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第十六話 公爵令嬢 ミレイユ・マリア・ルモワン

 そんな少年たちの想いをよそに、公爵家父子の会話と言うには一方的な罵倒は続いている。


「いったい何のためにお前を他国に留学させたと思っている!」

「それは、私が優秀だからで」

「そんなわけがないだろう。女の分際で!」

「お父様!」


 吐き捨てる父親である公爵の言葉に、ミレイユはショックを受けたように叫ぶ。そんな娘を前に、公爵の言葉は続く。


「隣国の高位貴族といい仲になっているという報告を受けて安心していたというのに、まさか王太子妃などと……これでは我々の計画が台無しだ!」

「公爵、計画と言うのは」


 公爵の嘆きに、私は思わず問いかけた。計画とはいったい何なのか。そんな私に、公爵はもはや呆れを隠すことを放棄したような口調で告げる。


「決まっています。先の継承権争いで二つに割れかけたこの国を再び一つにすること、そして国庫の回復です。

 ハルフテル公爵家からの持参金があれば、我が国の年間予算の三分の一が潤うはずだったんですよ!」

「まさか、そこまで」


 いくらハルフテル公爵家が近年富んでいるとはいえ、国家予算の三分の一を担えるほどの金が出せるとは思えなかった。だが、驚いているのは私だけだった。いや、サフウェンも驚いていたが、「そこまでかよ」と言う呟きが漏れたところを見れば、ある程度は知っていたのだろう。

 宰相の息子であるジラリは言うまでもなく知っていたようだ。彼ら親子は始めからそろって顔が青い。そんな私に、公爵はさらに言いつのる。


「それだけではありません。リオナ嬢はソリジャ国、ガステルム国との交流の要を担っておりました。おそらく彼らも直接交流のあったリオナ嬢と一方的に婚約を破棄した王家にいい印象など抱かないでしょう」

「そんな、リオナがそのようなことをしていたなんて」


 彼女が他国からの留学生のホスト役をしていたなんて知らなかったと呟けば、周囲から失望のため息が漏れ、公爵はますます顔を赤らめた。


「なぜ王太子であったあなたが知らなかったんですか!!」

「あーと、たぶん、だけど。殿下はリオナ嬢が貴族科にいないことも知らなかった。んじゃないかなぁ……」


 サフウェンが軽く手を上げて公爵に告げる。その言葉はだんだんと小さくなっていき、それと同時に公爵の顔は赤を通り過ぎて黒にさえなっていく。嘘だろう。と、サフウェン以外の者たちの表情は言っている。

 私と言えば、彼女が貴族科に通っていないことに驚いていた。


「あの女、貴族としての嗜みや交流を何だと」

「何を寝ぼけたことを言っているんですか」


 思わず口をついて出た文句を鋭く遮ったのはジラリだった。彼の表情は、今まで見たことがないほど険しい。私に対する嫌悪すらにじみ出ていた。


「ジラリ?」

「リオナ様はソリジャ国の姫君と、西方からの貴人の接待役を務めていたのですよ。彼女たちが貴族科ではなく魔術科を希望したから!!」

「貴族との交流は毎週茶会を開くことでフォローしてた。もちろん、それの費用は公爵家持ち出し。そこでの振る舞いはまさに高位貴族の鑑だったそうだ」


 ジラリの言葉を補足するようにサフウェンが付け加える。まさか、あの騎士かぶれの女に、そんな貴族令嬢としてのふさわしい振る舞いができるわけがない。

 だが私が納得する必要などないとばかりに、それまで黙っていた父王が深いため息をつくと、公爵へと告げる。


「ユリアン、こうなっては仕方がない。ミレイユ嬢との婚姻をこのまま続けるしかあるまい」

「……その通りです、陛下」


 ユリアンは、ルモワン公爵の名だ。そう言えば、ここにいる四人はもともと学友だったのだ。ハルフテル公爵だけが少し世代が上で、先代の王弟と学友だった。

 悔し気にうなずく公爵の言葉に、ミレイユ嬢が目を輝かせる。私もそっと安どのため息をつく。ここで、正式な書類が交わされていないからと、婚約破棄とミレイユとの婚約がなかったことにされるのだけは嫌だった。

 そんな私に母が告げる。母は、私がリオナとの婚約破棄を告げた時に卒倒したらしい。そのせいか、今も感情をそぎ落としたような白い白い顔だった。


「バセット、あなたの立太子と結婚式は早急に行いますよ。辺境伯家とハルフテル公爵家の結婚式よりも早く」

「なぜです」


 確かに卒業してすぐにその二つは行う予定であったが、婚約者が変わったことによる変更はいろいろあるだろう。そもそもリオナとミレイユでは体形からして違う。少なくともドレスの作り直しは必要なはずだ。

 そう言う私に、母は泣き笑いの表情を浮かべて首を振って叫ぶ。


「比べられないほどみすぼらしいものになるのが分かっているからです!

 なぜあなたの立太子と結婚式を同時に実施することになったか忘れたのですか!?」

「ですが、それならばルモワン公爵家が」


 同じ公爵家なのだから、同じようように金が出せるだろう。そう考えていた私を、他でもないルモワン公爵自身が否定する。


「うちに、そこまでの余裕はございませんよ、殿下」

「「え?!」」


 驚きに声を上げたのはミレイユもだった。ルモワン公爵家は北西に領地を持つ大貴族だ。娘であるミレイユを他国に留学させていることから、ハルフテル公爵家ほどではないにしろ、ルモワン公爵家も王家を支えるだけの財力があると思っていたのだ。

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