『短編』片思いの幼馴染に惚れ薬を飲ませてみたがいつもと態度が変わらない件について『完結してます』
「やあやあ、巧。わざわざクリスマスイブだというのに私の部屋に来るなんて、君はよっぽど暇人なんだねぇ」
「お前が来いって言ったんだろうが!! それでなんだよ、このメッセージは……今度は何を作ったんだよ?」
「くっくっくっ、どうせ一人で寂しいクリスマスイブを過ごす君に素敵なサプライズさ、世紀の発明に立ち会えるんだ。感謝したまえ」
楽しそうになんかうさんくさい液体を掲げているのは俺の幼馴染の川瀬渚だ。腰まである長い絹の様にサラサラの黒い髪に整った綺麗な顔立ちとの美少女だが、制服の上に白衣という奇抜な恰好のせいで台無しになっている。いわゆる残念美人というやつだろう。
そんな彼女からのラインは『世紀の発明である新しい薬ができた。実験したいから来い』の一言である。いや、何言ってんだよって思うよな。俺もこいつの事を何も知らなければそう思って鼻で笑うだろうさ。だがこの女は無駄に天才なのだ。
始まりは小学校の時である。しゃっくりを100回したら死ぬという迷信を信じていた俺が50回目くらいでガチ泣きをしていたら、「くっくっくっ、いいものをあげよう」という悪役っぽい笑い声と共に変な薬を渡されて、当時無垢だった俺が疑う事もなく飲んだ結果。三十分ほど笑いがとまらなくなったものだ。おかげでしゃっくりは止まったが、笑いすぎて息も止まるかと思ったわ。
「で、今回は何を作ったんだ? この前渡された薬を飲んだ時は顔が真っ赤になって、先生に校内で酒を飲んだと勘違いされたんだが? それともあれか、また体臭が蜂蜜になる薬か? あの時は蜂に襲われて泣きたくなったんだが……」
「あれは実にいい成果だったねぇ。でも、巧は蜂蜜が大好きじゃないか。嬉しかったんじゃないかな?」
「あくまで味と匂いが好きなだけで、蜂蜜みたいな体臭になりたいわけじゃねえよ!?」
「ふぅん、ワガママだね。まあいいさ、聞いて驚くがいいよ。今回のこれは惚れ薬だ!! なんとこれを飲んでから、最初に見た人間に惚れてしまうのさ!!」
「は……? 惚れ薬だと……」
なんかこいつエロ同人の導入みたいなことを言いだしたんだが……俺は彼女が自慢げに掲げる泥のような液体を眺める。まずそうな見た目なのに匂いは、無駄に蜂蜜みたいでいい香りなのがむかつくな。部屋全体が蜂蜜臭いのはこれが原因だろう。それにしても、惚れ薬って、恋愛的に惚れてしまうってやつだよな。こいつ何でこんなもの作ってるんだ? 年中実験ばかりのこいつに恋愛とか興味があったのが驚きである。
「ああ、心配はいらないよ。既に実験で問題が無い事は証明されているし、効果も別に永続というわけではないさ、半日だけだ。大体12時間ほどで体内に完全に吸収され、効果は消えるから安心したまえよ」
「いや、安心できねーよ。万が一最初に男を見たら俺はホモになるのか?」
「くっくっくっ、そうだね、新しい扉が開いてしまうかもしれない。ああ、だがそれもまた面白いな。同性への恋愛感情と異性への恋愛感情の違いを分析するいいサンプルになるかもしれないねぇ」
「なんでお前の実験でホモにならなきゃならねーんだよ!! 惚れるならせめて可愛い女の子がいいわ!!」
楽しそうに笑う彼女をみて俺はげんなりとした表情でツッコミをいれる。相も変わらず、イカレた物をつくっている渚だが、こいつの事だ……実験をしたと言ったといているし、俺に飲ませるという事は命には問題はないレベルには完成しているのだろう。
「でもさ、俺がここに飲んだら、渚に恋をしちゃうんだぞ。いいのかよ」
「くっくっくっ、幼馴染は異性というよりも家族のようになりやすいというからね、好都合だよ。むしろ、長い付き合いによる情を、惚れ薬がもたらす恋愛感情が凌駕するどうかのいいテストになるんじゃないかな? さあ、飲みたまえよ、巧」
俺の名前のルビがおかしいような気もするが、今更である。俺はずっとこいつのモルモットのように変な薬を飲み続けていたのだ。だけどなぁ……惚れ薬か……別に試してもいいんだが、一個大きな問題があるんだよなぁ……
「なんだよ、今日はずいぶんノリが悪いじゃないか。そんなに私に好意を抱くのが嫌なのかな? 子供ころは一緒にお風呂だった入って仲じゃないか。君が私に恋をして変な性癖を押し付けようとしても、私は引かないよ。むしろ人間の性癖の多様さを学ぶいい機会だとすら思っている」
「一緒にお風呂入ったのは小学校低学年の頃だし、お前が作ったスライム風呂のせいでおぼれかけたのは絶対忘れねえよ!! てか、お前こそ俺に惚れられていいのかよ!?」
「実験だともわかっているし、私は別にかまわないんだが……でも、そんなに君が嫌なら私だって無理強いはしないさ。他の人に頼むかな……」
渚は俺の言葉に唇を尖らせて不服そうにする。薬の力で渚に惚れるっているのはちょっと抵抗があるが、仕方ない。協力するか……だって、彼女が俺以外に惚れられて……言い寄られる姿何てみたくないんだよな。
