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FACELESS フェイスレス  作者: 路明(ロア)
06 CCCC/チョコレート,チョコチップ,チーズケーキ

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18/92

Chocolate,Choc Chip and Cheesecake4 チョコレート,チョコチップ,チーズケーキ4

「うちはコラーゲンスポンジを覆うシリコンフィルムに、光透過性の高い物を使っていますから、アンドロイドの肌はもっと透明性があって綺麗ですの」

 上品に両手を組みアリスはそう説明した。

「透過性を高める原材料の割合は、うちの機密ですからお話はできませんけど」

「肌」

 アンブローズは呟いた。

「他人の肌なんか気になさらない方でしょ」

「自分のすら気にしたことない」

 強く煙草(たばこ)を吸いアンブローズは答えた。

「しかし、そんなもんに気づいたとしても確かな証拠にはならんしな」

「生身の幹部がアンドロイドに擦り変わってるって?」

 ジーンが(ひじ)をつき控え目に右手を挙げる。

 煙草を指で抑えアンブローズは横目で見た。

「……何」

 ジーンが不審げな顔をする。

「いや」

 アンブローズは灰皿に灰を落とした。

「いっぺん話したつもりでいたんだが、考えてみれば、それ話したのはお前の偽物だった」

 不意に隣の建物から男女の怒鳴り声が聞こえた。

「何ここ、壁うっす」

 ジーンがそちらを振り向く。

「どちらかというと下流の地域だからな」

 アンブローズは灰皿に灰を落とした。

「あのとき会話はどれくらい聞こえてた」

「大半は聞こえてないよ。二階のトイレにいたし」

 ふたたび手を上げジーンが答える。

「もう一回説明しなきゃならんのか……」

 アンブローズは煙草を強く吸った。

「面倒くさ」

「しょうがないでしょ」

 ジーンは言った。

「言葉通りだ。特別警察の生身の幹部は、三年前までにすべてそっくりのアンドロイドに擦り変わってる」

 ジーンはしばらく無言でアンブローズを見ていた。

 ややしてから「うっわ」と呟く。

「あの事件の前にもう変わっていましたの?」

「何それ。目的は?」

「順番に質問しろ」

 アンブローズは眉をよせた。

「目的は、幹部を国体護持の妨げとなる個人及び団体と見做した」

「まじ?」

 ジーンは顔をしかめた。

「おそらく幹部の中にも、あの事件の前に何か気づいていた人がいたんだろ」

「聞くの怖いんだけど、遺体はどうなってんの……」

 恐怖に(おのの)いた表情でジーンが問う。

「所在不明。見つかればいい証拠の一つになると思うが、遺体探しまでは正直手が回らないままだった」

 アンブローズは灰皿に煙草を押しつけた。

 ソフトパックから新たに一本取り出し、火をつけてから続ける。

「つか誰も本物が死んでるとは言ってないが」

「アンは生きてると思ってんの?」

 ジーンは頬杖をついた。

「思ってない。フルで呼べ」

 アンブローズは言った。

「わたくしもアンってお呼びしてよろしいかしら」

 組んだ手に小さな(あご)を乗せてアリスが問う。

 アンブローズは無言で顔をしかめた。

「今まで何て呼んでたの?」

 ジーンが尋ねる。

 アリスは不快そうにジーンの顔を見たが、ややしてから得意気に答えた。

「 “あなた” ですわ」

「おお……」

 かなり複雑な表情でジーンはアンブローズと目を合わせた。

「何を言ったらいいの? こういうの」

「俺にか。お嬢さまにか」

「取りあえずお嬢さまに」

「 “口腔ケアして寝ろ” 」

 アンブローズはそう答えた。

「だとさ」

「子供扱いですわ」

 アリスはコーラルピンクの唇を尖らせた。

「子供以外の何ものでもないだろう」

「精神年齢を無視して、実年齢だけで人を語るのは前時代的だと思いますの」

「いまだ確かな数値データで示すこともできない分野を、主な判断材料にする気はない」

 アンブローズは灰を落とした。

「軍人って、本当、頭が固いんですのね」

「いや……いろいろだよ」

 ジーンが苦笑する。

「まあいいですわ。お土産いただきましょ」

 アリスは持参したケーキの箱を自身の方に引きよせると、小さな手で青いリボンを解き始めた。

「今日は「スイート・ティニー・メイデン」の、チョコチップ・チーズケーキ期間限定カレンベリーとシブーストクリームですわ」

「さっき聞いた」

 アンブローズは言った。

「ヴィラーニ社のオレンジ・ペコーとなら、最高でしたのに」

 アリスは飴色の眉をよせた。

「持参するか自宅で食えと何度言ったら」

「ヴィラーニ社創業者のご先祖に当たる侯爵は、とある下級貴族の美少年に狂ったように入れ込んで、(かくま)った庶民の男に拳銃を突きつけて少年を連れ戻したあと、私室に軟禁してついには口説き落としたそうですわ」

 頬に小さな手を添えてアリスが語る。

「こっわ」

 ジーンは顔を歪ませた。

「そのエピソードが気に入ってヴィラーニ社の紅茶飲んでんじゃないだろうな、お嬢さま」

「狂おしい恋の味がしますの」

 しみじみと言いアリスはケーキの箱を開けた。

「そんなもん感知する味覚があるのか」

 ふわりと漂ったクリームの甘ったるい香りに、アンブローズは顔をしかめた。

「俺は要らん。ジーン食え」

「何その、突撃を人に押しつけるみたいな口調」

「普通の(いちご)ケーキだよね?」

 ジーンは立ち上がり、ケーキの箱を覗きこんだ。

「わたくしが厳選したお店の、おすすめ品ばかりをいつも持参しておりますわ」

「甘いもの好きが甘いもの好きに勧めたものを俺に食わすな」

 アンブローズは口を押さえ眉間に皺をよせた。

「アンは基本、甘いもの嫌いらしいよ」

 横の相方を指差しジーンが言う。

「フルで呼べ」

「あなたに教えられる筋合いはございませんわ。本妻はわたくしですから」

 よく通る声でアリスが言う。

 ジーンが複雑な表情を浮かべこちらを見た。

「俺は独身だ」

 口を抑えながらアンブローズは反論した。

「あー、あのさ、アリスちゃん」

 ジーンが苦笑する。

「アンは、ドロシーちゃんていう彼女がいるみたいだよ?」

「何を言っておりますの? ドロシーさんはこの方の妹さんですわ」

 アリスは言った。

「妹」

 ジーンがふたたびこちらを見る。

「……うるさい」

「まだ何も言ってないよ」

 ジーンは真顔で答えた。





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