Satellites “Tea party”2 人工衛星群ティー・パーティー2
アリスがふたたびホワイトボードをこちらに向ける。
花模様のティーセットから注がれる紅茶と思われる飲料と、クッキーの絵を見せた。
「 “ティーパーティー” で正解だってよ」
アンブローズはそう言い、短くなった煙草を消した。
「もうアクセス始めてます」
ジーンが苦笑いする。
「とりあえず護衛アンドロイドのデータ保存して切るか」
画面のアリスを眺めつつアンブローズは言った。待機状態にすることもできるが、いったん切った方が面倒を避けられるだろう。
「通信切るって伝える」
ジーンが護衛アンドロイドのデータ画面を開き、モールス信号を打とうとした。
「待て。お前じゃまた疑われる」
アンブローズは横から手を伸ばしてキーボードを打った。
“了解。いったん切る。口腔ケアして寝ろ”。
ジーンが顔を歪める。
「 “おやすみアリスちゃん” って打とうとした……」
「お前はまだまだあのお嬢さまとの付き合い方が分かってない」
アンブローズは煙草のソフトパックを手に取った。軽く振り、一本を取り出して咥える。唾液を染みこませて今日何本めになるのか分からない煙草の火をつけた。
「ドロシーちゃん、何かあったの?」
改めてキーボードを創作しながらジーンがそう切り出す。
「いなくなったそうだ」
アンブローズは短く答えた。
「拉致」
「……とも考えられるが」
先日の看護師の姿をしたアンドロイドの襲撃以降、関係者が生身かどうかもチェックに入れるよう准将に進言した。
その裏を掻いて生身の人間に襲撃させた可能性も考えられなくはないが。
「……“隠密”の通信記録なんて、それこそ双子素数の暗号を何重にも解くつもりじゃねえと覗けんだろうしな」
「どういうこと」
「目覚めて密かに上官と連絡を取ったのかもしれん」
アンブローズは煙を吐いた。
「ちなみにドロシーちゃんって、看護師さんに挨拶もしないで帰っちゃうタイプの子?」
「この前の件があるんで、看護師は疑うよう准将を通じて伝言を残してた」
アンブローズは緩く腕を組んだ。何気に時計を見る。今日は徹夜になるだろうか。
准将からまた連絡があった際には、寝たふり必須だなと考える。
「准将があわてた口調じゃないところをみると、少なくとも拉致ではない確証はあるんだろうかとか」
アンブローズはゆっくりと煙を吐いた。
「ブランシェット准将ってあわてたりする人?」
「何があっても、のんびり微笑してる」
ジーンがキーボードを操作する手を止める。
「ドロシーちゃんの目が覚めたとして偶然? 何か計ったようなタイミング」
そう言い、ふたたび操作を始める。
アンブローズも同じことを考えていた。
隠密が情報を取られそうな際に意識的に昏睡状態に陥らせる機能を持つ脳内のチップ。
重要な情報の流出を防ぐのと、隠密を拷問の苦痛から逃れさせるためのものなのだろうが、そもそもいつ目覚めるかはプログラムされているのだろうか。
ドロシーが三年間も眠ったままでいることから、単に人工的に植物状態に陥らせるだけの装置と考えていたが。
水蒸気の煙を吐く。
彼女が情報将校の中の情報将校ともいえる隠密ある以上、兄と慕っている自身にも内密にしていることは山ほどあるのだろうが。
「そういえば “隠密” の上官って誰。そもそもいるの?」
ジーンが尋ねる。
「知らん」
「非常時には全階級に命令できる権限を持つって言っても、隠密を取りまとめるか、せめて助言する立場の人は必要だよね?」
アンブローズは返事をせず煙を吐いた。
「でないと権限の濫用を防げないんじゃ……」
空中の画面に次々とデータを羅列した画面を開きながら、ジーンがしばらく黙り込む。
「……ていうか、隠密って複数いるの? ドロシーちゃんだけ?」
「そんなん知るか」
アンブローズは煙草を強く吸った。
「仲間同士で権限の濫用を監視し合う感じになるのかな」
「それは考えられるな。俺らも将校のプライベートの内偵とかやらされる時あるしな」
サイドテーブルに置いた灰皿をアンブローズは指先で自身の近くに引き寄せた。とんとんと灰を落とす。
「内偵か。何回かやったことある。おかしな付き合いがないかとか、変な思想の団体に取り込まれてないかとか」
「まあでも」とジーンは続けた。
「俺なんか、アンと組むまで隠密の存在なんて都市伝説だと思ってたもんね。隠密に上官がいてもさらに極秘に決まってるだろうけどさ」
空中に次々と “ティーパーティー” のものらしきデータ画面が開かれる。
各国の人工衛星の軌道や位置のデータも同時に覗いているとアンブローズは気づいた。
「思うんだけどさ。これ航空宇宙軍に話通さなくて大丈夫?」
キーボードを操作しつつジーンが問いかける。
「バレたらあとで准将が話つけるだろ。やれ」
アンブローズは煙を吐いた。