「わかったよ、そこまで言うなら実験に手伝ってやるよ」
「本当かい、流石、我が幼馴染話がわかるね!!」
「だからルビがおかしくねえか!? 効果が無くてもしらねーからな」
俺の言葉に興奮しながら彼女は何やら準備を始める。でもさ、多分惚れ薬なんてのんでも効果ないと思うんだよな。だって俺はもう、目の前のこいつに惚れちゃってるんだからさ。
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好きな人がコーヒーを淹れてくれるのを座って待つ。それはまるで新婚生活なり、同棲カップルみたいで憧れたりする人もいるのではないだろうか? そういう俺だって、憧れているよ。でもさ、現実は過酷である。
目の前の飲み物はコップの代わりにビーカーに入っているし、なんならコーヒーだけじゃなくて惚れ薬入りである。自分の分も淹れたらしく、俺と彼女の分をテーブルに置く渚を見て俺は溜息をつく。
「ほら、君の好きなコーヒーに混ぜておいたよ。遠慮なくいきたまえ。あ、ついでに味や飲みやすさも教えてくれると助かる。今後の参考にしよう」
「この悪魔の実験をこれからも続けるのかよ……てか、なんでいきなり、惚れ薬何てつくったんだ?」
俺の言葉に彼女が珍しく暗い表情になる。それを見て、俺は地雷を踏んでしまったのかと、慌てて話題を変えようとするが、その前に彼女が口を開いた。
「ああ、簡単さ、うちの両親が今不仲でね……」
「まじか、ごめん……」
「まあ、嘘なんだが……我が家は相も変わらずラブラブだよ。まあ、二人の世界をつくってくれているから放任主義で私も助かっているだけどね」
「そうだよなー!! そういや、この前も二人で旅行に行ってたもんな。しかもその間、料理をしにお前の家に行ったもんなぁ」
「ごめんごめん、でも、君の作ってくれた料理のおかげで私も栄養価が偏らないで助かっているんだ。感謝しているんだよ」
俺は先月の事を思い出す。こいつは自分の両親がいないときには平気でご飯を抜いて研究をするから困るんだよ。子供のころからなんだかんだと面倒を見ていたら、いつのまにか、彼女のお世話係みたいになってしまったのだ。なんかあっちの両親も「いつも悪いわねぇ」とか言って旅行に行く時とかは、食費と手間賃を渡してくれるからな。
まあ、好きな女の子の世話をして頼られるのは悪い気はしない。それだけ信頼されているって事だからな。俺はビーカーに入った惚れ薬入りのコーヒーを見ながら思う。
でも、こいつは俺の事を何とも思っていないんだろうなぁ……この前だって、彼女の世話をしている時にお風呂で着替えている彼女に遭遇するというラッキースケベイベントがあったのだが、笑いながら「ああ、ごめんごめん。粗末なものをみせてしまったねぇ」と言っていただけだったし……ちなみにいつもだぼだぼの白衣だったからわからなかったが意外と大きいなとか、湯上りだからか、顔が上気して赤くて色っぽいなとか思ってその夜は悶々としてしまったのはここだけの話である。
「おっと、何やら母から連絡が来たようだ。失礼するよ」
俺が考え事をしていると、彼女はスマホをもって出て行ってしまった。本当に自由人である。俺は彼女が帰ってくるのを待ちながら惚れ薬入りコーヒーを眺める。
半日限定の惚れ薬か……また、すごいものを作ったよな。これを飲んだら最初に見た人間を好きになるらしい。ここには俺と彼女しかいないわけで……彼女がこれを飲んで俺をみれば半日限定とはいえ俺に惚れるのだ。
ビーカーをとっかえてしまえば彼女にもわからないんじゃないか? 俺の脳内に悪魔がささやく。惚れ薬の力と言えど、彼女に好きになってもらえるんだぞ。それに彼女に惚れている俺が飲むよりも、俺に恋愛感情を抱いていない彼女が飲んだ方が、研究の結果としてはよいのではないだろうか。
「違うだろ……それでいいのかよ」
彼女のビーカーと俺のビーカーをそれぞれの手にもったまま俺は首を振る。確かにクリスマスイブだし、半日だけでも好きになってくれたら嬉しいさ。でも、そのあとに残るのは虚しさではないだろうか。俺がするべきことは彼女に異性としてみてもらう事であって薬に頼る事ではないはずだ。
「ごめんごめん、時間がかかってしまったね。何を固まっているんだい?」
「うおおおお」
無茶苦茶悩んだ末に、戻そうとした時に渚が帰ってきてせいで俺はビーカーを落としそうになってしまった。そんな俺にきょとんとした顔を、死ながら見つめてくる。
「ふっふっふ、そんな風に見比べても味も見た目もたいして変わらないよ。君が飲みやすいようにしたからね。せいぜい蜂蜜の匂いがするくらいさ。それよりも電話をしたら喉が渇いてしまった。もらうよ」
「あ……」
そう言うと彼女は俺の手からビーカーを奪い取りコーヒーに口をつけた。いや、そっちは俺のビーカーなんだが……
