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FACELESS フェイスレス  作者: 路明(ロア)
09 FAC/フィッシュ・アンド・チップス

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30/92

Fish-and-Chips3 フィッシュ・アンド・チップス3

 備えつけの加熱調理器具で温めたフィッシュ・アンド・チップスをジーンがテーブルに運び雑に置く。

「伝統食だな」

 アンブローズは煙草(たばこ)を消した。

「ふだんは何食べてんの」

「ヴェネツィアの伝統食」

 パスタか、とジーンが呟く。

「ずーっと吸ってたけど、煙草止まんないのって口寂(くちさみ)しいから?」

 ジーンが問う。コーヒーメーカーで自動的に作られた薄いアメリカン風のコーヒーをカップに注ぎ、テーブルに置いた。

「アリスちゃんなんて、何食べてんの。フランス料理とか?」

「おフランス料理についての見解を前に語ってたな」

 アンブローズは長細くカットされたポテトを口に運んだ。

「 “イタリア人が不味いと押しつけた黒トリュフを、高級品だとありがたがるお国のお料理なんて間抜けにしか思えませんわ” だと」

「トリュフで決めんの……」

 ジーンが顔をしかめる。

「ガキなんだから、ピーマンでも食ってればいいのにな」

 アンブローズはポテトだけを続けざま口にした。

「トリュフとかああいうのって、いまだ高級品なんだね。工場で量産できそうなもんなのに」

 ジーンが椅子を引きテーブルに着く。

「ああいうのは生産量コントロールして値が落ちないようにしてる」

「あ、そうなの」

「前に潜入した所でやってた」

 アンブローズは薄いコーヒーを飲んだ。


「話変わるけどさ」


 (たら)のフライをバイオプラスチックのフォークで切り分けながら、ジーンが切り出す。

「アンドロイドに擦り替えられた特別警察の幹部って、遺体はどこにあるんだろ」

「お前……食事どきに」

 アンブローズは顔をしかめた。

 言うほど気にしてはいないが、いちおうマナーではと思う。

「探した?」

 構わずジーンがフォークでこちらを指す。

「ぜんぜん。場所の見当もつかないし、とりあえず一人で集められる証拠に全振りしてたからな」

 そう言いアンブローズは薄いコーヒーを飲んだ。

「ずっと単独行動だったわけ?」

「基本的にはな。当初はドロシーの起こしたあの事件に、国家転覆の計画が関係してるとは准将も思ってなかったみたいだし」

 アンブローズはポテトをつまんだ。

「国家転覆計画の情報って、最初は別ルートからつかんでたの?」

「別ルートだ。詳細は知らん」

 アンブローズは答えた。

「そもそもあの事件で官庁ビルにいる要人に擦り変わるとして、遺体はどうするつもりだったんだろ」

 フォークで刺した(たら)のフライをジーンが(かじ)る。

 サクッと音がした。

「三百余人もの遺体をどう処理するつもりだったのかな。薬品で溶かすにも設備が要るし、埋めるにしても街中で三百余人って運ぶのも大変そうだけど」

 アンブローズはソイソースを探して、テーブルに置かれた調味料の容器を見た。

 何を探しているのかという感じで、ジーンが目線を追ってくる。

「ソイソースないか」

 アンブローズはそう尋ねる。

「何に使うの」

「フライ」

 複雑な表情でジーンはテーブルの上に目線を這わせた。

「ソイソース使ったことなかった」

「お前とはやっぱ味覚合わん」

 仕方なくウスターソースを手に取る。フライにかけながら「続きいいぞ」とジーンの話を促した。

 ああ……と返答しながら、ジーンはウスターソースのかけられる様子を目で追っている。

「一斉に擦り変われる機会を狙ってたわけだよね、あの事件の日って。何かあったっけ」

「国会の予算委」

 フライをフォークで切り分けながら、アンブローズはそう答えた。

「弱いなあ」

 ジーンが眉をよせる。

「強いも弱いもあるか。いちおうは議員がすべて集まる」

「本当に全員いたのかな」

 フライを口にしつつジーンが呟く。

「当日、審議が気に要らんとか言って、議員が数人ボイコットしてた」

「誰と誰。党は? 同じ?」

 フライを噛りながらジーンが問う。

「その議員数人がNEICとグルだって可能性は? 手引きしたとか、騒ぎが起こるのを事前に教えてもらってたとか」

 ジーンがフォークでこちらを指す。

 行儀悪いなこいつと思いながらアンブローズはフライを噛った。

「中には党が同じやつもいるが、全員一緒ってわけじゃない。そのうち二人は当時、審議拒否の常習だった」

「誰。そういう人に票入れてんの」

 ジーンが顔をしかめる。

「片方はアボット社が支持してる議員だ。社員はこいつに入れろと選挙時は無言の圧力をかけられる」

「アリスちゃん……」

 ジーンが眉をよせる。

「この日は軍と保安局の上層部も合わせて七名ほど来てた。直前にスパイが逮捕されてて、その証言のために」

「けっこう要人そろってんじゃん」

 ジーンが言う。

「誰? 予算委なんて弱いとか言ったの」

「お前だろ」

 アンブローズは眉根をよせた。

「その頃に逮捕されたスパイってどこのだっけ。ナハル・バビロン?」

「いや。別の国」

 アンブローズはそう答えて薄いコーヒーを口にした。

「そっか。俺も気をつけよ」

 そうジーンは言い、ポテトを摘まんだ。





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