ノルンの惨状
「で、いきなり街をもらったのはいいのだけれど…ほとんど栄えてないじゃないのぉー!!」
「はい、全く栄えておりません。」
門をくぐり、正面には枯れた噴水、その奥に古びた冒険者ギルド。
左を見れば武具屋、ほとんどがクワなどの農具。
その奥に私のお家。
右を見ればアイテム屋。ほとんどが誰でも入手可能な物らしい。
パット見、街の範囲は東京ドームが3つ分ぐらいの大きさってところかしら。
冒険者ギルドの奥側は領民たちのお家があるらしい。
「街をここで一望して観察しろってことかしら?」
「あなたの手腕が試されるわけですね。」
隣でやかましい女の子の名はミレイ、なんでも召喚士らしく、今現在召喚されたばかりの私にこの世界の常識などを教えてくれている。
「銅が1円、銀が100円、金が10000円で、日本の物価より1/100倍の値段っていうのはわかったんだけど、あそこの門番たちがお金のやり取りをしている理由は?私の時いらなかったよね?」
「あれは他国の人間が来た場合にもらう通行料ですよ。」
「へぇ~。ちなみにいくらぐらい?」
「50銅ほど。」
「ほかの国は?」
「20銅や30銅ほどですね。」
「もし同じ日に2回出入りしたら?」
「2回とも支払ってもらいます。」
「他国のE~Dランク冒険者が1日稼ぐ金額っていくらぐらい?」
「少しお待ちください…北西のサニー国が30銅、北のテオ国が34銅、北西のアインツベルグ聖国が73銅ですね。」
「…南は?」
「海ですよ。そこに世界地図があります。」
「ほんとだ…。」
あれ?私たちの国はヴァインっていうんだ。領土すくな!
王都を除き、5つしか街を保持していない。今いるノルインは一番右側。
「国同士が無暗に攻めあうなんて行為はないですが、少しずつ領地が買収されていったんです…。」
「領地を買い取るのって国の許可いらないの?」
「国王が領主にすべてを任せているので、領主が条件をのめば取引成立金が国王に入るだけですね。それ以降は他国という扱いになります。」
「へぇ、つまり今私が他国から好条件の話を持ってこられて首を縦に振れば…。」
「あなたは他国の人間になりますね、ただでさえあなたが領主になったばかりでそういうことが起こるかもしれないのに…。」
下でノックの音がした。誰か来たようだ。
「………。」
何も言わずにミレイは扉を開けた。
「やや、初めまして!イチコ殿でありますか?」
「そうだけど。」
「申し遅れました、私、北にあるテオ国の使者あります。ぜひこの街を買いたいと相談しにまいりました。」
言わんこっちゃない、とミレイはため息をついている。
「今この街の現状を見てるから後にしてもらえないかしら?」
「ん?オカm…失礼しました。イチコ様は女性でありましたな。」
「心が乙女なのよ。」
「はい?」
「いまこの街と国について聞いてるからまた後日にしてもらっていいかしら?」
「それはなりません。時は金なり、善は急げですよ。いま契約していただければあなたに100金、ヴァイン国にも200金を差し上げます。」
「いらない。」
「はい?」
「別にお金なんていらないわ。」
「で、では取引成立ということで…。」
「違うわ、彼に言われたんだもの。この街を栄えさせろって。やってやろうじゃないの。」
「彼、と言いますと…ヴァイン国王ですか?」
「おう。漢イチコ、1度受けた契約を裏切るほど薄情な人間じゃないんでな。」
「…失礼しました。」
「いいのよ別に、わかってもらえたら帰ってちょうだい。」
「はい、今回はご縁がなかったということで…またいつかお伺いさせてもらいますね。今度は別の者が。」
本当に断ってよかったんですか?
そう聞かれた気がした。
いまお金の話をしていたからだ。
パン1つが1銅で買える。宿屋で泊まるのがだいたい1晩2銀。
街を復興させるにはある程度まとまった資金が必要で、領主は契約した時、領主を辞めるか続けるか選べる。
そのまま100金貰って領主を辞めても少なくとも10年以上は遊んで暮らせる。
「別にこの街を捨てる気なんてないわよ。ちょっといいこと思いついちゃったもの♪」