Chocolate,Choc Chip and Cheesecake2 チョコレート,チョコチップ,チーズケーキ2
「会話内容まで感知すんの使ってんのか。通信法でかなりグレーだと思うが」
煙草を指で挟み、アンブローズは前髪を掻き上げた。
「スクエアーは、軍にとってもお役に立てる性能を有していると思いますわ。保安庁が乗り出すようなことはしない方がお得ですわよ」
アリスが言う。
「軍人を脅迫か。すげえ八歳児だな」
アンブローズは緩く腕を組んだ。
アリスがジーンをちらりと見る。
「あなたくらい有能でいらしたら、応援なんて必要ないと思いますのに」
「要る。いつまでも上官に連絡係の真似事させるわけにもいかんし」
アンブローズは言った。
「ご自分で応援を要請なさったの?」
「自分で言ったが」
「ご自分を過小評価しすぎですわ」
「お嬢さまが過大評価しすぎだ」
アリスは可愛らしく肩をすくめた。
「ブランシェット氏はお顔はよろしいけど、軍人としては性格が優しすぎるきらいがありますわね」
アリスはそう言い室内に入ると、背伸びしてテーブルの上に持参のケーキ箱を置いた。
勝手知ったる感じで、椅子の座面に手をつき座る。
護衛アンドロイドが手助けするより先に、ついアンブローズが手を貸していた。
「それは同感だが、あの人は何をしても敵だけは作らんという、上役としては案外最強な特技がある」
「お紅茶、お願いできます?」
アリスがそう注文する。
「今日は「スイート・ティニー・メイデン」の、チョコチップ・チーズケーキ期間限定カレンベリーとシブーストクリームお持ちしましたの」
「Cの多いネーミングだな」
「お客様が来ているのなら、知らせて欲しかったわ」
アリスは唇を尖らせた。
「来る前に連絡すれば済む話なんだが」
「これから頻繁に出入りするようになる方なら、今度はこの方の分もお持ちしますわ。二人で過ごすにはお邪魔な方ですけど」
アリスにチラッと睨むように見られて、ジーンは鼻白んだ表情をした。
「今までの数量で大丈夫だ。俺は食わない」
「そちらの方は? いちおう味の好みを聞いて差し上げますわ。お邪魔ですけど」
もういちどジーンの方を振り返りアリスが言う。
「ジーンと言うんですけど。お嬢さま」
苦笑しながらジーンが名乗る。
「こいつは手土産を食わせても大丈夫だ。お嬢さまと同じで砂糖の塊に平気で口をつけられる奴だ」
「もう好みを把握していらっしゃるの? いつから組んでいらっしゃるの?」
「初顔合わせは十日くらい前か?」
アンブローズは、煙草を咥えた。
「わたくしの好みを把握するのは一ヵ月かかったのにですの?」
「甘いもの好きって情報を脳が拒否した」
アンブローズは横を向いて煙を吐いた。
「いや……そうじゃないんだよねえ」
アンブローズの背後から、おもむろにジーンが両腕を回した。
恋人を抱き竦めているかのような、怪しげな仕草だ。
「おい……」
アンブローズは顔をしかめた。
横目で背後を睨み、抗議の意思を示す。
「お互いに出逢った瞬間から引かれ合ったというか……どうしようもない情熱を感じたというか……」
そう言い、頬にキスするふりまでする。
アンブローズは、顔を横に逸らした。
アリスが大きな青い目をぱっちりと見開き、二人の様子を見詰める。
「子供には分かんないだろうけどさ」
ジーンはそう言い、アンブローズの後頭部に顔を埋めた。
かすかに震える腹部が背中に当たる。
何が面白いのか知らんが、笑いをこらえながらやってんじゃねえ、とアンブローズは内心で毒づいた。