渚は止める間もなくコーヒーを飲んでしまう。
「ん? 私の顔に何かついているかな? いいから君も早く飲みたまえよ、実験にならないじゃないか」
「ああ……」
俺がさっさと飲まないことに不満そうな彼女の勢いにおされてコーヒーに口をつける。こちらからも蜂蜜の匂いがするのはきのせいだろうか? ゆっくりと飲み干して彼女を見つめるが、あたりまえだが俺の心に変化はない。元々惚れているし、こっちには薬が入っていなしな。
「どうかな? 動悸が激しくなったり、私の事を好意的にみてしまったりしないかな?」
「いや……特に変化はないな」
「ふむ……」
俺の返事が不満だったのか。彼女は俺をじっと見つめる。そういうお前はどうなんだよと聞きたいが、事情が事情のため聞くことができない。というか、こいつもいつもどおりじゃないか? 自分で作った薬なのだ。もしも、惚れ薬が効いているのなら、こいつならば気づくだろう。
「やはり動物と人では効果の出るタイミングが違うのかもしれないね。あとはそうだな……周りの雰囲気によっては効きやすくなるかもしれないな。じゃあ、行こうか。現地で実験だ」
「行くってどこにだよ」
「決まっているだろう。デートだよ。幸い今日はクリスマスイブだ。カップルもたくさんいるし、比較対象には困らないからね。」
「はぁー?」
いきなりの提案に、俺の声が部屋に響き渡るのであった。
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あの後、俺はいったん家に帰ってから駅前で待ち合わせていた。近所だし、待ち合わせ何てしなくてもいいと思ったのだが、せっかくだからという渚の提案だ。あいつらしくない非効率的な行動だが、これも惚れ薬の効果を調べるのに必要なのかもしれない。
「やあ、待たせたね」
「え……渚なのか?」
「そうだよ、せっかくのデートだからね、お洒落をしてみたんだ。どうかな?」
「渚がまともな恰好をしているーーー!!」
俺に声をかけてきたのは黒のワンピースにオレンジのニットを着ている渚だった。いつもは制服か、ジャージに白衣というクソダサい恰好しか知らない俺は思わず大声で叫んでしまう。
いや、まじでそんな服持っていたのかよ。こうしてお洒落な恰好をして街にいると周りの男性たちが、目を向けるのもわかるというものだ。現にカップルの男子が、渚を凝視して、不機嫌そうな彼女に怒られている。
「フフフ、服装を変えるだけでこの反応……思っていたのとは違うが、ふむ……確かに興味深いね。それで、少しくらいは私にドキッとしてくれたかな?」
クソみたいな反応をしてしまった俺を興味深そうに見つめながら彼女は面白そうに笑った。くっそドキッとするじゃねえかよ。本当に可愛いな。
「ああ、悪かった。その……可愛いと思う」
「ほう、それはよかった。それでいつもと何か変わったことはないかな? 例えば脳内麻薬のドーパミンが過剰に分泌されているとか……」
「いや、普通に考えて、ドーパミンがでてるとかわかるわけねーだろ……」
「ふむ、具体的に言うならば、動悸が激しくなったり、私とちゃんと喋れなくなったり、私の目をみれなくなったりとかは……なさそうだね……」
「まあ、付き合いが長いしな……」
俺がいつものように彼女の目を見て、返事をすると、彼女はがっかりした顔をする。こいつは変な研究ばっかりしてたから覚えてないかもしれないけど、その症状は中学で経験済みなんだよ。もう、その段階は終わり、ちゃんと喋れるようになっているのだ。当時は本当にやばかったのだ。彼女を意識してしまい全然しゃべれなくなってしまったのだ。
こいつの事を異性として意識したのは中学の修学旅行の夜がきっかけだった。修学旅行の夜に、部屋でふと好きな人の話題になった時に、誰かが俺と渚の事をいじってきて、その場ではそんなんじゃないといったものの周りからはそう見えるのか、と気づいたのがきっかけですっかり意識してしまったのだ。
そこからはあっという間だった。なんか動悸が激しくなるし、目を見てしゃべったりできないし、ついつっけんどんな態度をとってしまい、それを認めるのがなんか恥ずかしくて、そして、ついには彼女を避けるようになってしまった。あの時は渚と喧嘩したのかと両親に心配されたものだ。まあ、それも時間が解決してくれたけれど、未だ恋心は健在である。
「そういう渚もそんな風にお洒落をしちゃって何か変化があるんじゃないのか? 例えば俺に惚れたりとか……?」
「はっはっはー何をわかりきったことをきいているんだい? いつも通りに決まっているじゃないか。私は常に自己分析をしているんだ。感情に変化があったらすぐにわかるさ。これはあくまで君の気持ちをのせるための行動にすぎないよ」
俺の恐る恐るとした質問は鼻で笑われてしまった。なんてこった……この惚れ薬マジで効果ないんじゃないか? 実験失敗なんじゃないのか?
