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FACELESS フェイスレス  作者: 路明(ロア)
05 DNR/蘇生法を行うな
13/92

Do Not Resuscitation1 蘇生法を行うな1

 ジーンと組み始めて一週間。


「それで、アン」


「赤毛の女みたいな呼び方するな」

 アンブローズは顔をしかめた。

「略称そんなとこかなと思って」

「忘れた」

 唐突に何だこいつと思う。いちおうこっちが階級は上なんだが。

「人に会話聞かれた場合、“ダドリー大尉” 呼びだと具合が悪いし。かといって “アンブローズ” ってフルだと呼びにくくない?」

 いつの間にかタメ口になってるなとアンブローズは思った。

 確かに組んで仕事をするなら、この方がいいが。

「あんまりない名前だから俺も略称何だったか」

 ジーンは右耳のあたりに手を当てた。

 検索しているのか。

「……アン、アンバー、ローズ、ロージー」

 ジーンがしばらく無言で一点を見つめる。

「女の子みたいなのばっかだなあ」

「……フルで呼べ」

「んじゃアンブローズ」

 ジーンは言った。

「特別警察を探ってるんでしたっけ。クイーン・ゲートの無差別射殺事件の方だと上官からは聞いてましたけど」

 アンブローズは煙草(たばこ)を強めに吸った。

 ここ一週間たびたび会って本物の軍の応援だと分かった以上、さっさと要点を説明しておくかと思った。

 灰皿に煙草を押しつける。

「あれは無差別じゃない。特別警察のアンドロイドだけを撃った」

 ジーンは薄青の目を見開き、こちらを凝視した。

「犯行人の正体は、軍属のドロシー・G・D」

「……ドロシーちゃん、速射の腕凄いな」

「お前の問題はそこか」

 アンブローズは軽く顔をしかめた。

「何のことはない。あの場には、特別警察のアンドロイドしかいなかった」

 ジーンは眉をよせ、不可解な表情をした。

「軍の自動小銃だったのは、他のものを持ち出す暇がなかったからだ」

 アンブローズはそう話した。

 煙草のソフトパックを手に取り、一本取り出す。

「俺は応援が来るのを待てと言ったが、現場にいたドロシーは “間に合わない” 」と言った」

「うん?」

 ジーンはきつく眉を寄せた。

「組んで仕事してたんですか?」

「組んではいない」

 アンブローズは言った。

「知り合い?」

「まあ、知り合いだ」

 何か言いたそうにジーンはこちらをじっと見た。

「……何だ」

 アンブローズは目を伏せ、煙草を吸った。

「軍属のって? ドロシーちゃんの階級は?」

「階級は無い」

「無階級」

 コーヒーカップを揺らしながらジーンは呟いた。

「軍施設で生まれながらも軍人として不適合だった、もしくは遺伝子の性質の様々な分析と能力から、諜報担当の中でも特に隠れた活動をする ”隠密”(ステルス・オフィサー)として育成された」

「後者だ」

 アンブローズはそう答えた。

「ちなみに無階級である代わりに必要と判断された際には、全階級に指示できる権限を持ってる」

「最強のハートの女王さまじゃないですか」

 ジーンが目を丸くする。

「素性は公的なデータにはない。生まれてからその後のデータも、すべて軍の最高機密データに移されている。データを盗み見るなら、通常のセキュリティに加えて、三千桁の双子素数を利用した鍵暗号を解析しなければ見られない」

 煙草の火が、先端でジジと音を立てる。

「量子コンピューターも、まだまだ双子素数は苦手だからな」

 アンブローズは煙草の灰をトントンと落とした。

「あれ、同時並列に計算できるとかじゃなかったでしたっけ」

「双子素数はなぜかちょくちょく混乱するらしい」

 アンブローズは言った。

「軍仕様のものはともかく、通常の鍵暗号はいまだむかしながらの素数なんですよねえ」

 ジーンがコーヒーカップを回して砂糖を溶かしながら頬杖をつく。

「リーマン予想、十年以上前に解かれてんのに」

「当時は解いた奴をCIAが拘束して監禁するとかいう都市伝説が一瞬マジになりかけたらしいな」

 アンブローズは軽く眉をよせた。

「コストの問題もあるんで、一般のやつは今のところ(けた)を増やして対応してるのがけっこう残ってるらしいが」

 アンブローズは灰皿に灰を落とした。

「特別警察が射殺事件の犯行者の素性にたどり着けなかったのは、まあ、そういうことだ」

「無階級の隠密(ステルス)なんて都市伝説かと思ってたわ。基本、諜報担当にも隠されてませんか」

 ジーンがコーヒーカップを回す。

「機密中の機密の一つだ」

「その機密のドロシーちゃんと、どうやって知り合ったんですか?」

「クイーン・ゲートの事件の詳細を説明する」

 アンブローズは、横を向き煙草の煙を吐いた。

「話逸らしました?」

 ジーンが眉をよせる。

「報道で流されてた現場映像が、加工されたものだって話は一般にも知られてるらしいが」

 アンブローズはそう切り出した。

「映像で道路中に流れていた、えらい感じの血液は付け加えられたものだ。実際はオイルが少々こぼれてたくらいか。被害者は、駆けつけた救急隊員に、自ら “蘇生法(ドゥ ノット )を行うな(リサスシテイト)” と言った」

 アンブローズは灰皿に灰を落とした。

「だが脈を取るとすでに止まっていたので、救急隊員はその場で固まった」

「……怪談ですか」

「お前、オカルト好きだな」

 アンブローズは眉をよせた。

「怪談っぽい言い回しするからでしょ」

「簡単だ。アンドロイドだから、脈なんか始めからない」

 アンブローズは煙草を強く吸った。

「その後、数分後には現場付近は封鎖、この一部始終は隠蔽(いんぺい)された」

 アンブローズはそう説明した。

「特別警察が、救急隊員には口外しない旨を直筆でサインさせ、救急隊員は給料が少々上乗せされた」

「生々しいな」

 ジーンは顔をしかめた。

「封鎖したのは特別警察と軍、隠蔽したのは、特別警察とアボット財閥。隠蔽協力、軍とNEIC」

「敵味方入り交じって、どういうことですか」

 ジーンが問う。

「隠蔽しなきゃ大いに不味(まず)かったのは、特別警察とNEIC、そのままでは不味いが、軍に協力すれば不味いのは何とか免れるのがアボット財閥、特別警察の調査の必要性を感じ、保安庁に邪魔されたくなかったのが、軍」



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