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FACELESS フェイスレス  作者: 路明(ロア)
12 LC/接触ライン

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38/92

Line of Contact1 接触ライン1

 ハイゲート墓地の入り口手前。

 ジーンの運転する小型トラックから降りると、アンブローズは、バン、と音を立ててドアを閉めた。

 防弾盾バリスティック・シールド代わりにも使われる軍の車両のドアと比べると、一般車両のドアは薄く華奢な印象だ。

 わざと着古したように汚した作業着に身を包み、荷台に乗せたシャベルやツルハシを手に取る。

 少し曇った空だが、気象予報では今日一日雨は降らないとのことだった。

 別に土砂降りでも構わず決行するつもりではいるが。

 入口の石造りのアーチを眺める。背景には木々が生い茂り、いい感じに不気味だが死角が多いのは嬉しい。

「車、駐車場に置いて来ますね、現場監督(スーパーバイザー)

 ジーンが形だけは成り切って作業用の帽子の(つば)を引く。

「墓の改葬業者のリーダーも “現場監督” なのか?」

 アンブローズは問うた。

「さあ。これは成り済ましたことなかったから。無難に “リーダー” とかにしとく?」

 ジーンが(あご)に手を当てる。

「……名前でいい。ヒラの同僚同士ってことにしとけ」

「了解、アン。車置いてくる」

 軽く敬礼すると、ジーンはトラックを発車させた。

 今まで他の諜報担当とあまり組んだことはなかったが、組むとこういう面倒臭い打ち合わせをいちいちするんだろうか。

 それともジーンが特別に面倒臭い相方というだけなのか。

 業者用の駐車場までトラックを移動させると、ジーンは同じようにシャベルとツルハシを手に降りてきた。

 駆け足でこちらに戻る。

「墓掘りの許可は取ったか」

 入り口のアーチを(くぐ)りながらジーンに確認する。

「取った。NEIC重役の名前で。改葬したい遺骨が数柱あるって」

「その重役が気づく前に終わらせないとな」

 アンブローズはシャベルの柄を肩に乗せた。

 アーチを抜けると、石造りの壁に挟まれた通路が延々と続く。

 壁には扉のない大きな出入り口がいくつも並び、中は真っ暗だ。

「この奥なに? 納骨堂か何か?」

 ジーンが奥を覗きこむ。

「骨が縦並びになってたポイントはどの辺だ」

 すたすたと前を歩きつつアンブローズは尋ねた。

「割とすぐだよ。そんなに奥じゃない」

 ジーンがそう答える。

「できる限り死体を運びやすい位置を押さえたのか……?」

 アンブローズは呟いた。

 ジーンがブレインマシンにアクセスしてくる。諜報担当専用のチャットルームに促すと、チャット内で地図を広げた。

 任務上で保護した人間との連絡用にも使われるチャットルームだ。

 ここはそうそう覗かれる心配はないだろうが、基本的に簡単な会話専用だ。あまり大量の資料には使えない。

 それでも地図一枚くらいならいけるのかとアンブローズは空中に表示された地図を眺めた。

 目的地らしき場所にコミカルな髑髏(どくろ)のアイコンがある。

「……何だこのアイコン」

「何にしようか迷ったんだけどさ」

 無駄に神妙な表情でジーンが答える。

 アンブローズはあえて無視して周囲の鬱蒼(うっそう)とした木々を見回した。

 回廊を抜ける。

 深い林の中に、様々な形をした石造りの墓碑が点在しているといった感じの光景だ。

 近くに人はいないようだが死角が多く、人がいたとしても近くに寄られるまで気づかない可能性もありそうだ。

「この辺か……?」

 木々を掻き分けて数歩ほど進み、アンブローズは横たわる女性を型どった墓碑の横で立ち止まった。

 掘りやすそうなポイントにシャベルの刃先を突き立てる。

「その辺かな」

 ジーンがそう答えた。

 石造りの女性の顔が、先日療養所で襲って来た戦闘用アンドロイドに似ている気がするが偶然か。

「表向きは、市役所職員パティ・ヘルソン名義になってるけど」

 同じように木々を掻き分けてこちらに近づきジーンが答える。

「パティ・ヘルソンは、NEIC役員の一人、ビル・セアーの内縁の奥さん」

「これのために偽装離婚したとかもあり得るのか……?」

 墓碑横の柔らかな土を掘り始めつつアンブローズはそう問うた。

「あるかもね。これはどうか分からないけど」

「もしそうだとしたら、よく承知したな。女の側」

 アンブローズはシャベルの足掛けに片足を乗せ、グッと体重をかけた。

 じめじめと湿った土の匂いがする。

 土が柔らかいのは幸いだが、掘り起こしてさほど時間が経っていない証明になるのか。

「思ったんだけどさ、アン」

 一メートルほど前方を掘りつつジーンが口を開く。 

「国家転覆を狙ってる国に(くみ)してるわけだよね、NEIC」

 顔を上げ、アンブローズは眉をひそめた。同じ界隈の人間だ。何が言いたいのかピンと来る。

「……女の側がナハル・バビロンの工作員……?」

「そういうのも有りかなって」

「有りか」

 言いつつさらに掘り進める。

「探れば探るほどややこしいのが出てくる感じだな」

「そもそも独立したばっかりの小国が他国相手に国家転覆を狙うとしたら、工作が一番安全で確実でしょ」

 ジーンがシャベルの足掛けに体重をかける。わざと汚した作業靴の靴底でグッと踏みつけた。

「現代の戦争は、交渉と諜報がほぼすべて。教育過程でそう習ったじゃん」

「ああ。初等部で」

「中等部じゃなかったっけ」

 ザッ、ザッと土を掘る音がする。

「初等部の終了直前頃だ」

「中等部に進んだ直後とかじゃなかったっけ」

 お互いしばらく無言で掘り進める。

「……まず棺が出るのか」

 掘りつつアンブローズはそう呟く。

 「たぶん」とジーンが返答した。





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