第十五話 真相
ちょっと今回短いです。
「愚か者!!」
あの後すぐ、私とミレイユは父王の手のものによってパーティ会場から連れ出され、学園の一室に閉じ込められていた。そのまま、卒業式後の立食パーティが終わったころに再び、今度は騎士団長が迎えに来ると、私たちを馬車へと放り込み、王宮へと向かった。
あまりにも雑な対応に私もミレイユも騎士団長を咎めた。いくら騎士団長が父の学友であり今でも友人だとしても、王子と公爵令嬢に対してあまりにも不敬だった。
だがそんな私の抗議に、「陛下にはどんな扱いをしてもかまわないと言われております」と騎士団長は無表情で告げる。無表情なのに、どこか迫力のある騎士団長の姿に、私もミレイユも思わず押し黙った。
そのまま連れていかれた王族のプライベートスペースには、すでに父と母。それから、宰相と、私たちをここまで連れてきた第一騎士団長の息子のサフウェン、宰相の息子であるジラリ。そして新たな婚約者となったミレイユの父であるルモワン公爵がいた。
婚約破棄した相手であるリオナと、その家族の姿はない。
そして、今まで見たことがないほど、顔を真っ赤にさせ鬼の形相を浮かべたルモワン公爵は、娘であるミレイユ嬢の顔を張り倒したのだ。衝撃で吹き飛ぶ彼女のもとに私は駆け寄ろうとしたが、自分を見据える父親の眼光の強さに、足は床に縫い留められたかのように動かない。
「お父様?!」
「公爵!?」
「お前は、なんという愚かなことをしでかしてくれたのだ!」
公爵の怒鳴り声が部屋に響く。その声に、思わず私は体が竦む。
いつもは自分の傍に控えている側近であるサフウェンとジラリも、今回ばかりは正面、彼らの父親の傍にいて複雑な表情を浮かべていた。
婚約破棄の片割れであるハルフテル公爵家の面々は王家との婚約が破棄された以上、もはや無関係とばかりに、立食パーティが終了するとともに従伯父であるグラシアノと帰ってしまったらしい。正式な書類はすぐにご用意致しますわね。というリオナの姉の言葉だけを残して。
私とミレイユが閉じ込められている間、父やルモワン公爵たちがただの余興だ、間違いだと言い募ったようだが、リオナが三度も確認し、それに対してすべて私が是と答えた以上、間違いも勘違いも余興でもないだろうと断じられてしまったらしい。
もし余興というなればこれ以上悪趣味なことはなく、王家はどこまでハルフテル公爵家をないがしろにする気なのかと、公爵本人に言われてしまった。当たり前だが、周囲の貴族たちの視線は冷たく厳しい。
ゆえに、ここにリオナの姿はない。
婚約を結んだ時から気が付けば彼女の姿はいつだってバセット王子の傍らにあった。もちろん王宮や学園では二人の側近がいることもあってか、リオナが傍にいたことはない。だがそれ以外の公式の場では必ずリオナの姿があった。
それは彼の婚約者であったのだから当然のことだろう。だが今、王子はなぜここに彼女がいないのかと、無意識に自分が捨てたはずの少女の姿を探す。彼女が自分の半歩後ろに控えていてくれたことが、どれほど心強かったのかを王子は今現在の心細さと共に嫌になるほど実感していた。
そしてそれと同じことをまた、サフウェンとジラリも感じている。彼女は、リオナは決して自己主張の激しい女性ではなかった。ただ静かにそこにいる。早朝のまだ動物も寝ているような時間の森のような、そんな人物だった。
そしてサフウェンは改めて自覚する。「女が剣など」と、小ばかにしていたくせに、金狼姫と呼ばれていた彼女の腕前を、無意識のうちに信頼し、あてにさえしていたのだ。王子を守る最後の要としての彼女がいるからこそ、自分は自由に剣を振るうことができていたのだ。
この先、彼女抜きで王子を守らなければいけないことに、サフウェンはみぞおちのあたりに嫌な汗をかいた。