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 危機一髪というところで【いちご組】の演目を無事行うことができホッとしたのも束の間、僕はすぐに病院へと向かうことになり施設を出ようとした時に、エントランスで何故か警察の方がいて、僕を見て怖い笑顔でニッコリと笑った。


「さあ、僕とO・HA・NA・SHIしようじゃないか。暴走少年くん?」


 聞けばこのお巡りさんは、千志くんを抱えて走っていた時に声をかけた人だったらしい。

 確か交番の前を通った気がしたが、あれは気のせいではなかったようだ。

 あまりにも異様な雰囲気だったために、お巡りさんはもしかしたら事件かもと僕のあとを追ってきたらしい。


 そこで人に尋ねながら僕がここに入ってきたことを知り、今の今まで職員さんに事情を聞いていたとのこと。

 園長先生から職員さんへ、僕の事情が粗方伝わっていたこともあり、ホールへ無理矢理入って事情を聞き出すことはせずに、ここで待ってくれていたらしい。

 僕からも謝罪とともに詳しい事情を離すと、お巡りさんも晴れて納得してくれた。

 もちろん子供を抱えながらあんな速度で走っていたことに対しては厳重な注意を受けたが。


 そして怪我のことも聞き、お巡りさんが原付バイクで病院まで先導してくれた。

 診断結果は捻挫で全治二週間とのこと。

 もう少し無理をしていれば靭帯を完全に断裂しており、危ういところで重症だけは避けることができたようだ。

 それでも二週間程度は、ガッチリテーピングをして歩く時は松葉杖を必要と言われた。


 そして今、僕は珠乃と一緒に家の仏壇がある部屋で一緒に線香を上げていた。

 珠乃はマッチ売りの少女の衣装を見せたいらしく、着用して手を合わせている。


 ――ピンポーン。


 そこへインターホンが鳴ると、珠乃が「きたぁ!」と喜び勇んで玄関へと走っていく。


「ゆーちゃん、もーちゃん、りーちゃん、いらっしゃ~い!」


 どうやら桃ノ森さんたちが来られたようですね。

 僕は松葉杖を使いながら玄関へと向かう。

 そこには桃ノ森さんと舞川さん、そしてゆーちゃんがいた。

 何故彼女たちがやってきたかというと、本日、ここでお遊戯大会の大成功を祝してパーティを行う予定なのである。

 桃ノ森さんたちも差し入れとしていろいろ持ってきてくれているようだ。


「ろーくん、台所借りてもいい?」

「はい。今、お婆ちゃんがいると思いますので」

「うん、分かった」

「あ、じゃあウチも手伝うし、ももり」


 桃ノ森さんと舞川さんが揃って台所の方へ向かった。

 ゆーちゃんは、大歓迎ムードの珠乃と手を繋いでリビングの方へ向かう。

 僕も珠乃たちを追おうとすると、またもインターホンが鳴り響いた。


 扉を開けると――。


「よぉ、来たぜ不々動」

「ほ、ほほほほ本日はしょの、お、おおおおお招き頂きゃましゃてありがとうごじゃいましゅっ!」

「おちつけよねえちゃん、なにいってるかわかんねえ」


 伏見くんと一緒に、繭原さんと弟の千志くんだ。


「いらっしゃいませ、伏見くん、繭原さん、千志くん」

「おう! にーちゃん! あそぼうぜ!」

「こ、こら千志! ご、ごめんなさい不々動くん! あれから千志ってば、いつもいつも不々動くんと遊びたいって言ってうるさくて」

「んだよ! ねーちゃんだってにーちゃんにあえてうれしいくせに! おれしってるんだぜ! ねえちゃんはにーちゃんのことぶぉっ!?」

「あーあーあーっ! ちょっと千志! 何を言うつもりなの!?」


 慌てた様子で千志くんの口を塞いだ繭原さんの表情は真っ赤だ。


「うん、仲が良さそうで何よりですね」

「今の一幕でそれだけしか感じ取れなかったお前はある意味すげえよ」

「え?」


 何故か伏見くんは呆れたように肩を竦めている。


「んなことより邪魔していいのか?」

「あ、はい。どうぞお入りください」

「んっぷはっ! おれいっちばーんっ!」

「ああ、もう千志っ!」


 テンションの高い千志くんは靴を脱ぎ捨てると、ドタドタと廊下を走っていく。


 そして――。


「んなぁっ!? な、ななななななんでゆーはもここにいるんだよっ!」

