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1 辺境のアルナール領

GWに新しい物語を投下。

お休みの中、皆さんが少しでも楽しんで頂ければ幸いです!

今日は二話纏めて投稿します。

 今日もアルナール領地は眩しいほどの晴天。

 そよぐ風は心地よく、草花の香りは心に安らぎを与えてくれる。


 アルナールでも一番大きな街、ダンジェ。

 私はこの街が大好きだ。

 街の皆には活気があり、苦難を苦難とは思わず、いつも前向きに努力し立ち向かう姿には私自身もやる気と元気を貰っている。


 そんなダンジェの街の名を頂いている私は、このアルナールの領主の娘として街を、領地を、そしてこのカルディア帝国を護る役目を担えた事は幸甚の至りだと心得ていた。


 息を大きく吸い込みたくなるほどの広大な自然。

 素材豊かな大地。

 人間を襲うために咆哮を上げるいくつもの魔物の声。

 森から聞こえる数多の斬撃と魔法の衝撃音。


 なんて素晴らしい領地、アルナール。

 その巨体から森の木々に隠れられず、体長四メートルを超える獣型の魔獣が堂々と私の横から頭に食らいつこうと大きく口を開いて襲いかかってくる。

 私は白銀に輝く相棒を軽く横一線に振り抜くと、その魔獣の首を綺麗に切り落とした。


 豚にも似たこの巨大な魔獣は、案外美味しい。

 獣型の魔物は見た目に反して美味しいものが多いのだ。


 ああ、なんて豊かな大地アルナール。

 私の愛する辺境の領地・・・


 魔物の大陸と言われるムエルテ大陸から流れてくる大量の魔物を、領地を囲む長く大きな防御壁を背に「終焉の森」で討伐し続ける日々は、私に生きる意味と戦う喜びを与えてくれる。


 このことを父上に話したら、ダンジェの血を色濃く受け継いだ証拠だと喜ばれた。


「エーダ、そっちに一匹流れたぞ」


「承知しました、ファルコ兄様」


「奥は僕が抑えるよ」


「お願いします、ウルラ兄様」


 ウルラ兄様の鋭い風魔法が奥の魔物を切り刻んでいく。その手前にはファルコ兄様が()()()()()()()()()魔物が一匹、目にも留まらぬ速さで接近してくる。


 まあ、身体強化をかけている私には目に留まらぬどころか、魔物の瞬きひとつも視認出来るほどゆっくりとした動作に感じるのだけれど・・・


 先ほどの魔獣よりもランクの高い人型の魔物は俊敏で強く頭も良いが、魔物の血がそうさせるのか、何故だかこの者らはいつもこちらが認知すると真正面から攻撃を仕掛けてくる。