「まあ、いいさ。まだ変化がおきてないようだね、ならば、より変化がおきやすいようにするだけさ。さあ、行こう。この日のためにちょうどいい場所は調べてあるんだ」
「ちょうどいい場所ってどこだよ……」
がっかりしたような安心したような複雑な気持ちになりながら、とりあえず俺は彼女についていくのであった。
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「吊り橋効果っていうのを知っているかな? 恐怖や緊張からくるドキドキ感を、一緒にいる異性への恋と勘違いするという心理効果だね。これにより惚れ薬の効果が促進されるかもしれない。というわけでい行くよ」
「いやいや、渚様マジ勘弁してください。むりむりむりむり、かたつむり。俺がお化け苦手なの知っているだろ」
「はっはっはー。安心したまえ、お化け何て非科学的だし、万が一いたとしても、ここで死者は出ていないから無害だよ」
「そういう問題じゃねーんだよなぁ……」
彼女についていった俺は商業施設の一角にあるお化け屋敷の列へと連れていかれた。確かに周りはカップルだらけだし、いつの日か、恋人ができたらこういうとこいって、「お化けこわーい」とかいって抱き着かれたいなとか渚に言ったことあるけどさ。
「きゃあ、まーくんこわーい」
「大丈夫だよ、君は俺が守る」
「お化け屋敷ひさしぶりだねー、楽しみ。でも、置いてかないでね」
「当たり前だろ。俺達はずっと一緒だよ」
「現世に未練をのこし霊魂……魔女たる私のしもべにはふさわしいわね」
「ああ、そうだ。万が一危険があってもお前の騎士である俺が守ろう」
「ふむ、なるほどね……情報通りカップルだらけだね。ここの雰囲気なら巧もそういう気持ちになるんじゃないかな? どうだい、惚れ薬は効いてきたかな?」
「いや、全然効果ないわ……」
当然ながら周りはカップルだらけである。みんないちゃついてやがる。いや、一部頭がおかしいやつもいたが気にしないでおこう。これは彼女との実験だけれど、はたから俺らもカップルに見えているのだろうか? ふと横を見ると渚は観察するようにカップル達を眺めていた。
「きゃあ、巧君こわーい」
「え? 何、無表情に棒読みで叫びながら抱き着いてくるのやめてくれない? まじで怖いんだけど。お化けでも乗り移った?」
俺が考え事をしていると、渚が棒読みで叫びながら抱きついてきた。おそらくカップルの真似をしたんだろう。香水だろうか、蜂蜜のような甘い香りがふわりと鼻をくすぐる。というかこいつの裸を風呂場でみてしまった時も思ったが結構大きいな……俺は柔らかい感触ににやけそうになるのを必死にこらえる。自分がチョロすぎて嫌になる。
「ふむ……それでも効果はあったようだね。動悸がすこし激しくなってるよ。そろそろ惚れ薬の効果は出たんじゃないかな? どうだい、私に惚れたかな?」
「いきなり抱き着かれたら、びっくりして心臓も早く動くわ!! てかなにやってんの?」
「わからないかい? 君の鼓動が早くなっているか確かめているんだよ。もしも、私に君が惚れていればはやくなるだろうからね」
そう言って俺の胸元に耳を当てて心音を聞いている渚に俺はどう反応していいか迷う。いきなり何をするんだこいつは!? いくら幼馴染だからって距離が近すぎない? そりゃあ好きな人にそんな事をされたらドキッとするわ!! 俺の鼓動は相当はやくなっているだろうな……
「次の方どうぞー」
「おっと私たちの番みたいだよ。さあ、行こう」
「おい……ちょっと……」
店員さんが呼ぶと彼女は、俺の手を握りながら進んでいく。彼女のぬくもりが、俺を幸せな気持ちにしてくれる。
こんな風に手を繋いだのは小学校以来で……俺は自分がどきどきしてしまうのを自覚する。大体さ、惚れ薬なんかなくてもとっくに惚れてるんだよ。分かれよな。
「さあ、行くとしようか」
「ああ、てか、近くないか?」
「こうしたほうが惚れ薬が効きやすいだろうからね。実験のための努力というやつさ。君が嫌だったら遠慮するけど?」
「いや……このままでいい……」
「協力的で助かるよ、巧」
そう言う彼女は更にピタッと体をくっつけて歩く。その姿をはたから見たらいちゃついているバカップルにしかみえないだろうよ。俺がどきどきしながらも扉を開けて……
「ギャー!!」
しょっぱなにお化けに出会い開始五秒で絶叫をした。その後の事はあまり覚えていない。
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「いやぁそれにしても、あの時の顔は傑作だったな。思わず実験を忘れて君を助けてしまったよ」
「うるせー」
あの後、結局お化け屋敷で絶叫した俺を笑いながら引っ張っていた渚と水族館に行ったり、服を見に行ったり、食事をしたりとカップルっぽい事を色々とやってから帰路についていた。本当に楽しそうにいじってくる渚を俺は呻きながら文句を言う。
「だが、いつもの巧だったね……惚れ薬は効果を発揮しなかったようだ……まだ、改良の余地はあるようだ」
「そうだなー、そういう渚も服装とちょっとカップルっぽい事をする以外はいつも通りだったな」
「何を言っているんだ。私がいつも通りなのは当たり前じゃないか。ちなみにカップルぽい事をしたのは実験のためだからね、勘違いしない事だね」
「はいはい」
俺はそう言いながら彼女を家まで送る。結局多少言動はおかしかったものの態度などはいつもの彼女だった。確かに手をつないだり、デートみたいにカップルっぽい事をしてはいたけど、それも彼女のいうように実験なのだろう。
だけどさ、俺の気持ちはもうやばい。幼馴染だからと抑えていた気持ちが爆発してしまいそうになる。手を繋いだり、一緒にお化け屋敷にいったり、雰囲気のいいところでご飯を食べたりしてさ。好きな人とそんな事をやったら、収まらなくなるっての!!
