盗賊団のアジト
「…本当にここなの?」
「はい、間違いありません!だって…。」
【物資を奪った盗賊団のアジト】って看板が目の前にあるじゃない!
「ふざけてますね。始末しましょう。」
「ちょっと待ちなさい!私との約束をもう破るつもり!?」
「…ちっ。」
いま舌打ちしたよね?
「転位魔法が敷いてありますね。転送先は最深部かと。」
ミレイちゃんが洞窟の中に入った瞬間、いなくなった。
これが転位魔法…。続けて私も入る。
「こんにちは、君が領主様かな?」
「ええそうよ。あなた方に取られた物を返してもらいに来たの。」
「なら話は早い、領地をテオに売っていただきたい。それなりのお礼はさせてもらう。」
「断る。」
「そうか、なら物資と一緒に帰ってくれ。」
「そうさせてもらうわね……えっ?」
「捕虜も全員無事だ、おい。」
奥から手を縛られた人たちがぞろぞろと出てくる。
「私は別にいいけれど、あなたは怒られないの?」
「大丈夫さ、むしろ死神に勝てるなら自分でやってくれってこっちから頼むさ。」
「死神?」
「そこのお姉さんだよ。」
ミレイちゃんは動じない。
「うまく隠せているが、それでも漂う魔力は尋常じゃない。数百年前に戦場を駆け回った死神だろ?」
「……人間達はそう呼んでいる人もいるみたいですね。ですが私の名前はミレイです。ヴァイン様より賜った名です。」
「そうかい、それと領主様からもただならぬ気配を感じる。」
「そう?でも私、武器を持ってなければ魔法も使えないわよ?」
「だろうな、でも俺の本能が警告してるんだよ。戦ったら死ぬ、ってね。」
「少し不可解な点があるのだけれど。」
「いいぜ、質問してくれ。」
「まず1点、傭兵の彼が言うには全員殺されたと言っていたわ。」
「一番魔法に適性がないやつに幻術を見せただけだ、だれ一人殺していない。」
「彼についていた血は?」
「家畜の死体から奪った血をこいつに浴びせた、魔物の血だとすぐ気づかれると思ったからな。」
「なるほどね、ひとまずつじつまが合うわね。じゃあ物資も人も返してもらうわね。」
「ちょっと待ちな。」
隣でずっと話を聞いていた中ボスのような男が声を上げる。
「俺はこの真っ黒な葉っぱ盗賊団のボスだ。」
「あれ、彼じゃないの?」
「こいつは一昨日突然現れて上手い話があるって持ち掛けてきた男だ。」
「そうなの?」
「しかし蓋を開けてみれば何だ?物資を返すとか、お前たちが強いとか、わけわかんねぇ事言って指揮してやがる。俺たちがそんなの見過ごすと思ってるのか?」
周りの男たちが奇声を上げだす。
「俺たちは人の道を外れた者。外道だ。みすみす逃がすほど甘くねえぜ?」
視線をボスから彼に目をやる。
やれやれ、といった表情をしている。
「好きなように生きる。それが俺たちだ、男は殺し、女子供は攫う。今までそうしてきた。野郎ども、行くぞ!」
男たちが腰についている剣に手をかける。
瞬間、ボスが倒れた。
受け身など一切ない状態で。
額には穴が開いている。
「もともと私はそのつもりでしたよ。他に武器を持つ者は?」
ミレイちゃんの魔法がボスの額を貫いたのだ。
それを見た男らは武器を放す。
「とまぁ、勝てるわけがねえんだよ俺たちにはさ。」
「今から皆殺しにしても私は構いませんが?」
「勘弁してくれ、殺戮が好きだからって無抵抗だぜ?」
「私は殺戮が好きではありません。」
「そうなのか?」
「ええ、大好きなだけですよ。」
にっこりと微笑むミレイちゃん。その顔に私は恐怖を覚える。
死神、そう呼ばれるのが相応しい顔。
敵じゃなくてよかった。
「…そ、そそそそそうだ!俺の名前はカルマ。よろしくな!それじゃ!」
言い終わると彼は転位魔法でどこかへ行ってしまった。
まぁ物資は帰ってきたし、別にいっか。