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「気づいているでござるかな? 拙者は『小説家になれぃ!』で『もっこもこ』というハンドルネームを使っているのだが!」
「もっこもこ……! もしかして初期の頃から自分の小説に感想やレビューなどを書いてくださっているあのもっこもこさんですか!」
「うむ! そのもっこもこでござるよ!」
もっこもこさんといえば、多華町先輩とほぼ同時期にファンになってくれた方で、毎回小説を更新する度に感想を書いてくれる。
ただ感想では、まるで淑女かのように『~~ですわ』などといった口調なので、目の前にいるもっこもこさんとは重ならないが。
「実はそのことに関しては私も驚いた。まさか愛田先生が、とな。的確な感想も多く、私も感想欄を見る度に感心はしていたものだが」
そうなのだ。もっこもこさんは、誤字脱字指摘はもちろんのこと、内容に関してもより出来栄えがよくなるような指摘をしてくれていたのだ。
彼女のアドバイスのお蔭もあって、文章力などもずいぶん向上できたのではなかろうか。
「あっ、これ名刺でござる!」
「これはどうも。……すみません、自分のはまだ作っていなくて」
「気にせずともよいでござる。拙者はこうして直に不動先生に会えただけで満足でござるから!」
「! そう言って頂けるのは何だか嬉しいです」
「お、おお~! 不動先生の照れ顔! 強面に潜む可愛らしい素顔はとても良いギャップでござるよ~! 是非一枚描いてもよいでござるかな?」
「え? か、描くとは?」
すると愛田先生が座っていた傍にあるバッグから彼女が取り出したのはスケッチブックだ。
そして椅子に腰かけると、先程のような笑顔から一転、突然能面のような表情になる。
そのまま僕とスケッチブックを交互に見つめながら、手に持ったペンを動かし始めた。
「え、あ、あの?」
「不動先生、良かったらそのまま動かないでいてあげてほしい」
「は、はぁ……」
日中さんに頼まれ、僕は約五分程度だったか。石像と化した。
そうして――。
「――できたでござるぅっ!」
再び笑顔を浮かべた愛田先生は、トトトトトと僕の方へ来て、スケッチブックを見せてきた。
そこには明らかに僕のものと思われる似顔絵が描かれている。
――衝撃的だった。
まるで鏡にでも映したかのように僕そっくりの絵である。
クオリティが半端ではない。僕も美術の授業で似顔絵を描いたことがあるが、そんなものと比べるのがおこがましいほどのレベルだ。
凄い……さすがはトップクラスのイラストレーターさんですね。
「素晴らしいです。さすがはかの有名な愛田先生。ただその……照れ顔はちょっと恥ずかしいですが」
できれば普通の顔つきが良かった。
「むふふ~、不動先生に褒められたでござるよ~、りーちゃん」
「こ、こらもこ! 不動先生の前でその呼び名は止めろ!」
……あれ? このやり取り……。
互いに名前呼びだし、愛田先生に至ってはあだ名だろう。
二人の間に、それまで見えなかった何か深い繋がりを感じた。
すると僕が不思議がっているのが分かったのか、日中さんは咳払いを一つすると説明してくれた。
「じ、実はだな、コイツは幼馴染でね。小学校からずっと一緒だ」
「そ、そうだったんですか……」
「ああ。まあ腐れ縁というやつだよ。昔から天才肌で周囲に気を遣わない性格でね、いつも私がそのフォローをしていた。いや、今もだがな」
「むふふ~、りーちゃんは拙者の嫁でござる!」
「黙れ! お前などの嫁に誰がなるか!」
「あーそゆこと言うんでござるかぁ? ねえねえ不動先生、りーちゃんってば高校生の頃に好きな男子ができて告白しようとするんでござるが、その男の子ってのが実は――」
「あっ、あぁぁぁぁぁぁっ! お、お前何を言おうとしているんだ!」
真っ赤な顔をした日中さんが、すぐに愛田先生の口を塞ぐ。こんな慌てふためく彼女は珍しい。
「む、むむむむぅ、んむむむぅ、うんむっ!」
愛田先生……何言っているかまったく分かりません。
「いいか? 余計なことを言うと、お前の黒歴史も不動先生に教えてやるからな?」
「!? ……うんうん」
コクコクと焦り顔で愛田先生が頷く。どうやら彼女も言われたくない過去があるようだ。
「お二人は仲が良いんですね」
「ふぅ。なぁに、さっきも言ったが腐れ縁なだけだ。ほらもこ、さっさと仕事の話をするぞ」
「えぇー、拙者はもっと不動先生と話したいでござるよー」
「それは仕事の話が終わってからでもできるだろ?」
「……それもそうでござるな」
愛田先生が再び椅子に座ると、早く仕事を終わらせようといった感じでバンバンとテーブルを叩く。
日中さんは愛田先生の隣、僕は二人と対面する席へ腰を下ろした。
「おほん。では改めまして。拙者は愛田もこ。この度、不動先生の専属絵師としての任を仰せつかった天才イラストレーターでござるよ!」
「こら勝手なことを言うなもこ。専属とは決まっていない」
しかし天才というところは否定しない。気兼ねの無い友人でも、その才能はしっかりと認めているということだろう。
「あの、こちらも改めて。『異世界の十眼使い』を執筆させて頂いている不動ゴローと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「うんうん! 末永くよろしくでござるよ! はい、お仕事の話終わりぃ! あのね不動先生!」
「もこ……頼むから勝手に話を進めないでくれ」
「えぇー、だってぇー」
「だってじゃない。とりあえず不動先生、彼女が君の作品の絵師担当だ。何か不平不満はないか?」
「ちょっとぉ! そこは質問じゃないのでござるか! どうしていきなり不平不満!?」
「うるさい。まあ、こんな奴だが腕は確かだ。それは実績も知っている不動先生なら分かると思うが」
「もちろんです。愛田先生が担当してくださるならきっと最高の一冊になると思います」
「おお~! ねえねえ聞いた、りーちゃん! 感想もちゃんと返事してくれるし、りーちゃんからも良い子だって聞いてたでござるが、もうもう! ポイント高いでござるなー!」
「こら嬉しいからってテーブルを叩くなバカ」
何だか本当に感情の起伏が激しい人だ。
それよりも僕を見て驚いたり怖がったりせず、すぐに駆け寄ってきた人物はもしかしたら彼女が初めてかもしれない。
いや、これが大人の対応というものなのか。
見た目では同級生には見えないが、日中さんと同じ成人女性なのだ。確か日中さんも怖がりはしなかった。若干驚いてはいたが。
大人の人って凄い……。
ま、まあ……友枝先生と一緒で、愛田先生は大人には若干見えにくいですが。
「おほん。さて、これからこのチームで一つの作品を作り上げていくのだが、双方に異論はないか?」
異論なんて最初からあろうはずがない。
ただ愛田先生のキャラクターにはビックリしたが。
愛田先生も不満はないようで笑顔で「ないでござるよー」と気さくに言った。
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