表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FACELESS フェイスレス  作者: 路明(ロア)
11 S/C:Sq./人工衛星スクエアー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/92

Satellite Square4 人工衛星スクエアー4

 リビングの方に戻ると、アリスがおとなしくテーブルに着いていた。

 空中をじっと見つめているところをみると、暇つぶしにブレインマシンで本でも読んでいたのか。

 アンブローズは、テラスに面した大きな窓を見やった。陽が傾きかけている。そろそろ夕刻近い。

 そんなに長時間詰めてたか。

 無言でテーブルの片隅に手を伸ばす。置き忘れた煙草(たばこ)のソフトパックを手に取った。

 おもむろに一本を唇で咥え、引き出す。

 火をつけるが、唾液を何本分も続けて分泌させていたことで、唾液の出が悪い。

「終わりましたの?」

 小さな手を米噛みに当て、アリスは視線をこちらに向けた。

「ジーンがまだ頑張ってる。俺は煙草取りに来ただけだ」

 アンブローズは水蒸気成分の白い煙を吐いた。

「ハイゲートではありませんでしたの?」

「まだ分からん。大きな墓地だからな。目視で探すとなると、思ってたより広い」

 煙草を指で抑えながら、アンブローズはテーブルの上を見た。先ほどの抹茶のケーキは、まだ手をつけずに箱の中だ。

「もう暗くなる。お嬢さまは帰れ」

 もういちど外を眺めてアンブローズはそう告げた。

「他の場所を見るとしたら、まだ必要ではありませんの?」

「必要ならメールで連絡……」

 言いかけて、アンブローズは「ああ……」と呟いた。

 メールは覗かれてる可能性があるんだったと思う。今の時代には当たり前の習慣なだけに、どうにも忘れる。

「やはり泊まりこみますわ」

 アリスがそう言う。

「ジーンと交代で仮眠取りながらになるかもしれん。お嬢さままで泊められるか」

「貞操の心配をしていらっしゃるのなら、あなたを信じていますから大丈夫ですわ」

 アンブローズは眉をよせた。

 もはや言葉を返す気力もない。

「……それはともかくだ」

 無視して灰皿に灰を落とす。

「アン」

 寝室に通じるドアが開き、ジーンが顔を覗かせた。

「白骨死体が数体、縦に並んでるの発見」

 アンブローズは目を眇めた。

「服装はスーツか? ブランドは?」

 煙草を咥え、早足でジーンの元に歩みよる。

 「いや……」とジーンは顔を歪めた。

「俺もそれ想像してたんだけど、考えてみれば服を剥いだ方が身元が分かりにくいし、殺害後に本人の着てた服を着るってのも考えられるよね?」

「ああ、成程」

 アンブローズはそう返答した。

 成り済ましはこちらの本分だ。確かに服装の情報は大きい。

「ということは刺殺や射殺じゃないのか? 出血の少ない方法か……」

 寝室に入る。

 ドアを閉める前にアンブローズはいちど振り向いた。

「お嬢さまはケーキ回収して暗くならんうちに帰れ。これがビンゴならしばらくここ留守にする」

「ごめんね、アリスちゃん。これからアンとベッドルームで朝まで二人きり……」

「要らんジョーク吐くな」

 ひらひらと手を振るジーンの腕をつかみ、アンブローズはドアを閉めた。

「どこだ」

 指で煙草を押さえつつ空中に投影された映像を見つめる。

 ジーンが操作パネルの上で指先を動かし、映像の角度を二、三度変えた。

 他の火葬の骨よりも深い位置。四体の骨が、横たわった格好で縦に重なるように並んでいる。

「何でこの並びだ」

「多分、一体ずつ棺に入れたんじゃないかな。明度の調節していけば棺も見えると思うけど」

 ジーンが操作パネルに置いた指を小刻みに動かす。

「いちおうは不審がられた際の工作はしてんのか……」

「火葬の墓地に棺ってのが頓珍漢だけど」

 ジーンが苦笑する。

「アンドロイドがこの手の偽装すると、不可解な偽装になるっていうよな。いまいち生身の人間のセンスが分かってないから。そう言ったのお前だっけ?」

 アンブローズはリビングから持って来た灰皿に灰を落とした。

 玄関の方からドアを開け閉めする音がする。

 アリスが帰ったかと判断した。

「これが当たりなら、遺体処理したのはアンドロイドか……」

 空中の画面を見詰めながらジーンが(ひじ)掛けに頬杖をつく。

「まあ、わざわざ生身の人間にやらせる意味もないしな。たいていのアンドロイドに比べたら腕力ないだろうし、忌避感で失敗される恐れもあるし」

「骨に何か特徴ないかな……」

 ジーンが操作パネルの上で指を滑らせ、少しずつ拡大する。

「やっぱ届けてない機能いろいろありそうか? スクエアー」

 アンブローズは空中の画面を見つめた。

「アボット社製のものなら、防犯カメラと各種レーダーカメラ、コード転写タイプのGPS盗聴器まで、その気になればスクエアーからすべて感知可能みたいだね」

 そういえば一晩中の行動を各所のカメラから追われてたことがあったなとアンブローズは思った。

「これで捕まったら、児童少年法で無罪とか言い出すんじゃないだろうな、あのお嬢さま」

 アンブローズは軽く顔をしかめた。

「墓地内の誰の所有地か特定できるか? NEICが購入した土地なら、それなり攻める材料になる」

「あの紙の資料と照らし合わせることになるんだけど……」

 操作パネルの上で指を動かしながらジーンは苦笑した。

「ブレインマシンかどっかにバックアップ取ってないのか、お前」

 「つまり一人で照会作業しろと」とジーンが呟く。

「必要事項の照会と準備ができ次第、ハイゲートに出発する。適当な理由つけて軍とは関係ない車調達しとけ」

 アンブローズは煙草を灰皿に押しつけた。

「割と人使い荒い方すね、大尉(キャプテン)

「墓掘りには一緒に行ってやる」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