「うーむ、しかしなんで失敗したんだろう。実験では成功していたんだよ。巧はどう思う?」
「んっ、ああ。失敗した理由か……なんでだろうな……実験の時に効かなかったケースとかないのか?」
「ああ、一つだけあったね……確か惚れ薬を飲ませる前から、すでに番だったモルモットには効果がなかったな。もっと情熱的になるかと思いきや、それまで通りイチャイチャしていたし、ドーパミンの分泌量に変化はなかった。この薬はあくまで惚れさせるだからね、すでに惚れてしまっている相手には効果はないんだろうね」
「え……?」
俺は何気ない感じで言った彼女の言葉に思考が固まる。つがいっていうのはカップルだろう。そして、モルモットにどこまで感情があるかはわからないが、相手の事を好きだったら惚れ薬は効かないということなのだ。
となると惚れ薬を飲んだこいつの態度がいつもと変わらない理由として考えられるのはパターンは二つだ。
一つはこいつが仮に惚れたとしても態度が変わらないパターンだ。今日のデートのような行動は実は照れ隠しというパターン。しかし、その可能性は少ない。なぜならこいつは馬鹿じゃない。自分の感情に急激な変化があったら、すぐに惚れ薬を飲んだことに気づいて、「じゃあ、私で実験をしよう。普段との私との違いをレポートにまとめておいてくれたまえ」とか言い出すに違いない。
そうなると、もう一つのパターンだ。こいつが実は俺に惚れているというパターンである。いやいや、まじか? まじか? こいつ俺の事好きなのか。確かにずっと一緒にいるけどさ。こいつの感情はてっきり家族のようなものだと思ったのだ。
「ああ、ついたようだね。よかったらうちに寄っていくかい?」
「え……ああ、どうするかな……」
彼女の言葉で俺の思考が戻る。夜で周りは暗くて本当によかった。今の俺は顔を真っ赤にしているだろう。そして、彼女の家は真っ暗だ。
「あれ、両親はどうしたんだ?」
「ああ、二人は今頃クリスマスを楽しんでいるんじゃないかな? 私も巧と一緒だといったら夜まで楽しんできなさいと言われてしまったよ。もしかしたら、妹か弟ができるかもしれないね。はっはっは、仲が良いのは良い事さ」
さらりと家に誘ってくる渚だったが、つまりクリスマスイブに二人っきりだという事である。いやいや、まずいだろ。特に今日のデートで俺の気持ちが高ぶっているうえに、もしかして、こいつも俺の事を好きなのかもと思ってしまっている今だからこそ余計まずい。理性の抑えが効かなくなるかもしれない。
「いや、ちょっとはしゃぎすぎて疲れたから今日は帰るよ。代わりに明日の夜ご飯を食べようぜ。チキンを買っていくわ」
「そうかい、まあ、なら仕方ないな。実験は失敗だったようだね。ではまた明日」
そういって俺達は別れた。名残惜しい思いもあるが、俺はこれでいいと思う。このままじゃ自分でも何をするかわからないし、告白しても「実験は成功したようだね」と本気にされなそうだからだ。
そして、色々と自分の気持ちを整理して、明日、ちゃんと告白をしよう。そしてその時に実は渚が惚れ薬をのんでいたという事もつげるのだ。だって、そうしなきゃフェアじゃないからな。俺は気持ちを固めながら帰路に立つのだった。
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私は幼馴染の後姿を見ながらため息をつく。どうやら実験は失敗したらしい。肝心なところで期待通りにいかないものだ。失敗は成功の母とは言うけれど、今日という日にこそ成功させたかったんだけどね……
自分で飲んで実験もしたのだけれど、やはり性別が違うと反応が違うようだ。ちなみに自分の時は猫を好きになってしまい苦労したものだ。
しかし、最後のお誘いは彼には断られてしまった。まあ、デートをできただけでも、良しとするべきだろう。これで明日には彼は別の人の物になってしまうのだから……
「ああ、まったくもって感情というのはめんどくさいなぁ……」
家に帰ってみる私の目は真っ赤になって、涙が溜まっている。これも全部巧のせいである。実のところ惚れ薬自体は中学の頃にはもう、完成していたのだ。だけど、なぜ今になってこんな手段をとったかというのには理由がある。
あれは一昨日の金曜日の事である。私が何気なく図書館で資料を漁っていると、巧と同じクラスの女子達が話しているのが聞こえてしまったのだ。
「えー百崎さん、とうとう巧君に告白するの?」
「うん……クリスマスに告白しようと思うの……」
