Satellite Square3 人工衛星スクエアー3
昼間もカーテンを閉めっ放しのため、薄暗い寝室。
陽光の透ける安物のカーテンをジーンがめくり、外の景色を眺める。
「これ、外を警戒して閉めっ放しにしてんの? 今さらかもしれないけど、ここまでするならもう少し設備が整った所を拠点にしてもよくない?」
そう言いスッと閉める。
「特に関係ない。仮眠取るときいちいち閉めるのが面倒くさいから閉めっ放しにしてる」
「了解です」とジーンが答える。
アンブローズは、椅子の肘掛けに付いたPCの起動パネルに触れた。
空中に「welcome」の文字が大きく表示される。
「いま遺伝子認証の登録する。お前のDNAデータ覗くぞ」
「どうぞ」とジーンが返す。
軍の名簿にアクセスする。活動内容によっては諜報担当のDNAデータは機密扱いにされ特定の階級以上でないと見られないこともあるが、そこまでではないらしかった。
そういや、本来はNEICの監視ていどの任務だったとブランシェット准将が言っていたか。
諜報担当としてのIDを書き込み、表示されたジーンのDNAデータをコピペする。
「遺伝子認証」の項目を選び、パスワードを書き込む。
ちらりとアンブローズは背後を見た。
何の遠慮もなくジーンが後ろから眺めている。
「……何見てる」
「パスワードって何にしてるのかなと思って」
ふつう見るか、とアンブローズは顔をしかめた。
「その人の一番大事なものに関連した単語だったりすること多くない?」
「知らん」
アンブローズは素っ気なく答えた。
「これ統計取っとくと、傍受とかクラッキングで意外と楽なんだよね。だから常にしてる」
どこまでが趣味で、どこからが任務について勉強熱心なんだか。アンブローズは眉をよせた。
とりあえずは見ないようにか、ジーンがあさっての方向に顔を向ける。
しばらくして「登録が完了しました」との表示が出た。
「よし使え」
椅子から離れ、アンブローズはジーンに座るよう促した。
「アボット社の “スクエアー” か。こんな時じゃないと、さすがに手は出せないな」
ジーンが明らかにうきうきした表情で肘掛けの操作パネルに手を置く。
背もたれが少し後ろに反れた椅子に座り、ややしてから満面の笑みでアンブローズの方を振り返った。
「少しシステムのデータ取りながらでもいい?」
「勝手にしろ」
アンブローズは周囲を見回し、ベッドの横のサイドテーブルに置いた灰皿に灰を落とした。
データを取ったのがバレるか、データを利用して侵入したかの際にアリスと一悶着あるかもしれんが、任務完了してバディが解消されたあとなら知ったことじゃない。
肘掛けの操作パネルの上で指先を動かし、ジーンが画面を見つめる。エンターキーを入力してる率がずいぶん高い気がするが、まあいいかと思いアンブローズは背後で煙草を吹かした。
「ハイゲート墓地って、火葬? 土葬?」
ジーンが尋ねる。
「今どき都市近郊で土葬があるか。火葬のはずだ」
「カトリックの多い国なんかだと都市のど真ん中で骸骨並べてる国とかあるじゃん」
「カタコンベか?」
言いつつ空中の画面を眺める。
アボット社の専用人工衛星、スクエアーから傍受された画像が読み込まれ始めた。
土の中の真っ暗であろう画像を、明るめのライトを照らした感じに加工してくれてるのは非常にありがたい。
「傍受した分、少し画像落ちてるかな? それでも充分だと思うけど」
ジーンが呟く。
「充分だ」
アンブローズは身を乗り出し画面を見た。
タッチパネルの上で指先をスッと動かし、ジーンが画面の角度を変える。
「ここまでの機能、アボット社で何に使うつもりだったんだろ」
「俺に聞くな」
アンブローズは指で煙草を抑えた。
「火葬なら、殺害後にそのまま埋められた遺体との区別は簡単そうだけど」
ジーンがスクエアーの撮影した画面を次々と表示する。
「深さは同じかな?」
「他の遺体より少し深めの場所も表示しろ」
アンブローズはそう指示した。
火葬された遺体よりも五メートルほど下の地下部分までが表示される。
所々に火葬された骨が小ぢんまりと纏められた形で映っていた。
「骨の位置がちゃんとそろってる遺体があったら可能性が高いのか……特別警察の上役」
ジーンが呟く。
始め静止画だった画面が、徐々に動画の形になってきた。
じっと骨の埋まる箇所を目で追う。
「……ちなみに別の殺人事件の被害者の遺体を見つけてしまった場合はどうするでありますか、大尉」
画面を見ながらジーンがそう問う。
「無視する」
アンブローズはそう答え、水蒸気の煙を吐いた。
ややしてから少し考え言い直す。
「保安局に通報して恩を売る。いざというとき、何らかのカードになるかもしれん」
「さすがであります、大尉」
ジーンが苦笑する。どうせ同じこと考えてたろとアンブローズは思った。