 そのため、どうにも面白みの欠ける戦いになってしまうので、人型とは出来るだけ肉弾戦で戦うことにしていた。


 相棒の剣を鞘に戻し、私は迫りくる魔物に向かって同じように走り出すと、接触する寸前でその身に打撃を一撃入れてみた。

 本気とは程遠い、三割くらいの力で殴ったのだが、目の前にいたはずの魔物は私の打撃で上半身が弾け、残った下半身だけが数歩進んでその場に崩れる。


 人型は美味しくないので、素材が必要な時以外はいつも気にせず倒してしまう。


「エーダ、今のエヴィルは角が欲しかったのに・・・」


 ウルラ兄様が残念そうに残った下半身から、エヴィルと呼んだ人型の魔物の蹄を切り落としていた。

 この人型のエヴィルは、頭に生えた羊のような角と偶蹄類を思わせる蹄が素材として重宝されている。


「ごめんなさい、ウルラ兄様。この魔物は美味しくないからつい・・・」


「エーダは、魔物を美味しいかどうかで判断する癖を直さないとね。素材は領の大事な資源なんだから」


「・・・はい」


 毎回何度かはこうして兄様に窘められてしまうのが、今の私の一番の悩みだ。


「さすがは俺の妹だな。エーダ、良い打撃だったぞ!」


 ファルコ兄様はいつも必ず私を褒めてくれる。それが嬉しくて、兄様が見逃す魔物にはつい力が入ってしまうのだ。


「でも、ウルラ兄様に叱られてしまいました」


「ウルラは頭が硬いからな。魔物の素材など、この地ではいくらでも手に入るだろうに」


「僕は怒っているわけではないよ!もし僕たちが狩に出られない時が来たら、エーダが全ての狩を担うのだから今からちゃんと必要な素材は知っておいて損はないだろう?」


 確かに・・・私は食べられる魔物の素材の方が詳しいので、ウルラ兄様の言う事は(もっと)もだ。


「食べられない素材も、頑張って覚えます」


「うん、そうだね。エーダは素直で本当に可愛いね」


 ウルラ兄様に頭を撫でられて少し恥ずかしいけれど、やはりそれも嬉しくてついウルラ兄様に寄り添ってしまう。

 そうすると、毎回必ずファルコ兄様が「ずるいぞウルラ!エーダ、俺の腕の中にもおいで」と半ば力尽くでファルコ兄様の腕に抱きすくめられるのだ。


 優しい兄が二人もいる上に、愛する領地が護れるなんて私は幸せ者だ・・・と胸の奥が温かくなる感覚を覚えていた。


 そして、私の一番大事な人・・・


「ファルコ、ウルラ、エーダ!魔物の数が激減した。今日はもう終わりだろう」


 この領地の主であり、そして一番強い・・・リオン・ダンジェ辺境伯。

 私の父上。


 ダンジェの血である私や兄様たちと同じ緋色の髪が風に靡いて、勇ましい父上の頬を撫でている。


「では、今日は上がりましょう父上!」


「うむ、帰りの道中で漏れた魔物を殲滅しつつ戻るぞ」


「はい、父上」


 私も兄様も父上の言葉に頷き、ゆっくりとした足取りでダンジェの街へと歩を進めた。


「いやー、それにしてもいつ見てもエスカルダ様の打撃はえげつないですなあ」


 父上の側近であるグエラが、私の打撃を褒めて・・・くれたのか?


「兄様には素材を大事にしろと窘められましたが・・・」


「エーダは力の加減が上手くなったと思うぞ。つい最近までは下半身も残さず消え去っていたからな」


 父上が褒めて・・・くれたのか?

 なんだか褒められているのか窘められているのかちょっと判断がつかないけれど、私は取り敢えずニッコリと微笑んでおくだけに留めておいた。


「そう言えば父上、今朝方帝都から手紙が届いていたようですが、内容は何だったのですか?」


 ファルコ兄様が助け舟のように話を逸らしてくれる。

 

「いや、それがな・・・まだ中身を見ておらんのだ」


「父上・・・一応皇帝陛下からの書状でしょう。急ぎのものだったらどうするのですか」


 ウルラ兄様が、今度は父上を窘める。

 父上は、あまり机上のお仕事が好きではないのだ。


「そうは言ってもなあ・・・魔物が溢れ出す方が問題であろう?」


「まあ、確かに」


「帰ったら確認するさ。急ぎだとしても、帝都まで返事が届くのに三週間はかかる。朝見ても夜見ても、大した違いはあるまい」


 私たちダンジェ家を先頭に、後ろからはダンジェの私兵とアルナールに籍を置く冒険者たちがゾロゾロと付いて来ている。

 戦うのは私たちだけではない。この領地の兵も冒険者も共に、魔物討伐に参戦するのだ。

 でも、私たちダンジェ家は出来るだけ兵や冒険者たちに被害が出ないように気をつけている。

 辺境の地に魔物と戦うために来てくれる者は、かなり少ないから・・・


「皆、疲れているとは思うが帰路も油断せずに行こう」


「帰りの魔物は私たちに任せて、怪我のある者はウルラの元へ来て傷を治してもらえ」


 父上とファルコ兄様が後方へ声を上げると、まだまだ元気な兵と冒険者たちの声が一斉に上がる。

 その元気な様子に私も嬉しくなり「帰ったら美味しいご飯を一緒に食べよう!」と皆に声をかけると「エスカルダ様ー!」「喜んでー!!」といったような言葉が次々と上がって、ちょっとした地響きのように森の中を兵や冒険者たちの声が木霊した。


「相変わらずエーダは人気者だな」


「・・・エーダに手を出す者がいたら、俺が直々に相手をしてやろう」


「エーダ、ちょっと防御魔法でもかけておこうか?悪い虫が付かないように」


 嬉しそうな父上。

 勇ましいお顔で兵と冒険者達を見渡すファルコ兄様。

 ニッコリと微笑んでいるのに何故だか背中が冷たくなるような気がするウルラ兄様。

 そして、その兄様たちをみてブルッと震える男たち・・・


 さあ、屋敷と言うには大きすぎるダンジェの城へ帰ろう。


 私の愛するアルナールは、今日もとっても平和だ。


いつも読んでくださる皆様、ありがとうございます!

新しく始まった全年齢対象の物語・・・エスカルダの応援、よろしく御願い致します!!

宜しければ、コメントやブクマ、評価をして頂けると喜んで空を飛びます。本当です。


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