「でも、巧君って川瀬さんと仲が良いよね。付き合っているんじゃ……」
盗み聞きはいけないだろうと、さっさと去ろうとした私だったが、巧と自分の名前が出たことで思わず聞き耳を立ててしまった。どうやら百崎さんとやらが巧のやつに告白をするらしい。
百崎さんとやらは優しそうな顔の黒髪の良く似合う美少女である。俗に言う清楚系ってやつだね。クラスで一番ではないけれど、3、4番目人気くらいはありそうな少女だ。そんな子に告白されてしまえばずっと好きな人でもいたりしない限り大抵の男は断らないだろう。
私は胸の中がざわつくのを自覚する。まったく感情とは煩わしいものだ。まあ、彼と一緒にいると幸せな気持ちになるので悪くはないものだとは思っているのだけれど……そんなことよりも彼は何と答えたのだろうか?
「違うんだって、私もそう思ってたから聞いたんだけど、ただの幼馴染だって。だから私頑張ってみようと思うの」
その一言を聞いて私は彼女に敬意を表した。彼女がその一歩を踏み出すの相当勇気のいる事だっただろう。今の関係を壊して新しく進む。それはとても大変な事なのだ。それは何年も巧と幼馴染のままだった私にはすごいわかる。私なりに頑張ってはいたつもりだが、彼が百崎さんに答えた幼馴染だという答えが、結果を示している。
彼女らにばれないように帰宅した私は惚れ薬の保管してある薬品棚を開けた。これを作ったのは中学の頃で、なぜか彼が私と話してくれなくなった時だった。それまでどんなに傍若無人な態度をとっていても一緒にいてくれた彼だったが、中学の修学旅行の少し後から避けるようになったのだ。私はそれがすごい悲しくて……また一緒にいたいなと思い無我夢中で惚れ薬を作ったのだけれど、これで惚れさせても一緒にいたところで意味がないことに気づき封印をしたのであった。ちなみに匂いが蜂蜜なのは彼が少しでも飲むときに苦しまないようにという親切心と、どうせなら美味しいと思って欲しい乙女心というやつだ。
幸いにもうちの両親と巧の両親が何か話をしてくれたようで仲直りはできたものの、なんとなく捨てる気がおきずにとっておいたまま今に至る。
だけどそれも終わりだ。彼は彼女が欲しいと言っていたし、百崎さんは可愛らしい女の子だ。悪い噂も聞かない。彼が断わる理由はないだろう。だけど……だけどせめて一日だけでも恋人気分を味わいたかった私は、強引な手段に出ることにしたのであった。
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クリスマスイブに彼を呼び出すと、めんどくさそうな顔をしつつも私の家に来てくれた。まったく、そんな風に付き合いがいいから私だって甘えてしまうんだよ。私が惚れ薬を作ったと言った時の彼の顔は傑作だった。それにしても、惚れ薬と聞いて一体誰と結ばれる姿を想像したやら……気になるものだね。やはり、百崎さんだろうか。私はズキリと胸が痛むのを無視して話を進める。
最初は抵抗した彼だったが、私が他の人に実験を頼むか……というとあっさり折れてくれた。まったく私が巧の他の人間に大事な実験を頼むはずがないというのにね。しかし、あれである。私に惚れるという行動をあんなに嫌そうにされるのは心外だった。というか、結構傷ついた。やはり想い人でもいるのだろう。だけど、今日で最後だから許してほしい。
私が電話がかかっていたフリをして部屋から出て、こっそりと覗いていると、彼は二つのビーカーをもって、なにやら悩んでいるようだった。どうやら、ビーカーを入れ替えようかと迷っているようだ。ただいざ、やろうとすると罪悪感がおきて、やめようと思ったのだろう。実にわかりやすい男だね。そして、そういうヘタレな所も嫌いではない。まあいい。これならプランBの方が進めやすいだろう。
「ごめんごめん、時間がかかってしまったね。何を固まっているんだい?」
「うおおおお」
私が電話が終わったふりをして部屋に入ると彼は慌てた様子でビーカーを落としそうになる。そんな彼を見つめながら私は、最初に彼に渡したほうのビーカーを奪い取り、彼が止める前に口をつける。蜂蜜の匂いがする惚れ薬入りコーヒーを飲んで、彼を見てみるが私に変化はない。いつも通り動悸が激しくなっているだろうし、いつも通り私は彼に惚れているだろう。
そして、私は何かを言いたそうにしている彼に気づかないふりをして、彼にもコーヒーを飲むように促す。そして、彼が私をみつめたのを確認する。どうだろう、彼は惚れてくれただろうか?
