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FACELESS フェイスレス  作者: 路明(ロア)
16 S/C:Tp./人工衛星群ティー・パーティー

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bird, bush, bull2 鳥、草、牡牛2

 ジーンの襟首(えりくび)から手を離し、アンブローズは次に打つ言葉を指示した。

「真面目に要点のみ伝えろ。“伝えたいことはあるか?”」

 ジーンが即座にモールス信号を打つ。

 アンブローズは相方の手元に目線を落とし、打っている内容を念のため確認した。

 “元気? 伝えたいことある?”。

 「元気?」は要らんが、まあいいかと思う。

「 “潜入の目的は?”」

 立体画像を見つめながらアンブローズは次にそう打つよう指示した。

「潜入?」

 ジーンが怪訝な顔をする。

「わざと連行されたんだろ」

 アンブローズはそう言い煙草を強く吸った。

「少なくとも逮捕、連行は予想していた。下手すりゃ、そう仕向けた」

「いくら何でも八歳の女の子が。そこまでは考えすぎでしょ、アン」

 ジーンが顔を歪める。否定しているというより、そうであって欲しいという方の表情に見える。

「言ったはずだ。あれをただのフランス人形だと思うな」

 アリスが膝の上にホワイトボードを置く。

 何色かのペンで、幼女のお絵描き風絵柄のヒエログリフを描いた。

 ボードを縦にしてこちらに見せる。

「ええと」

 ジーンが少し身を乗り出し、画面を凝視する。

「 “あなたのお役に立ちたかったの” 」

「 “具体的に” 」

 そう打て、とアンブローズは指示した。

「アン、もう少し優しい言い方しない?」

 ジーンが苦笑しながら、“もう少し具体的に言える?” と打つ。

 アリスが不審げな顔をした。ふたたび(ひざ)の上にホワイトボードを置きヒエログリフを書き足すと、こちらに見せる。

 ”本当にあなたなのかしら?”。

「ほれみろ」

 目を丸くしているジーンの横に手を出し、アンブローズは自ら信号を打った。

 “時間を無駄にせず答えろ。なお救出の予定は無いのでそのつもりで”。

 アリスが合点が行ったような顔をする。

 “潜入の目的を具体的に”。

 改めてそう打つと、アリスはニコニコと笑い頷いた。

「……何が二人の間に伝わったの」

 ジーンが苦笑する。

「ふだん素っ気ないのにいきなり優しくなったら、偽者かと思うだろうが」

「……そういうこと」

 「素っ気ないって自覚はあったんだ」とジーンが続ける。

 アリスがふたたび膝の上にホワイトボードを置く。今度は少し長文のようだ。

 ジーンが画面の右上にヒエログリフとできうる限りの古代の絵文字の一覧表を用意し、身を乗り出す。

 アリスがホワイトボードをこちらに向けるとすぐに一覧表と照合し始めた。

 “特別警察の指令部と会議室、オフィスのいくつかに転写型の盗聴システムとフラットカメラを仕掛けました。お役に立てて”。 

「はぁ?!」

 二人同時に声を上げる。

「ちょっと待て! どうやって仕掛けた」

「転写型の盗聴システムとフラットカメラなんて、諜報やってる人間が使う奴なんだけど。どこで」

 どこで買ったと言おうとしたらしいジーンの顔を、アンブローズは横目で見る。

 アボット社製だろ、と言いたいのを察したようだ。「ああ……」と呟いてジーンが力の抜けたような顔をする。

 “どうやって仕掛けた。危険なことはしてないだろうな“。

 アンブローズは自らそう打った。

 アリスがホワイトボードに書きこむ。

 “心配してくれて嬉しいわ”。そう描いたボードを顔の横に掲げ、にっこりと笑う。

 “質問にのみ答えろ“。そう返信すると、“レディにそこまで答えられませんわ“ と返された。

「レディに答えられない方法って? ハニートラップ?」

 ジーンが鼻白んだ感じで言う。

「八歳のハニートラップに掛かる奴っているのか?」

「いやそれ以前に、全員アンドロイド……」

 ジーンが苦笑した。

「察するところ、“おトイレ行きたい” と “帰りの通路で迷っちゃった” を何べんかやったとか」

「もううちの参謀部でスカウトした方がいいんじゃ……」

 “了解”。

 一応そう返信したが、アンブローズは煙草を手に考えこんだ。

 コード転写型の盗聴システムもフラットカメラも、人工衛星を経由して使うものだ。

 特に、転写されたコードを人工衛星が読み取り周辺の音を拾う盗聴システムの方は、NEICに乗っ取られた形の特別警察の施設内で、スクエアーを経由して使えるものなのか。

 コードは(ほくろ)程度の小さなものなので、極めてバレにくくて便利なのだが。

 アリスがまた何かを描き始めた。

 黙って煙草の煙を吐き、アンブローズはその様子を眺める。

 ややしてからホワイトボードをこちらに向けた。

 ”アボット社のものを使ったと思っております? 残念ですわね”。

「は」

 アンブローズは目を丸くした。

「おいジーン、俺の心の中、お前勝手に打ちやがったか」

「どうやってやるの、そんなこと」

 ジーンが顔を歪める。

 ホワイトボードに描いたものを消し、ふたたびアリスがヒエログリフを描き出す。ボードを胸元に掲げた。

 “NEIC製を使いましたわ。ここの社の人工衛星が受信したものを、スクエアーで傍受していただけます?”。

「は?」

 ジーンが大きな声を上げる。

「人工衛星からの傍受となると、衛星同士をいくらか近づけないと。バレないかな」

 ジーンが指先を動かす。言っている内容をそのまま打つのか。

 打ち始める前に、アリスが新たなヒエログリフの文章を見せた。

 “NEICにクラッキングを仕掛けまくった甲斐がありましたわ”。

 男二人で身を固まらせてアリスの手元のホワイトボードを凝視した。

「このためだったのか?」

「……怖い。コーラルピンクのテディベア怖い……」

 ジーンが椅子の背もたれに(すが)る。

 ずいぶんと特殊な怖がり方だなと思いながら、アンブローズはアリスの映る画面をじっと見つめて煙草を吹かした。





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