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FACELESS フェイスレス  作者: 路明(ロア)
09 FAC/フィッシュ・アンド・チップス

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29/92

Fish-and-Chips2 フィッシュ・アンド・チップス2

 窓からは、NEICの工場の建物が見える。

 比較的人口の多い界隈に建てられていることから、都市計画法と景観法の観点で、建物は自然に近い緑色にデザインされていた。

 窓から見ると、一瞬大きな森のように見える。

 一般的なアンドロイド工場に比べると、やはり規模は大きい。

「国家転覆なんて俺も思いついてびっくりしたけど、アンに正解だって言われてさらにびっくり」

 ジーンがガサガサと棒つきの(あめ)の包みを開ける。不気味な大きい黒い飴を口にした。

 見ているだけで口の中に黒砂糖を突っこまれた気分になり、アンブローズは顔をしかめる。

「さて、どこから証拠を固めるか」

 アンブローズは、この部屋の小型アンドロイドを横目で見た。

 むかしの都市マスコットのようなデザインのアンドロイドは、部屋の片隅で後ろを向き、充電器につながれている。

「電源は落としてあるよ」

 目線に気づいたのか、ジーンが言う。

 アンブローズは軽く息をついた。

 ここで話が筒抜けになっては、わざわざ上層部を盾にして上官にグチられた甲斐もない。

「電源を落としていても非常電源で自動的に録音されるとか送信されるとかって機能があったら、保証できないけど」

 黒い飴を口から出し、ジーンが言う。

「……あんまり安心はし切れないな」

「部屋で一人で倒れた場合とか緊急事態に備えての機能は、今どき標準装備だからね。内部をいじった痕跡が残ったら怪しまれるから、下手にぜんぶ触るわけにもいかないし」

 米噛みに手を当て、アンブローズはNEIC製の家庭用小型アンドロイドについてのデータを検索した。

 一般の広告文と取扱説明書くらいしか出てこない。

 軍の方の情報は、今のところこれには触れてすらいない。

 「なので」と言ってジーンが飴を口から出し入れする。

「いちおう電源オフ時には、ニセの映像と音声が流れるよう仕掛けてある」

「ニセのか」

 アンブローズは煙草を指先でとんとんと叩き、灰皿に灰を落とした。

「ゲイポルノのアッなシーンを適当につなぎ合わせて加工したやつ」

 あははははと声を上げてジーンが笑う。

 アンブローズは、きつく眉をよせた。こいつのわけの分からんおふざけが早速きた。

「……何でノンケのポルノじゃ駄目なんだ」

「そっちは何か気恥ずかしいでしょ?」

 飴を口から出したり入れたりしながらジーンが返す。

「出入りしてる俺が誤解されるだろうが」

「今さらぁ。入室して何分経つの」

 ジーンがゲラゲラと笑う。

「ゲイのふりは不必要じゃないならOKじゃなかったっけ、大尉(キャプテン)

「不必要だ。今から別のに差し替えろ」

「幼女がひたすら素数を読み上げてるってのも考えたんだけどさ」

 飴の棒をつまみジーンは宙を見上げた。

「どうせなら、NEICの社内調査部の皆さまにも楽しんでいただきたいじゃない?」 

「楽しくない」

 アンブローズは眉をよせた。

「そんなのが楽しいのはアリスお嬢さまくらい……」

 そこまで言ってから、ふともう一度アンブローズは電源の落とされたアンドロイドを見た。

 野暮ったい曲線を描く背中をじっと見る。

「……こんな物までクラッキングしてこないだろうな、あのお嬢さま」

 煙草の灰が落ちそうになる。アンブローズは、あわてて指先で叩き灰皿に落とした。

「ここまではやらないでしょ。俺には興味ないってはっきり言ってたし」

 頬杖をついてジーンが笑う。

 ややしてから、何か思い出したように宙を見上げた。

「この前NEICの機密用のシステムに入ってたら鉢合わせしたけど」

 飴を手に持ち、ジーンが宙を見上げる。

「あれ、たぶんアリスちゃんでしょ」

「確かか」

「サイバー空間の移動の仕方とか、欲しい情報のさがし方とか逃走経路とか、ざっくり特徴が出るんだよね」

 ジーンはそう言い、片手をくるくると回す仕草をした。

「何かこう、コーラルピンクのテディベアがシステム内をものすごいスピードで飛び回ってるみたいなイメージの侵入が検知された」

「……意味分からん」

 アンブローズは眉をよせた。

「そのままお嬢さまの盗んだ情報の送信先でもSNSの極秘アカウントでも侵入できるなら伝えとけ。専用人工衛星の不正に軍が気づきそうだぞって」

「キンキン声で直接ここに抗議に来られたら怖いんだけど」

 ジーンは苦笑した。

「総帥直々に何探ってんだ」

 アンブローズは呟いた。

「確かにバレたら大事(おおごと)だねえ」

 声を上げてジーンが笑う。

「他の社員には任せられない内容でもあるのか……」

「バレても八歳女児なら、知らずにやっちゃいましたぁで済むからじゃない? 総帥は別人の三十八歳男性ってことにしてるんだし」

 ジーンは飴を片手に持ちコーヒーを飲んだ。

「そういうことか?」

 アンブローズは、自身の前に出されていた薄いコーヒーに目線を移した。

 忘れていた。保温プレートなどは置いていないので、すっかり冷めていそうだ。

「となると、あと数年は女児の特権を使いまくるだろうね。アリスちゃん」

「嫌な子供だな」

 アンブローズは眉間に皺をよせた。





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