Combat Nurse4 武装ナース4
アンブローズは眉根をよせた。
「聞き出そうとしても意識を失くして逃れるドロシーより、俺の方が容易だと思ったか?」
「アン! 拷問されても話すなよ! 絶対に助けるからな!」
首をがっちりと固定された格好でジーンがわめく。
「首つかまれて動けない奴が言うな」
アンブローズは横目で見て呆れた。
「今のところはお前が人質だぞ。分かってんのか」
アンブローズは、銃口を示す意味で自身の米噛みをつついた。
不意にジーンが真顔で言う。
「俺なら、大勢のゲイにやられる拷問がいちばん嫌かな」
アンブローズは、つい思い切り嫌悪感に満ちた表情になり眉をよせた。
「……わざわざ敵に拷問方法の提案してどうする気だ、お前」
「性的嫌がらせは、われわれにはどれほど嫌なのかは理解はできませんが」
遣り取りをじっと見ていた女が、無表情で口を挟む。
「だろうな」
「嫌がる者が大半というデータに基づいて、拷問方法を選択します」
「拷問する前提で話すな。趣味悪いな」
アンブローズはさらにきつく眉をよせた。
女のスケルトンの瞳の奥から、かすかな機械音がする。
「どれほど嫌がるかのデータ解析はじめてんじゃないの?」
女の顔を見上げてジーンが言う。
「だいたい拷問は違法だろうが」
アンブローズは答えた。
出入口のドアの向こうから、複数の靴音が響く。
ドアが開き、土埃色の軍服の女性軍人が三人ほど入室して銃を構えた。
「どっち」
彼女らを横目で見やりジーンが尋ねる。どちら側の味方だという意味だろう。
「たぶんこっち」
そうアンブローズは答え、アンドロイドの女を真っ直ぐに見た。
「誰かの遺伝子情報で入りこんだなら、あるていどの時間が経てば気づかれるに決まってんだろうが」
「ここの看護師二名の遺体を抑えています」
女性軍人の一人が声を上げる。
ひえ、と声を上げてジーンが苦笑した。
「不法侵入目的の第一級殺人、及び一般習俗と葬制に反し遺体を遺棄した容疑で拘束します」
「人質を離しなさい!」
別の女性軍人が声を張る。
「アンドロイドだ」
女を顎で示し、アンブローズは女性軍人たちにそう告げた。
女性軍人たちは、女の両側と後方にゆっくりと動いた。
一人が女の後頭部にぴたりと銃口をつける。
「その角度なら、患者のベッドにも当たらない。撃て」
アンブローズは指示した。
アンドロイドの女が、ジーンの首をさらに締め上を向かせる。
ジーンは、ゲ、とも、ウェ、ともつかない声を上げた。
「ちょ、待って。貫通して俺にも当たんない?」
ジーンが苦笑する。
アンブローズは腕を伸ばし、女の額に拳銃をピッタリとつけた。
「くだらない拷問のネタ提供してる間に逃げられたろ」
ジーンは苦笑した。
「だいたい、お前は何かっていうとゲイジョークしか思いつかないのか」
「この手のネタは結論がないから、時間稼ぎしやすいんだよねえ」
はは、と笑いながらジーンが答える。
「OK。んで」
アンブローズは言った。
「資料見たってことは、このタイプの決定的な弱点も知ってんだろ」
「アン……」
「フルで呼べ」
相方の苦悶の表情には関知せず、アンブローズは淡々とそう要求した。
「資料が膨大だったんで、検索して引き出すのに少し時間がかかった」
ジーンが苦笑する。
アンブローズは女に突きつけた銃をジーンの眉間に移動させた。
「今すぐ該当資料を抜粋して俺のブレインマシンに送るか、ひとことで明瞭に吐け」
おいおい、とジーンは苦笑した。
「ワルサー社のP-2099。P-99の改良復刻版とはセンス良いですな、大尉」
「人が何の銃使おうが大きなお世話だ」
「18.9ヘルツ」
ジーンは言い合いに紛れ込ませるかのような声で、ぽそっと言った。
軽く目を見開いてから、アンブローズは言わんとしていることを推察した。
「超低周波だ。技術班に連絡つけろ」
アンブローズは女性軍人たちに指示した。
女性軍人たちが一瞬だけ目を合わせ合い、一人が米噛みに手を当てる。
ブレインマシンにアクセスしたと思われた。
アンドロイドの女はジーンを離すとピンヒールで床を蹴り、連絡をつけようとした女性軍人に飛びかかった。
「ぐっ」
女性軍人の頬を殴りつける。
避け損ねて、女性軍人は床に叩きつけられた。
「クッ……」
土埃色のタイトスカートから伸びた脚を踠くように二、三度動かし、床を這う。
アンブローズと残りの女性軍人は一斉に女の背中を撃った。
看護服と柔らかいコラーゲンスポンジの肌に弾丸がめりこむ。
服の焦げ目から細い煙が立ち上がったが、女の動きは変わらなかった。
手近にいた他の女性軍人の腕をつかみ、先ほどジーンにしたのと同じように首に腕を回し締め上げる。
「ハッ!」
女性軍人はタイトスカートから伸びた脚を肩幅ていどに開くと、勇ましい掛け声を上げ、女を背負い投げの要領で床に叩きつけた。
アンドロイドの女の長身の肢体が床を滑る。
「うっわ」
ジーンが呟く。
「うわじゃねえ。何でお前はあれやらなかった」
アンブローズは眉をよせた。
「万が一ドロシーちゃんのベッドを壊しちゃったらって思ったんだよう……」
わざとらしい泣き真似をしながら、ジーンは弾丸の数を確認した。
「壊されてもカプセル内の生理食塩水がこぼれて床が水浸しになるだけだ。それだけでは死なない。金魚じゃあるまいし」
アンブローズは言った。
女性軍人が女を引きつけている間に、自身も弾数を確認する。
荷電粒子を発射するいわゆる光線銃もだいぶ前に開発されてはいたが、周辺の機器や電波への影響がある場合もあり、まだまだ日常的には弾丸を使った銃が重宝されていた。
発砲の際の轟音で手っ取り早く周囲に危険を知らせることができるというのも、むしろ合理的な武器だと捉えられている。
床に激突したときの音からして、女はかなり軽量化したタイプのアンドロイドと思われた。
腕力よりも身軽さを重視したタイプかと推測する。
「18.9ヘルツの超低周波っていうと、むかし幽霊が出る周波数とか言われてたやつだな」
アンブローズはそう切り出した。
「超低周波に知らずに反応して幻覚幻聴が起きてたパターンがちょくちょくあったせいで、そういわれてたとかいう」
「それは知らなかったけど」
肩凝りをほぐすように首を左右にかたむけジーンが言う。
「一部のアンドロイドは、機能向上に特化したあまり人間の低周波過敏症と同じような反応をするのがいる」
「聞いたことはある」
アンブローズは答えた。
「この機種は、主に18.9ヘルツでそれが起こるんだってさ」
「人工脳に不具合が起きる訳か」
改めてアンブローズは女に銃を向けた。