そう、実は両方のコーヒーに惚れ薬をいれておいたのだ。私はすでに彼に惚れているから効果はないからね、素直に彼が惚れ薬を飲んでくれればよし、抵抗するようだったら、私用のコーヒーだから安全だと思わせた惚れ薬入りコーヒーを飲んでくれればいいのだ。
「どうかな? 動悸が激しくなったり、私の事を好意的に見てしまったりしないかな?」
「いや……特に変化はないな」
「ふむ」
変化なしか……彼が嘘をつく理由はないからね。どうやら、モルモットと体の大きさが違うからか、薬の周りが遅いのだろう。ああ、でも私がじっと見つめると少し顔が赤くなったな。徐々に効果がではじめているのかもしれない。
とりあえず、私は適当な理由をつけてデートに誘う。着替えるからと彼を追い出した後に、私は母にデートするときに着なさいと言われ誕生日に無理やり押し付けられた服を取り出してみる。視覚効果でどれだけ魅力があがるかは謎だが試しても見てもいいだろう。
そして、最後に友人に「男なんて獣だからこれで迫れば一発」と言われ、ついつい買ってしまった。やたらとレースのついた下着を取り出した。まあ、念には念をというやつだ。最初で最後のデートになるかもしれないしね。
待ち合わせをした私は、ちゃんとした格好をしている私に驚く彼を見て少し楽しい気分になる。やはり惚れ薬で無理やり作った状況とはいえ、私もワクワクしているのだろう。巧とは結構出かけているがデートという名目は初めてだ。言葉が違うだけでやっていることは同じなのになんだろうね、これは。だから人の感情というのは面白いと思う。あと、少し照れくさそうに可愛いって言ってくれたのは素直に嬉しいし、一生忘れることはないだろう。
「ほう、それはよかった。それでいつもと何か変わったことはないかな? 例えば脳内麻薬のドーパミンが分泌されているとか……」
「いや、普通に考えて、ドーパミンがでてるとかわかるわけねーだろ……」
「ふむ……具体的に言うならば、動悸が激しくなったり、私とちゃんと喋れなくなったり、私の目をみれなくなったりとかは……なさそうだね……」
「まあ、付き合いが長いしな……」
そろそろ惚れ薬が効いたころだろうと思い彼を観察してみるが、変化はない。さすがに惚れ薬にかかれば、彼だって自分の変化に気づくはずである。この状況でわざわざ嘘をつく理由もないしね。ならば違う方面で感情に刺激を与えるアプローチをくわえたほうがいいだろう。私は今日のために考えた100通りのデートコースのうち一番刺激が強そうな場所を選ぶことにする。
お化け屋敷に行って彼の感情を揺さぶったがいつもと変化はないようだ。試しに勇気を出して、手をつないでみると、少し顔が赤くなったので効果があったと思ったので聞いてみたが、私に対する感情に変化はないそうだ。どうやら異性と手をつなぐという行動が恥ずかしいらしい。まあ、わからないでもない……私の場合は嬉しさが勝るが恥ずかしさも感じているしね。
惚れ薬の効果が出ないので、水族館でロマンチックな雰囲気とやらを狙って見たが、効果は薄かった。まあ、あんなところ、観賞用の魚が浮いているだけなので何が楽しいのかはわからないけど……ああ、でも、人ごみに囲まれた時に彼に引き寄せられた時はドキッとしてしまったな。当たり前のようにやるのだから、本当にずるいと思う。
魚を見ていて空腹を感じたので、せっかくだから寿司でも食べようと言ったら信じられないといった顔をされてしまった。その後、ちょっとおしゃれなイタリアンで食事をして、何か変化がないのかと聞いてみたがやはり返事はノーだった。
どうやら惚れ薬は効果を発揮していないようだ。ひょっとしたら男性には効かないのかもしれない。こんなことだったら父親にも試しておくべきだったなと後悔しつつも、私は食事を楽しむ。一応効果がない理由はもう一つ考えられるが普段の言動から望み薄だろう。それに……変に期待をして落胆するよりはましだ。
私は最後の足搔きとばかりに、彼が家まで送ってくれる時にもう少し一緒に過ごさないか? と誘ってみた。もちろん、変な事をするつもりはない。ただ……こう、もう少し話したかったのだ。彼はあした違う人の彼氏になるのだから……だけど、彼の返事はつれなくて……私は虚しさと共にクリスマスを迎えるのだった。
そんな私は何気なくアルバムを眺めている。そこには色々な思い出があった。両親と、そして巧と二人で並んでいる小学校の入学式の写真、巧の家族と私の家族と一緒にいった旅行の写真など色々とある。小学校高学年あたりから、巧が変な風に発光したりしている写真があるのは、彼が私の実験につきあってくれたからだ。
中学校の時に、少しだけ疎遠になった時期の写真もあった。確か、巧は難色を示していたけれど、両親に言われていつものように一緒に写真を撮らされていたのだ。なぜか顔はこわばっており、私とも目をあわせずに、心なしか顔が赤い。はは、まるで恋でもしているみたいだね。
