Interception2 傍受2
「起きろ」
カーテンから朝日が透けて、寝室に薄く射し込む。
アンブローズは、自身のベッドで寝るジーンを起こした。
はぁ、と息を吐き、ジーンがゆっくりと上体を起こす。
「教育過程の頃にあった実戦訓練の期間を思い出すなあ。四十秒で用意しろとか」
「四十秒で朝食食ってこい」
アンブローズはリビングの方に向けて顎をしゃくった。
「大尉の手作りでありますか」
ジーンが毛布を退けてベッドから降りる。靴を履きながら下ろしていた首元のファスナーを首元まで上げた。
「朝っぱらからブランシェット准将の使いの奴が来て、二人分のモーニングセット置いて行った」
アンブローズはそう答えた。手にしていたソフトパックから煙草を一本取り出し咥える。
「なにそれ」とジーンが顔を歪めた。
「休暇返上でお仕事に勤しんでることバレてるんじゃ」
「女と一緒にいると想定した可能性もある。あわてて襤褸出すなよ、お前」
アンブローズは水蒸気成分の煙を吐いた。
「わざわざ部下に届けさせるなんて、十中八九監視でしょ」
ジーンが苦笑する。ややしてから立ち上がり、のろのろとリビングに向かった。
四十秒とっくに過ぎてんじゃねえかとアンブローズは思った。
「トイレ行ってからでいいでありますか、大尉」
「……飛び散ったら自分で掃除しろ」
「らじゃ」
ジーンが歩きながら敬礼する。
ややしてから「うん?」と呟いて髪を掻くと、こちらを振り返った。
「まさかと思うけどアン、モーニングセットの食器にフラットカメラとかついてないよね」
「盗聴コードなら見つけた。トレーのロゴに紛れて貼りつけてやがった」
「うわ……」と呻いてジーンが口を手で押さえる。
「ブランシェット准将って、あんな穏やかそうなのに意外とそういうことする人なの?」
「いちおうお前の分のトレーと食器も見たが、同じロゴの部分だ。気をつけて食え」
アンブローズは煙を吐いた。
「何やったのアン。准将なんて地位の人にそこまで監視される何やったの?!」
「ゆっくり休暇取れとの上官の気遣いを無視して、お前と組んで民間企業の人工衛星群から電波傍受して、上官に虚偽報告してる」
アンブローズは煙を吐いた。
「巻き込まないでよ」
ジーンが引きつり笑いする。
「ノリノリでティーパーティーのデータ持ち出して来たのはお前だ」
「いやちょっと待って……」
ジーンが両手で頭を抱えた。
ややしてから真面目な顔になり、こちらを見る。
「いくら何でも念を入れすぎだよね。ブランシェット准将としては、アンに動かれたくない何かがあるんじゃ」
「やっぱそう思うか」
アンブローズは答えた。
「いつも余計なところに突っ込みたがる人だが、通常はここまでお節介じゃない」
「だよね。俺なんかもう少しで二人の肉体関係まで疑うところだった」
アンブローズは思い切り顔をしかめた。
「なに警戒されてんの。アリスちゃんの救出に行きそうだとか?」
「そこまで親切じゃないことくらいあの人は知ってる。いざとなったらドロシーの顔を変える案まで出してた人間だ」
ジーンがじっとこちらを見つめる。
「……何だ」
「あんな美人を」
「別に変えた結果も美人なら問題ないだろ」
アンブローズは煙を吐いた。
「ともかく朝飯食ってこい。できる限り無言で食え。フラットカメラが仕掛けられてる可能性も考えて、なるべく食器に顔を向けるな」
ああ……と呟いてアンブローズは続けた。
「キッチンのコーヒーメーカーにあるエスプレッソは好きなだけ飲んでいい。アリスのブランド物のカップを使いたければ好きにしろ。ただし指紋も残さず洗え」
ジーンが「あーうー」と意味不明な呻き声を出し、頭を掻く。そのままノロノロと寝室を出て行った。
PCの操作パネルのついた椅子に座り、アンブローズは空中に投射された特別警察の施設内部の映像をじっと見つめた。
時おりいくつかある映像のうちの一つを拡大し、他の映像の奥に重なった映像と入れ替える。
寝室のドアが開いた。
「夕べ手を振ってた女の子ちゃん、いた?」
ジーンが頭にタオルを乗せて入室する。薄い色彩の金髪からはポタポタと滴が落ちていた。
朝食後にもういちどトイレに行った流れでシャワーまで使い、ついでにタオルを貸して欲しいと要求した。
今まで組んだ諜報担当に対してもこうだったのだろうかとアンブローズは呆れた。
「女の人ってお前言ってなかったか? 子って年齢なのか?」
操作パネルの上で指先を動かしながらアンブローズは応じた。
「些細な違いでしょ」
「大きく違うだろ。推定年齢どれくらいだ」
ううん、と呻いてジーンが宙を見上げる。
「一瞬だったからな……アリスちゃん以上、健康寿命内ってとこか」
「分からんと言ってるのとほとんど同じだ」
アンブローズは眉をよせた。
「例えば、目覚めたドロシーちゃんが潜入してるって可能性は?」
「三年間も寝たままだったんだ。療養室のベッドは多少は筋肉に負荷をかけて衰えを防ぐ機能はあるが、まだ危険なことができるほどの身体能力は戻ってないだろ」
そっか、とジーンは呟いてバサバサと髪の滴を落とした。




