはテーブルの上の灰皿を指で引きよせ、トントンと灰を落とした。
「あとで尋問してみなきゃよくは分からんが、アリスが逮捕されて従順に連行されたあたりか、特別警察の施設にフラットカメラと盗聴システムをしかけたあたりからは、たぶんドロシーが介入してる」
煙草を強く吸う。
「尋問って。相手はいちおう幼女なんだからさ」
ジーンが苦笑する。
「オンライン尋問だ。気は使ってやる」
アンブローズなそう答えた。
「ドロシーちゃんの介入なんかよく分かったね」
「この方がすんなり納得できると思っただけだ。とくにフラットカメラと盗聴システムのあたりなんかは。カマかけてみたら吐いた」
「ああ、義理の妹っていう」
「くだらん証言部分は無視しろ」
アンブローズは眉をよせた。
「便所に行きたいって方法じゃなかったのか。お嬢さま」
煙草を燻らせながら、ジーンの見ているディスプレイを眺める。
「さすが “諜報担当の中の諜報担当” が絡むと、誰も信じられないような事態になるな」
「アン、実は俺もね」
「いいからディスプレイ見てろ」
煙草でディスプレイを指す。
ジーンがディスプレイに手をかざし、次々とチャンネルを変えた。
片手を米噛みに当てているところを見ると、ブレインマシンから手に入れられる配信も並行して見ていると思われた。
「どこも関連すら触れていない情報がいくつかある。ナハル・バビロンとその友好国の政府内の動き、ライフラインの情報、それとサイバーの状況」
「たまたまじゃないのか?」
アンブローズは、煙草を燻らせた。
「ブレインマシンの配信含めて何百って番組見て雑談や誰かのうっかり一言にすら上がらないのは違和感あるね。これに関連する情報をどこかでさりげなくストップかけてる可能性が」
「ドロシーか?」
「かもしれないし。誰なのかまで特定するとしたら、もっと数を見る必要があるけど」
ジーンが画面を見つつ微笑する。面白いんだろうか。こういう分析が。
「ブランシェット准将かもしれないのか」
アンブローズは眉をよせた。
「このぽっかり抜けた情報の裏で、動いている人か勢力があるのは確かかな」
アンブローズはディスプレイを眺めた。
画面では、女性型アンドロイドのアナウンサーがニュースを伝えている。
「ちょっとやそっとの勢力が特定の情報を隠そうとしても、ここまで見事にはいかないよ。誰かが必ず関連した事項をポロッと口走るか表情に出す」
チャンネルを変えながらジーンが解説する。
「直接その情報じゃなくても、例えば “A国が破綻した” って誰かがポロッと言ったとしたら、とりあえずその他の国は破綻していないという保留の情報になる。これが “B国がバブルで若者が毎日パーティー”、“C国のGDPがD国を越えた”、“E国とF国の間の輸出入に変化”、こんな風にバラバラの情報を数百、数千と組み合わせていくと、A国の破綻という話の信憑性が少しずつ上がる、なおかつ各国の経済政策の内容と成果がざっくりだけどつかめる」
ジーンがチャンネルを変える。
「数百、数千のバラバラの情報を重ね合わせて行くと、そのうちぽっかりと空いたところ、どの情報でも掠ってもしない箇所が出てくる」
プロジェクターから目を離さずジーンは続けた。
「今回の場合は、重要な分野のはずなのにわずかも関連情報が出ていない分野があれば、そこがドロシーちゃんの動いてるところである可能性が高いと思う」
アンブローズは黙って聞いていた。
「言葉で説明するとややこしそうに聞こえるかもしれないけど、理屈は簡単だよ。できる限り雑多な情報を大量に収集して、脳内でそれらを重ね合わせて大雑把な傾向の分析をする」
「……発達障害の一つで、空気は読めないけど分析能力はやたら長けてるのがあるって聞いたことある」
「ちょっとアン……」
ジーンが苦笑いをする。
とくに他意はない。
発達障害の中には、IQが平均より高いタイプのものもある。
やたら分析能力に長けていたり、異様に記憶力が良かったり。
将校として育てる人間を遺伝子で選別している今の自国の軍が、そういう方面での選別をしたとしても不思議はない。
アンブローズは灰皿で煙草を消した。
「そのまま続けろ。コーヒー淹れてやる」




