Satellite Square2 人工衛星スクエアー2
「分かりましたわ」
膝に両手を乗せ、アリスが凛とした口調で声を上げる。
咥え煙草のままアンブローズはアリスと目を合わせた。
「あなたが前時代的に、あくまでも生きていた年数でわたくしを計りたいのなら仕方ありませんわ」
アリスは、ツンと顎をしゃくった。
「今回は協力致しますわ。でも、一つ条件がありますの」
「条件」
アンブローズは復唱した。
「十年後なら言ってくださる?」
アンブローズは無言で眉をよせた。
「呑んで! これくらいの条件なら呑んでいただかないと、話が進まないであります。大尉!」
ジーンが右手を挙げる。
「分かった」
アンブローズは答えた。
灰皿に灰を落とす。何の交渉なんだこれはと眉間に皺をよせた。
アリスが米噛みのあたりに手を当てる。ブレインマシンを起動させたのか。
「まずはどこですの? スクエアーから撮影した動画を転送しますから、緯度と経度をおっしゃって」
アンブローズは、ジーンに目配せした。
「まずは近場のハイゲートか?」
言いながら自身のブレインマシンを起動させる。ジーンが頷いた。
「座標を送る」
空中に付近の地域の地図を表示させる。
ハイゲートに場所を絞って行くと、右下に表示された座標の数値が目まぐるしく変わる。
「緯度51.588、経度-0.072、DMS緯度51°35'17"N、DMS経度0°4'19"W」
「移動や姿勢変化はない対象なので、他の機能は必要ありませんわね」
淡々とアリスがそう問う。
「違法……」
宙を睨みながらアンブローズはそう呟いた。
「大尉、このさい聞かなかったことにすべきであります!」
ジーンが苦笑した。
ブレインマシンに合成開口レーダーで撮影したハイゲート墓地の地下動画が読み込まれる。
虹色の分かりにくい画像だった開発当時の時代のものと比べて、今は現地で撮影したかのような現実的なカラーに変換されて表示されるので分かりやすい。
それだけに、埋まっている骨の画像はリアルだが。
地下に埋まる棺。
その中のバラバラになった白骨の動画が読みこまれ、アンブローズは眉をひそめた。
「分かった。お嬢さまはここでいい。ジーン、あとスクエアーから傍受しろ」
「傍受」
米噛みに手を当てつつジーンが戸惑った表情をする。
「お前なら簡単だろ」
「……ブレインマシンからできるかな。足付きそうなんだけど」
「何なら俺のPC使え。遺伝子認証の登録してやる」
アンブローズはPCのある寝室の方に顎をしゃくった。
「なにをわざわざ手間のかかることをしていらっしゃいますの?」
アリスが顔を上げる。飴色の眉をよせた。
「子供の見るもんじゃない」
アンブローズはそう答えた。煙草を灰皿で消し、ソフトパックに手を伸ばす。
空中に表示されたブレインマシンの画像を見つつ、口で煙草を引っ張り出した。
「また子供扱いですの?」
アリスが唇を尖らせる。
「子供だ」
「ああもう、その堂々巡りやめようよ」
ジーンが顔をしかめる。
「お嬢さまはあとはそこの豆料理みたいなケーキ処理してろ」
アンブローズは、ケーキの箱を指差した。「抹茶ね」とジーンが訂正する。
「衛星の持ち主を除け者にするんですの?」
「上手く行きゃ、この先映るのはボロボロのスーツ来た白骨死体だ。見たいか」
アンブローズは煙草に火をつけ水蒸気の煙を吐いた。
「葬式の綺麗に整えられた死体と違う。お嬢さまはそれすら見たことない年齢だろう」
「お父さまのものは見たことありますけど」
「ジーン、傍受」
無視してアンブローズはジーンに向け顎をしゃくった。
「了解」
ジーンが米噛みに手を当てる。
しばらくしてから席を立った。
「やっぱりブレインマシンじゃ容量不足だ。PC使わせて」
「遺伝子登録する」
アンブローズはジーンを寝室に促した。
複雑な表情でアリスが二人の動きを目で追う。
「つまり、わたくしは利用されましたの?」
アリスがきつく眉をよせる。あくまで恋愛ドラマごっこをしたいのだろうか。
アンブローズは振り向いた。
「お嬢さまのためだ。愛してるってのは、そういうことだろう」
途端にアリスが全身を固まらせる。ややしてからその体勢のまま顔を真っ赤くした。
「別の場所をさらに探ることになるかもしれんから、お嬢さまは俺にとって必要だ。そこにいてくれ」
寝室に入室しながら、ジーンが小声で「さすが」と呟く。
「任務のためならハニトラも厭わない人は違う……」
「ハニトラに入るか。ただの子供のお守りだ」
アンブローズは小声で反論した。




