Dorothy Gale Dudley2 ドロシー・G・ダドリー2
「どこからあいつの囮にされてたんだ?」
アンブローズは、煙草のソフトパックを取り出し上下に振った。飛び出た一本を咥える。
ベッドのヘッドボードの棚のデジタル時計は、そろそろ夜が明ける時間を表示していた。
カーテンから陽光が薄く透け始めている。
「そろそろ仮眠とれば? アン。俺、今日はNEIC休日だから一日いられるし」
「あいつがやってんのは国家転覆の証拠固めだったってのは引き継いでから把握したんだが……」
唾液で煙草に火をつける。
一晩で何本吸ったのか。片づけを面倒臭がっているので灰皿は吸殻でいっぱいになっている。
空中に浮かんだ特別警察の施設内部の画像を眺める。
この監視は、囮としてとりあえずは続けて良いのだろう。
NEICの人工衛星群に不正にアクセスして施設内部を覗いている何者かがいるとして警戒をこちらに向ける。
どこの警戒か。
NEICと、その裏にいるであろうナハル・バビロン政府か。
ドロシーはこちらの動きに隠れて今なんらかの方法でそちらにアクセスしているということか。
アンブローズは煙草を強く吸った。
「まさか三年前から仕組まれてたとかじゃねえだろうな……」
ジーンがゆっくりとこちらを向く。
「誰に? ドロシーちゃんに?」
「ドロシーとブランシェット准将。もしかしたらプラス軍上層部」
ジーンが眉をよせる。
「ドロシーが切羽詰まってド派手すぎる行動に出たあと、頭に埋めこまれたチップで昏睡状態。ブランシェット准将なら、俺がドロシーの安否を気にかけつつ調査を引き継ぐのを志願すると予想できる」
「いや……それ何で。ふつうにアンに引き継ぎを命令すればいいだけじゃ」
「だよな」
そうと返し、アンブローズは煙をふぅぅと長く吐いた。
「昨日の昼間ブランシェット准将が通話してきた。あの墓の同じ所をこっそり掘らせてるって」
アンブローズは、灰皿に灰をトントンと落とした。
「こっそりか……」
ジーンが呟く。
「あからさまに掘ったら、またあのコンバットシスターが出るかもしれないから?」
「だろうな。だから特殊部隊にこっそりやらせてるんだとよ」
アンブローズは煙を吐いた。
「その後なんか出たって?」
「幸い王室の人間らしき骨は一個もない」
ジーンが無言で苦笑いする。
「そろそろ朝飯の用意するか」
「いや……寝なよ、アン。大事なとこの分析してんのかもしれないけどさ、絶対疲れてるよ」
「食ってから寝る」
アンブローズは煙草を消した。
「作ってる間にバタンいきそう……」
ジーンが苦笑して椅子から立つ。
「疲れてると、逆に頭だけ研ぎ澄まされてくるんだよ。お前に関してもちょっと思ったんだが」
「俺?」
寝室を出ようとしたジーンが振り向く。
「始めに逢ったとき、お前アンドロイドと入れ替わってたよな」
「ああ、あれね。やられたね」
ジーンが苦笑いする。
「てか本当は、俺の方が偽物なんだけどね。ダドリー大尉」
すっと真顔になり、ジーンがそう告げる。
アンブローズは相方と目を合わせた。
しばらく無言で見つめ合う。
「……お前も休め」
くだんね、と呟いてアンブローズは灰皿を手にした。そろそろ吸殻を片づけなければ。容量が限界だ。
「大尉に連夜ほぼ徹夜でこきつかわれたから、俺も脳ミソぶっ壊れそう。そうする」
ジーンは頭を掻いた。




