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「そういえばさぁ、みんなは夏休みとかって予定あんの?」


 昼休憩に入ったところで、教室内ではそんな話題で持ちきりだった。

 聞こえてくる声では、バイトや家族旅行などといった健全なものから、ナンパや毎日ゲーム三昧などという親に叱られるようなものもある。


「おい、不々動、飯はいつものとこで食うのか?」


 弁当を持った伏見くんが僕の席へと近づき尋ねてきた。


「はい、そうです」

「んじゃ俺も行くから一緒に行こうぜ」


 最近よく伏見くんと一緒に昼食を摂る。

 そしてもう一人――。


「あ、あのあの!」

「ん? おお繭原、お前も行くか?」

「は、はい!」


 同じく近寄ってきたのはクラスメイトの繭原さんだ。

 彼女も最近では昼食メンバーで欠かせない一人となっている。

 たまにそこへ桃ノ森さんも加わったりするが、友人の多い彼女にとっては付き合いもあるので、毎日というわけではない。


 あの日、【おおわかば幼稚園】の出来事から伏見くんと繭原さんとの繋がりがグッと強まった気がする。

 特に伏見くんとは、帰りも一緒に帰ることもあって、たまにだがそのまま幼稚園へ珠乃を迎えに行くこともあるのだ。

 本当なら僕といると彼の外聞が悪くなるので申し訳ないのだが、彼はまったく気にする素振りさえ見せない。


 それどころか僕といると、女子に絡まれたりしないので助かっているというのだ。

 伏見くんは外見でいえば中性的で可愛らしい。本人は可愛いと言われるのは嫌っているが、そのせいで女子に近寄られたりすることが多い。

 女子が嫌いなわけではないらしいが、可愛いといって近づいてくる女子は苦手で、いちいち相手するのも疲れてしまうとのこと。


 対して僕は人を遠ざけるスキル……嫌な能力だが、それを持っているので、この状況は彼にとっては僥倖なのだそうだ。

 なら他の男子と仲良くすればとも思うかもしれないが、ほとんどの男子もやはり見た目で判断したりからかってきたりするので相手をするのが嫌なようだ。


 その点、僕は伏見くんを外見で判断しないから一緒にいて気楽だという。

 僕も別の意味で他人と接するのが苦手だったが、伏見くんに関しては幼稚園のこともあってか、接しても苦にはならない。

 ただ繭原さんに関しては、女性ということもあってできれば控えてほしいとも思うが。


 とはいっても彼女も我々と同じように親しい友人などが他におらず、いつも一人なので、今更誰かに何を言われても気にしないとのことだ。

 いってみればクラスのボッチ三人衆が一カ所に集まったといえる。

 クラスの人たちも、ボッチにわざわざ気を遣うよりも友人や話し易い人と接する方が気楽なので、こちらに干渉してくることはあまりない。

 いわゆるリア充とされている中で接触してくるのは、桃ノ森さんとその友人の舞川さんくらいである。


「うへぇ~、今日もあっちぃなぁ。ここは日陰になってて良かったぜ」


 屋上の一角。物置部屋のすぐ近くにあるスペースが、僕たちがいつも昼食をとるベストプレイスだ。

 春ならば日差しが当たる場所へベンチを移動するのだが、今日みたいな暑い日はベンチを移動させ、物置小屋の屋根が作る日陰で昼食を堪能する。

 ちなみにベンチは二つ持ってきているので、一つは僕と伏見くんで座り、もう一つは繭原さんが利用するのだ。


「おっ、今日もお前の弁当は美味そうだな不々動」

「そうですか?」

「おう、その漬け物もらってもいいか?」


 前に伏見くんが僕の負担を減らすために畑仕事を手伝ってくれていた頃、朝食に出した漬け物にえらくハマってしまい、あれから時折畑仕事を手伝う対価として漬け物を御馳走しているのだ。

 別に手伝わなくても漬け物くらいならと言うのだが、伏見くんは「それだと施しを受けてるみてえで嫌だ」ということで、今の形に収まっている。


「あ、私もお漬け物いいですか? この卵焼きと交換してください」


 繭原さんも漬け物を好きになってくれて、こうしておかずを交換している。


「んぁ~、けどもう夏だなぁ。汗かくのとかすっげえやだわぁ」

「伏見くんは夏のご予定はあるのですか?」

「あ? 別にんなもんねえよ。どうせ幼稚園関連の仕事とか手伝わされっけどな」


 夏休み期間は、当然幼稚園も休みではあるが、事務仕事や夏休み明けのイベント関連で、先生たちはしっかりと働いている。

 伏見くんは祖母の園長先生の負担が少しでも減ればと、口ではいつも愚痴をこぼすものの手伝ってあげているのだ。


「そういうお前は?」

「自分も特にこれといった用事はないですね。まあ珠乃を海に連れていってあげたいとは思っていますが」

「出たよシスコン。繭原は?」

「わ、私ですか? そうですねぇ……夏休みの最後らへんにはお祭りがあるじゃないですか。それは毎年楽しみですけど」

「「あ~……」」


 僕と伏見くんは同時に声を出す。

 この街の風物詩でもある夏祭りが確かに行われる。

 前に清掃イベントを行った【おおこま公園】では、出店が幾つも立ち並び活気づく。

 花火大会も開かれ、地元民だけでなく観光客も来るちょっとした名物になっている。

 僕も毎年珠乃と一緒に参加していた。


 そういえばどーくんは、毎回毎回迷子になってお父さんに怒られてましたね。


 亡き兄のことを思いふと頬が緩む。

 非常に活発で、ジッとしていることができないどーくんは、そのずば抜けた行動力でいつも両親を困らせていた記憶がある。

 祭りなどの人が集まるイベントなどは、テンションがマックス状態になり一人で駆け回るので探す方も大変なのだ。


 対して僕はあまり人混みが好きではないことから、座れる場所を探してそこをジーッと動かないという、まさに正反対な行動を見せていた。だから逆に親からはもっと動いて楽しめと言われていたが。

 しかし珠乃が生まれてからは、率先して僕が珠乃を抱いて祭りを堪能していた。

 今年もきっと愛しの妹と回ることになるだろう。







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