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FACELESS フェイスレス  作者: 路明(ロア)
03 a2/バディ
6/92

Canteen worker Mary 食堂のメアリー

 NEICの工場内は少々暑く、アンブローズは時おり鼻に滲む汗を指で拭った。

 エアコンは掛けてあるはずだが、広すぎて全体を冷やし切れていない。

 工場支給の作業服には小型のエアコンがついてはいたが、屋外の作業というわけではないので、さほど念のいったものではない。

 工場内は、どこまで続くのかと思うくらい、ずっと向こうまでラインが続いている。

 ひっきりなしに聞こえるモーター音。

 ざっと見えている場所だけでも、数十人がラインに不具合が起こった場合のために待機していた。

 私語を話す者はなく、非常に静かだ。

 作業をするのはロボットだが、品質の検査とロボットの不具合の監視は、AIと生身の人間だ。

 家庭用の小型アンドロイドの工場だった。

 頭部の検査のラインで、アンブローズは専用の機材にアンドロイドの頭部を設置し、仮起動させていた。

 まだ眼球のはめられていない瞳の奥が、ちかちかと小さな光を点滅させる。

 人工脳は組みこまれていないので、頭部には開口部がぱっくりと開いていた。

 小さくふっくらとした人工の唇が、ぱくぱくと開閉を繰り返した。

 半世紀前に創立されたNEICは、現在ではアボット財閥に迫るかというほどに成長した企業だった。

 いまだ総合的には二番手なのだが、数年前からアンドロイド部門に力を入れ始めた。

 家庭用アンドロイドの頭部を機材から外しラインに乗せる。

 次の頭部を設置し、仮起動をさせた。

「休憩。交代ですって」

 二十代前半ほどの青年に肩を叩かれた。

 短い金髪を立たせ、細いカチューシャで留めていた。

 後ろに別の男性がいる。そちらと交代ということか。

「ロボットと違って、人間は疲れちゃいますからね」

 青年が馴れ馴れしい笑顔で言う。

「俺、ここの事務の者だけど、良かったらコーヒーしない?」

 へらっと軽薄に青年が笑う。

 アンブローズは、わずかに眉をよせた。

「いや別に誘ってるとかじゃないから」

「誰もそこまで深読みしてない」

 アンブローズはそう返した。

「ほら、ここで同い年くらいなのあんただけみたいだし」

 アンブローズは周辺を見回した。

 たまたまなのだが、周辺のラインにいるのは歳上と思われる工員ばかりだった。

「食堂に行けば、同い年くらいのもいる」

 アンブローズは答えた。

「いや、あんたと喋りたいし」

 青年が両手を握ってくる。

「俺は午前中だけの勤務だ。あとは帰る」

 アンブローズは、不快な気分で握られた手を凝視した。

「じゃ、自宅で話そうか」

「……何でいま会ったばかりの男を自宅に連れこまなきゃならないんだ」

「いや俺の自宅でいいし」

 青年がヘラヘラと言う。

「引っ越して来たばかりと言うんじゃないだろうな」

「あ、ここの社員寮に越してきたばかりなんだけど」

 青年が答える。

 交代した工員が、邪魔だと言いたげな表情でこちらを見た。

 とりあえず場所を移動しろという風に、アンブローズは青年を通路の方に促した。

「……寮の食堂のメアリーは元気か」

 アンブローズは青年にそう問うた。

「ああ、あの女の人? 元気だよ」

 青年が答える。

「清楚なのに胸がでかくて」 

「ああ、いいっすねえ、ああいうの」

 青年が答える。

 アンブローズは眉をよせた。

 作業服の内ポケットから煙草のソフトパックを取り出すと、屈んで一本咥えた。

 唾液の水分に反応して発火し、お飾りの無害な煙が流れる。

「ああいうタイプ好きなんすか」

 青年がヘラヘラと笑いかける。

「……下手くそだな、お前」

 アンブローズはふたたび眉をよせた。





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