森の中の少女
町の外れにひっそりと建っている民家。
ウードは少女とテーブルで向かい合わせに座っている。
天窓から射し込む光が暖かく、柔らかく二人に射す。
身体が温められ、少女は時折目を細めた。
吸い込まれそうな緑の髪、少し青みがかった肌に金色の瞳。
少女の造形にしばし見とれてしまうウード。
少女は真っ白なローブを身に纏い、その上から黒いショールを巻いている。
ウードは、高等学舎に通いたてのまだあどけなさが残る少年だ。今日は緑のシャツに青いズボンをはいている。
「で、今日は何の用だ?」
ぶっきらぼうな少女に、ウードは微笑みを返す。
「いや――ただ、話がしたいな、と」
すると少女はウードを睨みつけて威嚇した――口の端から、綺麗な牙が見えた。
「お前、人間の友達、おらんのか」
「――君こそ、友達いないのかい?」
それを聞いた少女は、あからさまに不愉快そうにする。
「それを言うか、おい!」
あっという間にウードは胸ぐらを掴まれると、座っていた椅子から持ち上げられ、高く宙に浮かんだ。
「――覚悟は出来てるんだろうなぁ」
「ご、ごめん――そろそろこんな冗談も、いけるのかと思って……」
ウードは足をばたばたさせる。少女は舌打ちをして彼を放す。
「お前、まさかあたしと仲良くなったと思ってないだろうな」
「え? 違うの」
喉の辺りをさすりながら軽く咳込むウード。
「違うに決まってるだろ。全く……」少女は首周りの鱗に触れる。完全な人化は難しいのだ、と前に言っていたのをウードは思い出す。
「それに、あたしは友達がいないんじゃない。同族がいつの間にか――いなくなってしまっただけだ」
「そうだったね。ごめん」
何十年も前に彼女の同族は死に絶えてしまい、いまや残るのは彼女だけだ。
――我ながら、悪い冗談だった。
ウードは顎をさする。目の前の少女の気を惹きたいばかりに、学校に上がりたての子供のような真似をしてしまった。
じっと少女を見つめるウード。
「なんだ? あたしの顔に――」
【君が好きなんだ。結婚してくれないか】
少女は、きょとんとした顔になる。
「お前」
徐にウードの胸ぐらを掴む少女。
「な、何かな」怯えた声のウード。
「またあたしの知らない言葉で! 今のは悪口かっ」
「い、いや、違うんだ」
ウードは身をよじって拘束から逃れ、立ち上がる。
「ま、また来るよ!」
「もう来るな!」
ウードはそそくさと退散した。
彼は世界でただ一人、竜族の言葉が話せる人間。
そして――少女に恋をしている。