『渚、明日学校が終わったら部屋に遊びに行っていいか? 一人でクリスマスは嫌だろ。それに俺も渚と一緒に過ごしたいんだ』
噂をすればなんとやら、巧から連絡がきたようだ。自分の胸が躍り、頬が紅潮していることだろう。だけど、明日君は告白されるんだ。そして、恋人ができる。そうすれば私は邪魔ものになってしまう。
彼は優しいから彼女ができても私とこれまでのように接しようとするだろう。だけど、私と彼は異性だ。それを巧の彼女がどう思うかと考えると想像は容易い。そして、私は彼に幼馴染以上の感情を抱いてしまっている。だったらこの関係は終わりにすべきだろう。
『ひまといえばひまだけど、毎年一緒に過ごしているじゃないか、実験をしているから、何か予定があったらそちらを優先してくれて構わないよ」
『渚より大事な用事なんてないぞ。じゃあ、明日な』
彼からの嬉しい内容のメッセージを私はスクショする。思い出くらいはとっておいても罰はあたらないだろう。今まで私のような変人に付き合ってくれてありがとう。みんなが距離をとる中私と仲良くしてくれて本当に嬉しかったよ。そうして、私はベットに入る。だけど……なぜか全然寝付けなかった。
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翌日私は寝不足のまま学校に登校した。いつもは一緒に登校していたけれど、今日は課題をやらなければと嘘をついて断ってしまった。そのあとはクラスが違うこともあり、私と巧が会う事はなかった。そして、お昼休みになったので私は逃げるように教室から屋上へ行き、影になっているところに座る。考え事をするときや一人になりたいときに私はいつもここに行くのだ。私は昨日の事を再度分析する。幼馴染に惚れ薬を飲ませてみたが、いつもと態度が変わらなかったのはなぜだったのだろうか。
「巧君いきなり呼び出してごめんね。迷惑じゃなかった?」
「いや、どうせ暇だったから大丈夫だぞ。どうしたんだ、百崎?」
考え事していると知っている声が聞こえてきた。しまった……告白と言えば屋上は定番である。このままでは盗み聞きになってしまうし、何よりも巧に彼女ができる瞬間なんて立ち会いたくないな……だけど入口近くは彼らが占拠しているため私は動くこともできない。私がどうしようか悩んでいる間にも彼らの会話は進む。
「あのね……巧君……ずっと、あなたが好きだったんです。よかったら私と付き合ってくれませんか」
「え……、俺? マジで?」
震えた声の百崎さんと、驚いている巧の声が聞こえる。くっそ、なんで実況中継で片思いの幼馴染に恋人ができるのを聞かされなきゃならないんだ。その時ふと閃いた。この経験は、次の実験に活かせる……わけあるかー!! うう……なんでこんなことになったんだと絶望している私の耳に入った巧の返事は予想外のものだった。
「気持ちはうれしいよ。でも、ごめん好きな人がいるんだ」
「やっぱり、そうなんだ……それはあの子……?」
え、巧には好きな人がいるのか!! 全然気づかなかった。一体誰なのだろう。もしかして私だろうかなどという愚かな思考が一瞬頭をよぎるが否定する。常識で考えて実験ばかりしていて迷惑をかけてばかりの女を好きになるなんて……
「ああ、ずっと一緒にいてさ、それまでは家族みたいだったんだけど、中学の時にさ、ちょっとしたきっかけがあって意識してそれから好きなんだって実感したんだ……」
「そっかー。正直そんな気がしたよ。巧君がんばってね」
んん---!! 待った待った、ずっと一緒にいる女子というと……私しかいないよな……でも、中学の時に意識したっていうのは……私は昨日見たアルバムを思い出す。彼と少し疎遠になった時の態度を思い出す。あの時のあいつは目もろくにあわせてくれなくて……態度もつっけんどんになって……ああ、確かに恋の病の症状だった。
「ふぁぁぁ」
思わず変な声をあげてしまった。つまり、昨日彼に惚れ薬を飲ませたが態度が変わらなかったのは……私は自分の体温が上がっていくのがわかってしまった。窓ガラスにうつった自分は顔をリンゴのように真っ赤にして、だらしない笑みを浮かべている自分の顔だった。
そのあとの事は省略されてもらおうと思う。この後、私はなにも知らないふりをして、授業を受けて、放課後を巧と過ごした。そこで何があったかって? それを聞くのは野暮というものじゃないかな。まあその……恋人というのも悪くはないとだけ言っておこう。
ウマ娘にはまりました。アグネスタキオン、ナイスネイチャ、キングヘイロー可愛いですね。
個人的にキミキスの二見さんや、シュタゲのクリスみたいに天才系少女が好きなんですよね。そんな萌えを込めて書いてみました。よろしくお願いします。
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