エピローグ 月下航路
満月
特別な夜を照らす幻想的な光が、宴の場を包みこむ
互いに異なる世界に住む、異なる個性達
それでいて、見えざる「何か」で強く結ばれた者同士、肩を組み、張り合い、そして笑い合う…そんな夢のような光景がいくつも生まれていた
それを二人の若者が見詰めている
巡「来ちゃいましたね、時間が」
頼都「そうだな」
巡「去年もそうでしたけど、この最後の一時は、とても寂しいです」
頼都「仕方ねぇさ。皆、それぞれの世界がある。んで、それぞれの事情ってのもある」
巡「それは…そうですよね」
頼都「この夜の出来事は『本来はあり得ない夢物語』…奇跡みたいなもんさ。俺もお前も、明日には消える幻だろうよ」
巡「…」
頼都「…けどな」
巡「?」
頼都「一度交わった道なら、そこを旅する限り、またすれ違う事はあるだろうさ」
巡「旅する限り…」
頼都「例え目的地が違っても、な。さあてと…」
巡「…行くんですか?」
頼都「ああ。俺には仕事がある。“掟破り”の怪物共を消し炭にする仕事がな」
巡「怪物を殺して…どうなるっていうんです?」
頼都「…」
巡「他に何か手があるんじゃないかと、僕は思います…」
頼都「そこで止めとけ、平和ボケ公務員」
巡「…」
頼都「言ったろ?『それぞれの事情がある』ってよ。本来あり得ない『この夜』に惑わされるんじゃねぇ」
巡「頼都さん…」
頼都「特に、俺とお前は真逆の立場にある。だから、お互いの主張を語り合えば、争いになる。この宴に招かれた連中も、それぞれの立場にまともに立てば、殺し合う奴らだっているかも知れねぇんだ」
巡「…」
頼都「さっき言ったろ?…この夜の出来事は『奇跡』なんだよ。だから、それに余計なモンは持ち込むな」
巡「…分かりました」
頼都「いやに素直だな?」
巡「いえ。やり方が分かったんです。今は頼都さんとは分かり合えない…それなら、僕は何度でも『旅』をして、貴方とすれ違います。今夜だけでなく、これからも何度でも、分かり合えるまで」
頼都「おい…」
巡「そして、いつか『この夜』を幻から本物に変えてみせます。他の世界の皆さんとも手を取りあえるように…」
頼都「…掛け値なしの頑固者だな。お前」
巡「よく言われます」
頼都「フッ…まぁ、いいさ。どうせ、俺には時間が有り余ってる…お前の頑固がどこまで通じるか、見ててやるよ」
頼都は拳を突き出した
頼都「あばよ、頑固者。もし、旅路の途中でお前がくたばったら、思う存分笑ってやるからな」
それに巡も応じる
巡「必ず届いてみせます…貴方に笑われるのは癪ですから」
拳が離れる
そして、一年前のように二人は真逆の方向へ歩き始めた
宴の喧騒は終わらない
そして、一度交わった道は、幻の夜を越えて続きゆく
その上を旅する者達の、それぞれの思いを導くかのように
夜空に輝く真円の月
その光のようにおぼろげではあったが、彼方への道は確かにそこに輝いていた
【END】