「もう! せんくんうるさいかや! ゆーちゃんはたまがよんだの!」

「あ、あのあの……おいえのなかではしずかに……ね?」


 顔を合わせれば何かと衝突する珠乃と千志くん。そしてその間を取り持つようにゆーちゃんが宥める。

 何だかんだいってもこの三人は良い関係のように思えた。

 まあゆーちゃんの精神的疲労は一番だろうけど。


「っ! ま、まあゆーはがいうならしずかにしてやらんこともねえ!」


 千志くんはゆーちゃんのことが好きなようだから強く反論することはない。


「でもにーちゃんち、でっけえよなぁ! なあなあにーちゃん! おれもここにすみてえ!」

「え? あの、それは……」 


 助け舟を求めて繭原さんを見る。


「ダメでしょ、千志。無茶なことは言わないの」

「えぇー、おれにーちゃんといっしょにくらしてえなぁ……! そうだ! じゃあにーちゃんがねえちゃんとケッコンしてウチにこいよ!」

「「「「っ!?」」」」


 とんでもない爆弾発言に、その場にいたほとんどの者が言葉を失った。

 しかもタイミングの悪いことに、桃ノ森さんと舞川さんまでもが顔を見せていた直後だったのである。


「け、けけけけけけ結婚んんんんんっ!? にゃ、にゃに言ってるの千志ぃぃぃっ!」


 繭原さんは繭原さんで、両手を忙しなく動かしながら必死に千志くんを咎めようとする。


「けどおれ、にーちゃんがほんとうのにーちゃんになってくれたらいいし。ねーちゃんとケッコンすりゃ、そーなるんだろ? だったらケッコンしろよ!」

「~~~~~~~っ!? ふ、ふ、不々動くんと結婚。だ、だ、旦那様……きゅぅ~」


 とうとう脳内処理が追いつけなかったのか、目を回して倒れそうになった繭原さんを、僕が「おっと」と抱きかかえた。


「大丈夫ですか、繭原さん?」

「ふにゅぅぅ~…………ふぇ?」

「……繭原さん?」

「え……ええぇぇぇっ!? ふ、ふふふ不々動くんっ!?」

「いえ、〝ふ〟が多いです。自分は――」


 不々動です、と言おうとしたその時、


「いつまで女の子を抱きしめてるのかな、ろーくん?」


 思わずゾクリと背筋が凍るような声音が鼓膜を震わせた。

 振り返ればそこには表情は笑顔でも目が笑っていない桃ノ森さんがいたのである。

 しかも舞川さんまでもが少し不機嫌そうな顔だ。


「いやあの、自分は繭原さんが倒れそうになったので危ないと思いまして……」

「もう! だったらすぐに手を離す!」

「は、はいっ!」


 反射的に直立不動で返事をしてしまった。

 何でしょうか。お婆ちゃんが怒った時の気迫に似ていました。……怖い。


「センくんもほら、結婚とかお姉ちゃんが困ってるでしょー?」

「は? ギャルはだまってろよ、バーカ」

「んなっ!?」

「つーかねーちゃんはこまってねえし。それににーちゃんがだれとケッコンしようとギャルにはかんけーねえだろ」

「か、か、関係ないなんてことないし!」

「はあ? だったらギャルはにーちゃんのなんなのさ?」

「へ? アタシ? アタシはろーくんの……えと……そのぉ」


 いやチラチラとこちらを見られましても。クラスメイトではないのでしょうか。


「そ、そう! アタシはろーくんのお姉ちゃん的存在なんだし!」


 突拍子もない発言に誰もが唖然とする。


「ももり、あんたいきなり何言って……」


 舞川さんもさすがに親友といえど真意が分からないようだ。


「と、とにかくアタシはろーくんのお姉ちゃんみたいなもんなの! だからろーくんのことは家族みたいに知っておかなきゃなんないの! 分かった? 分かったら返事っ!」

「うっ……はい」

「よろしいっ!」


 小さな暴君の千志くんも、不可思議全開の桃ノ森さんの対応が分からなかったようで、ついつい返事をしてしまっている。


 それにしてもお姉ちゃん、ですか。


 確かにどーくんが生きていたら、きっと桃ノ森さんはどーくんと恋人になって、いずれは夫婦に。

 そう考えれば確かに彼女が義理の姉になる未来だってあったのだ。

 僕は女性たちの騒ぎが落ち着くまで、縁側へと座って待つことにした。

 するとそこへ――。







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