Negotiation and espionage3 交渉と諜報3
アンブローズは、相方の顔を見た。
「同じことやるならAIの方が性能いいかもだけど、情報の集約で時間がかかる。俺なら情報の入手さえできれば数時間でもできるよ」
ジーンが言う。
確かに組んだ当初、国家転覆計画の話はしなかったのに勝手にその答えにたどり着いた。
そのときも同じような分析方法を話していたが。
ジーンの上官が「面白いやつだから情報を与えてみろ」と言っていたというのはそういうことか。
「俺と組んで良かったでしょ、大尉」
ジーンがニッと笑う。
「……良かったかどうか審査中だ」
アンブローズは煙草の煙を吐いた。
「ここまで尽くしたら、お前最高だぜとか言ってもよくない?」
「サポートするからさっさと始めろ」
アンブローズは、テーブル横のプロジェクター操作パネルに手をかざした。
「ナハル・バビロン検索してやる」
「それにこだわることないよ。それ中心だとありがたいけど」
プロジェクターに映る天気予報を眺めながらジーンが答える。
「もう少し具体的に欲しい情報の方向性を説明しろ、ウォーターハウス中尉」
アンブローズは、とりあえず操作パネルでナハル・バビロンを検索した。
「ナハル・バビロンの情報は、ナハル・バビロン関連に一番あるのは決まってるけど、そうじゃないところに内部の情報のヒントがあることがある」
「もう少し明確に、中尉」
アンブローズは眉をよせた。
「例えばナハル・バビロンの産業に関するものを輸出入している国のあらゆるニュースは、間接的にナハル・バビロンに影響してる。そこ関連のニュースから外交の駆け引きや人の流れとかいろいろ推測できる」
「OK」
「他国が受けたサイバー攻撃のニュースからナハル・バビロンのライフラインの状態が推測できる場合もあるし、国内外のエンタメの方向性から内部のスパイ活動が推測できることもある」
アンブローズはディスプレイにナハル・バビロンの議会の様子を映した。
「議会での議員一人一人の様子や顔色、仕草、ついつい上げた声から、国家機密についての見当をつけることもできる」
「OK。だいたい把握した」
「俺と組んで良かったでしょ、アン」
「審査中だ」
ジーンが苦笑した。
他国の諜報員同士のやり取りを傍受してたら全く別の国の国際法違反を突き止めてしまいましたとかいうことが起こるこいつの趣味の話は、こんな分析遊びも絡んでるのかと推測する。
これでまだ中尉なのは趣味にとどめているからなのか、単に年齢的なものなのか。
アンブローズは、操作パネルの上で指先を動かした。
ある程度AIまかせにする操作をする。
「最低、何時間くらいなら可能だ」
「自分の部屋だと、プロジェクターを一度に三つか四つ点けてやるんだけど」
「じゃ、お前の部屋帰ってやれ」
アンブローズは、わずかに眉をよせた。
「……冷たいっすね、大尉」
「効率的な方を提示しただけだ」
アンブローズは答えた。
ジーンがプロジェクターを見始めて間もなく。
部屋に備えつけられた小型アンドロイドが来客を告げた。
「あ、出る?」
ジーンがそう問う。
「お前はプロジェクター見てろ」
アンブローズは立ち上がると、つかつかと寝室に向かった。雑にドアを開け、ベッドの横に置いた拳銃を手にする。
弾数を確認してヒップポケットに突っ込み玄関口へと向かった。
「誰だ?」
小型アンドロイドにそう問いかけると、インターフォンの立体画像に客の姿が映る。
簡略化した正装を身につけた男性だ。
特別警察のアンドロイドかと頬を緊張させる。
「誰ぇ? 必要なら援護するよ、アン」
ジーンがリビングから呼びかける。
「いいからプロジェクター見てろ」
アンブローズは答えた。
目線を上げると、それに合わせてインターフォンの立体画像が客のもう少し上の方を映す。
アリスの護衛アンドロイドだ。
「アリ……」
ということは、一緒なのか。
目線を下にさげる。インターフォンに内臓されたセンサーが眼球の動きを検知し、下の方も表示した。
金髪にアンティークのファッション。フランス人形のような幼女がアンドロイドの半歩前に立っている。
「なんだこのタイミング……」
アンブローズは眉をよせた。
一、二秒ほど宙を見上げたが、とりあえず本物なら応対すべきかと判断する。
今のところは特別警察のアンドロイドに幼女型がいるという情報はない。
脳の情報を書き換えられた護衛アンドロイドがアリスを人質に襲撃ということはあり得ると思うが、そのさい相手にするのは一体。
こちらには護衛アンドロイドのデータと、アボット社製アンドロイドのコントロールを担っているスクエアーのデータがある。
「解錠」
小型アンドロイドにそう指示する。
玄関口の設備から、解錠を知らせるカチャッという音がした。
玄関のドアが開く。
アンティークのドレスを着た幼女が、青い大きな目でこちらを見上げた。




