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「コンコンコン」


 千志くん演じる青鬼が、わざわざノックの音まで声に出す。


「おーい、アカオニくーん」

「……あ、このこえはアオオニくんだ! はーい」


 扉を開けるフリをして入ってきた青鬼が赤鬼の目の前にチョコンと座る。


「友達の青鬼がやってきました。そこで赤鬼は、事情を青鬼に伝えたのです。そして赤鬼の話を聞いた青鬼は、赤鬼のためにこんなことを提案しました」


 語りのあとは、少々長い青鬼のセリフだ。

 いけるか、千志くん……!


「だったらこうしよー! ぼくがむらでおおあばれするよ! そこへアカオニくんがやってきて、ぼくをこらしめるんだ! そうすればむらびとたちは、アカオニくんがいいオニだってわかって、きっとなかよくしてくれるから」


 うん。見事です千志くん。必死に練習してきた甲斐がありましたね。


 するとその時だった。

 不意に講演ホールに誰かが入ってきた気配を感じたので視線を向けると、肩を上下させて荒々しい息遣いをした繭原さんが立っていたのである。


 彼女は舞台で見事に演じる千志くんを見て嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 さらに続けて彼女の両親と祖父母もその後ろから姿を見せる。

 良かった。何とか途中からでも見ることができて。

 僕は再び舞台へと注目する。


「そんなのアオオニくんにわるいよ」

「いいんだよ! ぼくがしたいんだ!」

「でも……」

「だいじょーぶだいじょーぶ。きっとうまくいくから!」


 青鬼の前半のセリフを聞いて、僕の代わりにビデオカメラで撮影してくれている桃ノ森さんがチラリとこちらを見てくる。

 何というか兄のどーくんの口癖をちょっと入れただけなのに、気づくとはさすがは桃ノ森さんだ。


「そうして青鬼は、無理矢理赤鬼を引き連れて村の方へと下りていきます。青鬼は、赤鬼に見つからないように隠れるように言うと、村へと入っていき大暴れするのです」


 語りのあとに、青鬼が暴れるシーンが映る。


「にんげんめー、なまいきだぞー!」


 青鬼がハリボテで作った家や井戸などを破壊していく。


「やめてー!」

「そうだそうだー!」

「なんでこんなことするのよー!」


 当然村人たちは悲しみに叫ぶ演技を見せる。

 そこへ救世主のように現れたのが赤鬼だ。

 ちなみに先程とは別の子が赤鬼役をやっている。赤鬼は、三人の子が回して演じているのだ。


「まてーっ! むらびとたちにわるさをするのはゆるさないぞー!」


 赤鬼は青鬼を捕まえて、舞台袖に押し出そうとする。


「こっからでていけー! むらびとたちは、ぼくがまもるんだー!」

「くそぉぉぉー!」


 赤鬼に押し出され、青鬼は袖へと消えていく。


「ありがとー、アカオニさん!」

「あなたのおかげでたすかったよ!」

「これからはなかよくしよー」


 これで赤鬼の願いは叶った。

 場面が変わり、赤鬼の家の中で人間たちと楽しそうに遊んでいるシーンになる。


「計画は成功し、晴れて赤鬼は人間たちと幸せに暮らすことができました。赤鬼はとてもとても喜びました。……しかし、時が経つにつれて、赤鬼には気になったことがありました。それは、あの日から青鬼の姿を見なくなったことです」


 今度の場面は、青鬼の家のシーンである。

 舞台にはハリボテの家と、赤鬼だけがいた。三人目の園児が、赤鬼を演じている。


「ある日、赤鬼は青鬼の家を尋ねてみましたが、扉は固く閉じられていました。そして扉の近くに貼り紙があるのを発見するのです。そこにはこう書かれています。『赤鬼くん、人間たちと仲良くして楽しく暮らしてください。もしぼくがこのまま君の傍にいれば、君も悪い鬼だと思われるかもしれません。ぼくは旅に出るけれど、君のことはいつまでも忘れません。さようなら。身体を大事にね。どこまでも君の友達です。青鬼より』と」


 語りが終わった直後に、赤鬼はペタンと座り込み「え~ん、え~ん、さびしいよー」と泣く。

 原作ではここで終わる。

 しかしここからがこの物語の真骨頂だ。


「なかないでー、アカオニさん!」


 舞台袖から村人たちが出てきて赤鬼のもとへ集まる。


「ごめんよー、ごめんよー、アオオニくん」


 赤鬼はそれでも泣いている。


「泣きじゃくる赤鬼にどうすればいいのか村人たちも困りました。しかしその時です。どこからともなく赤い服を着た五人の少女が現れたのです」


 語りのあとに、コミカルな音楽が流れると舞台袖から可愛らしい園児たちが姿を見せる。

 その先頭に立つ子に僕は思わずグッと身体を寄せて前のめりになってしまう。


「マッチは、いかが? マッチは、いかが? だれかマッチをかってくだしゃい」


 そう。マッチ売りの少女たちだ。

 その先陣を切って最初にセリフを言った子こそ、我らが不々動家のアイドル――珠乃である。

 ああ、愛らしいです。頑張ってください、珠乃。

 隣に座っている桃ノ森さんも、小声で「可愛いし、可愛いすぎだし! お持ち帰りしたい!」などと不穏なことを口走っている。

 絶対に妹は死守しますけどね。


「「「「わたしたちは、マッチうりのしょうじょですっ!」」」」


 少女たちが一斉に両腕を高々と上げて自己紹介をする。


「これはどうしたことでしょうか。突然現れた少女たちに全員が戸惑ってしまいます。彼女たちは、困っている人の願いを叶えるというマッチ売りの少女と呼ばれる妖精たちなのです」


