Negotiation and espionage2 交渉と諜報2
ジーンが右手を挙げる。
「先生、工作は “諜報” に入るんですか?」
「バナナがおやつに入るかみたいなノリで聞くな」
アンブローズは煙草を強く吸った。
「無階級の特別権限は、もう発動されてんのか……」
「案外と知らないうちにスルッと発動されてるもんなんだ。今までもあったのかな」
ジーンが問う。
「さあな」とアンブローズは答えた。
「諜報担当の中の諜報担当みたいなのが隠密ともいえるからな。必要でもない限りは極秘のうちなんだろ」
「へえ……」
ジーンが相槌を打つ。
「必要なら三年前みたいにド派手にやるんだろうが。……まあ、俺もすべて知ってるわけじゃないが」
ベッドにドサリと腰を下ろし、アンブローズは煙草を強く吸った。
ドロシーの謎の行動の意味を知りたくて必死で引き継いできた任務だ。
囮として仕組まれていたと気づいたときには動揺したが、今は囮として充分に役に立っていたかの方が気になる。
訳も分からずに動かされていたというのは、何とも行動に自信が持てなくなってくるものだなと思う。
「特別警察の施設内の監視は続けてていいんですかね、お兄さん」
「お兄さん言うな」
アンブローズは煙を吐いた。
「大尉」
「ドロシーもブランシェット准将も邪魔しに来ないとこみると、これは正解なんだろ」
ベッドの上でアンブローズは脚を組んだ。
ふぅ、と息をつく。
「ドロシーちゃんが何かしてるとなると、そろそろどこかにナハル・バビロンが出てくるかな」
「さあな」
アンブローズは答えた。
考えてみればこの監視は、“ティー・パーティー” にアクセスして覗き見しているという実績さえあればいいのか。
実際に映像の前にいなくても、ドロシーとしては敵の目を引きつけて、ときどき牽制に襲ってくる敵と遊んでくれればいいということだろうか。
「今日からは、もうちょいキッチリ寝るか……」
ふぅ、とアンブローズは煙を吐いた。
「大尉」
ジーンが右手を上げる。
「何だ。つまんねえおふざけなら聞かねえぞ」
「プロジェクターの方のニュース配信が見たいであります」
アンブローズはリビングの方を見た。
しばらく煙草を吹かす。
「許可する。ついでにコーヒー淹れろ」
リビングの立体プロジェクターをつける。
三百以上はある放送局から常時ニュースのライブ配信をしている局を選び、装置の上に投影する。
国内各地のこまごまとしたニュースが流れたが、特に気になるような出来事は今のところない。
「わざわざこっちで何が見たかった」
ジーンの淹れたコーヒーがテーブルの上で湯気を立てる。香ばしい匂いが漂った。
「 “ティー・パーティー” にアクセスしたままのPCからじゃヤバいじゃん。特別警察にもブランシェット准将にも、どこまでアクセス追われてるか知らないけど」
ジーンが自身の分のコーヒーをテーブルに置く。
「ジーッと監視してるって演出はしなきゃでしょ?」
成程とアンブローズは呟いた。
「それにしても」と続けて、ジーンがキッチンの方を見る。
「コーヒーメーカーの中のやつ、いつまでたってもアンの好みのブレンドしかないんだね」
「俺の家だ。当然だろ」
アンブローズは煙草を強く吸った。
「毎晩一緒に過ごしたなか……」
「おちゃらけはいい。いちいち話を脱線させるな」
「俺としては、ナハル・バビロン関連のニュースが見たかったんだよね」
ジーンが椅子に座る。
プロジェクターの立体映像を眺め、コーヒーを口にする。
「NEICは何か変化があれば勤務してて気づくけどさ」
「一般のニュースに流れるのなんて、軍で手に入る以上のものはないだろ」
アンブローズは煙草を指で抑えた。
「一般のニュースでも数多く見れば、そこから一定の方向性が見えてくる。言ってみりゃ、生身の脳でやるビックデータ?」
ジーンが言う。
「何十、何百と関連情報とその他の情報を漁っていくと、不自然に情報の抜けてる部分とか表現が無駄にぼやけてる部分とか違和感に気づいたりする。たいていそういうところにあるのが、軍の中や政府の中枢でしか手に入らない情報。さらにその一部が、軍の中にいても上層部くらいしか知らないと思われる部分」
アンブローズは目を見開いた。
「上手くすれば、ドロシーちゃんの動きくらいは分析できるかもしれない」




