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「そ、そんなことより千志はどうなの?」

「ん~?」

「好きな子とかいたり?」

「っ!? べ、べ、べつにいないからそんなの!」


 うわ、この子……わっかりやすいよぉ。


 さすが私の弟だけあるということだろうか。

 ただこれで標的にできると思い、思わずニヤニヤしてしまう。


「へぇ~、どんな子なの? 名前は?」

「い、いうわけねえだろ!」

「あれ? じゃあやっぱりいるんだね」


 だっていなかったら『いうわけねえ』なんて言わないもんね。

 そこでハッとあることに気づく。

 それは不々動くんの妹さんだ。


「……もしかして――――珠乃ちゃん?」

「……はぁ?」


 あれ? 何その冷たい目。ちょっとお姉ちゃんビクッてなっちゃったよ?


 顔を真っ赤に照れ臭そうにしていた弟の表情が、一気に不愉快全開といった顔になった。

 頼むからそこらへんに「ぺっ」って唾とか吐かないでね。


「なんでアイツがでてくんの?」

「ち、違った?」

「ちっげぇよ! アイツはおれの……おれのライバルだ!」

「ラ、ライバル?」


 何その熱いオーラは。この世界って少年漫画だったっけ?


 でもライバルってどういうことだろう……。

 千志にとって気にくわない存在、ってことだよね? あんな可愛くて優しい珠乃ちゃんが、わざわざ誰かに喧嘩を売ったり、敵になるようなことをするとは思えない。

 でも千志は見るからに闘志を燃やしている。絶対に負けられない相手を珠乃ちゃんに指名している様子だ。


「どういうこと? 珠乃ちゃんと喧嘩してるの?」

「……べつにケンカなんかしてねえ。ただアイツが……ジャマばっかするから」


 そっぽを向きながら愚痴でも言うかのようにブツブツと声に出す弟を見て乙女の勘がピンと働く。


「…………もしかして珠乃ちゃんが千志の恋のライバル?」

「~~~~~~っ!?」


 これぞ図星だと言わんばかりに真っ赤な顔を見せる。

 ああやっぱりそういうことかぁ。ということは……。


「そっかぁ。千志にも好きな子がいるんだねぇ」

「!? う、うっせえから! そういうんじゃねえから! ああもうこのハナシおしまい! ねえちゃんはさっさとフロにはいれよっ!」


 これ以上は恥ずかしいのか、千志はそそくさと部屋を出て行こうとする。

 ただあと一つ、別件で千志に尋ねたいことがあったので聞く。


「ねえ千志、千志はお遊戯大会でどうしても『泣いた赤鬼』をやりたいの?」

「はぁ? いきなりなに?」

「お願い、答えて」

「……なんだかわかんねえけど。まあ……アオオニがカッコイイし」


 それだけを言うと、今度こそ千志は部屋から立ち去っていった。


 …………カッコイイ。


 あの子は確かにそう言った。

 千志は『いちご組』の中でもガキ大将的な存在だという。

 他の男の子たちも、千志の言うことには従うような流れになっているらしい。


 ちょっと複雑だけど……。


 前に他の組の子に『いちご組』の男の子がイジメられたことがあって、その時に率先して助けたことで、そこに僅かな男気を感じて慕っているのだろう。

 それに千志はワガママ気質なところもあり、自分がやりたいことを誰に言われようとも貫くような性格だ。

 そこから推察するに、普通なら主役である赤鬼をやりたいと言うだろう。


 だけど千志は青鬼をやるようだ。その理由が、さっきあの子が言ったことである。

 どうカッコイイのか、聞いても詳しいことは教えてくれない。


「『泣いた赤鬼』……か」


 原作はとても悲しい話ではある。劇ではハッピーエンドにする予定らしいが。

 作中の青鬼の行動は、言ってみれば《自己犠牲》である。

 友達のために周囲から嫌われることも厭わなかった青鬼は、確かにカッコイイと思えるかもしれない。


 でも……。


「でも……お友達はきっと…………ずっと後悔しちゃうよね」


 真実を知った赤鬼の胸中を思うと、やはり原作はバッドエンドであると思ってしまう。

 できれば他に何かもっと良い方法があったのではないだろうか……。

 みんなが笑顔で終われるようなやり方が――。


 ――ブゥゥゥゥ。


「にゃっ!?」


 右手にあったスマホがいきなり震えたので声を上げてしまった。

 見ると――。


「え……えっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? ふ、ふふふふ不々動くんからメールッ! な、な、何でっ!?」


 確かめてみると、ついさっき私がメールを送っていた。


 …………あ。


 その時刻を見て謎は解明した。

 どうやら千志に声をかけられて驚いた拍子に送信ボタンを押していたようだ。

 思わぬ結果になったが、それでも不々動くんとまたメールのやり取りができると思い、私は笑顔でメールを打つ。


 そしていつまでも部屋から出てこない私を叱りに、お母さんが飛び込んできたのは言うまでもないことだった。







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