 マッチ売りの少女たちは、赤鬼の周りを囲うと順番に「マッチはいりませんか?」と言い出す。

 そして珠乃が演じる少女が最後に言う。


「このマッチをかってくれれば、おともだちとなかなおりできるのー!」


 こらこら珠乃。そこは「できますよ」でしょう。語尾があなたの癖そのままになってますよ。

 まあ天元突破するくらい可愛いのでどうでもいいですがね。


「アカオニくんとなかなおりできるの? じゃあかう!」


 そこからは語り中心に子供たちは動いていく。


「突如現れたマッチ売りの少女たちから買ったマッチに、赤鬼は火を点けた。すると驚いたことに、マッチから出る煙の中に青鬼が映し出されたのである。そこには青鬼が、一人で村に降りている姿があった」


 舞台では千志くんだけがいて、トンカチを持って壊れた建物を直している演技をしている。


「青鬼は昼間、村にある古くて壊れてしまった牛小屋の壁に村人たちが困っていたのを聞き、夜遅く村に下り一人で修理をしていたのだ。この映像は過去の出来事。マッチ一本一本に、それぞれ青鬼が村人のためにやってきたいろいろなことが映し出されていたのです」


 次に病気で寝込んでいる村人の家の前に青鬼がやってくる。


「病人のためによく効く薬草や魚などを取って、黙って家の前に置く青鬼」


 次は熊に襲われそうになっている村人たちのシーン。


「村人に襲い掛かろうとする熊の後ろからそっと近づいた青鬼が、ゴツンと拳骨を与えると、熊はバタッと倒れてしまう。しかし青鬼は、すぐにどこかへと去っていったので、村人は青鬼が助けてくれたことに気づかなかったのです」


 次々と青鬼の善行がマッチの煙から映し出されているという形だ。

 そして再び赤鬼と村人、そしてマッチ売りの少女たちがいるシーンへと移る。


「こうして青鬼がどれだけ人間のために、いえ、みんなのために頑張ってきたのかを全員が知りました。村人たちも青鬼の優しさに感動し、これまでのことを謝りたいと言う。しかしすでに青鬼は旅に出てしまっている。そこへマッチ売りの少女たちが口を揃えて言うのです」

「「「「まだまにあうよ!」」」」


 マッチ売りの少女たちが全員、同じ場所を指差す。


「「「「おともだちはアッチ!」」」」

「赤鬼と村人たちは、一斉に青鬼を追いかけることにしたのです。そして、とうとう青鬼を見つけることができました」


 シーンは最後。青鬼と赤鬼たちの和解へ。


「アオオニくーん!」

「……アカオニくん、なんでここに?」

「ぼくは、アオオニくんともいっしょにくらしたい!」

「……いっしょにいていいの?」

「うん! だってともだちだもん! ずっとずっと、だいすきなともだちだよっ!」

「ありがとう、アカオニくん! とってもうれしいよ!」


 互いにギュッと握手を交わす赤鬼と青鬼。

 それを嬉しそうに囲いながら「よかったねー」とはしゃぐ村人たち。

 マッチ売りの少女たちも現れて、皆を祝福するように拍手をしている。


「離れ離れになってしまった赤鬼と青鬼でしたが、マッチ売りの少女たちのお蔭で再び仲直りすることができました。これは心優しい赤鬼と青鬼に神様が与えてくれた奇跡だったのかもしれません。こうして赤鬼と青鬼は、人間たちと一緒にいつまでも平和に、そして幸せに暮らしました」


 そこで全員が手を繋いで観客席に向かってお辞儀をする。


「「「「ありがとうございましたっ!」」」」


 直後、ホール内は温かい拍手で溢れ返る。

 僕もまた精一杯披露してくれた天使たちに向かって拍手を送った。

 一時はどうなるかと思ったが、本当に最後まで諦めないで本当に良かった。


 だって……だって……。


「えへへ~っ、にぃや~ん!」

「に~ちゃ~んっ!」


 珠乃や千志くんのこの笑顔を見ることができたのだから。







本当はもっとラノベみたいな複雑な内容だったが、書き終わったあとに気づいた。

あ、これ子供たちがする演劇だ……と。

小説じゃなくて絵本の内容というのをすっかり失念していたという話です。


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