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「あー行っちゃったね、フッシー。やっぱ人見知りなのかな」


 どうやら桃ノ森さんも、彼があまり対人関係が得意ではないことを知っていたようだ。元々人見知りだった経験もあって見抜けたのかもしれないが。


「でも結構意外だったかも。ろーくんがフッシーと友達になってたなんて」

「……友達、ですか」

「あれ? 違うの?」

「特別そういう関係ではないかと。会話をしたのも今日が初めてですし」

「んー別に初めてとかは関係なくない? ねえ理菜?」

「う、うん。まあ……友達ってフィーリングみたいなもんだし」

「そうそう。会ってすぐに友達ーって珍しくないし」


 フィーリング……。

 つまりは相性ということでしょうか。

 僕と伏見くんとの相性は…………さっぱり分かりませんね。


 そもそもどこからが友達なのか、その境界線が今の僕には理解できない。

 こんなことを考えるようじゃ、やはり自分には友達なんて作れないのかもしれない。


 どーくん、どうやったらあなたのように自然と友達を作れるのでしょうか?


 お婆ちゃんにも言われたが、自分は難題過ぎて辟易してしまう。


「あっ、ウチらも早く食べないと時間ないよももり!」

「そだね! じゃあさくっと食べよー」


 そうやって和気あいあいとしながら二人は食事し始める。

 僕も残りを胃袋に収めて、水筒に入れている熱い緑茶で喉を潤す。

 そこでふと先程まで隣に座っていた伏見くんのことを考える。

 楽しい時間を過ごさせて頂いた。

 その言葉に偽りはない。

 結構強引な性格で、自分にも物怖じせずにハキハキと言いたいことを言う。

 だからこちらも気を遣わず思ったことを口にできたような気がする。


 …………誰かに似てるような。


 不意にそんなことを思う。そしてピンと考えが浮かんだ。

 そうか。彼はどことなくどーくんに似ているのだ。

 どーくんのようによく笑うといった感じではないものの、自分に対し気さくに話しかけてくるところや、喋り方が似通っていた。

 だから話してて楽しいって思えたのかもしれませんね。


 彼となら、またこうして話してみたい……。

 そう一瞬思ったが、きっといつか自分のせいで迷惑をかけてしまうと思うと踏み留まってしまう。

 かつて友達だと思っていた者たちのことが脳裏に浮かび、同じような言動をする伏見くんが重なる。

 拒絶されるのは慣れているが、自分のせいで彼の評価まで落としてしまうのは申し訳ないと思う。


 ……はぁ。お婆ちゃん、やはり自分にはお友達は作れそうもありません。


 僕は出した結論に溜め息を吐きながらも、完食した弁当を片していく。

 とりあえず今は、これから行われるシャトルランに向けて集中しようと時間を過ごした。










「――うむ。ではプロットに関しては問題ないので、さっそく執筆に入ってもらってもいいかな?」

「了解しました。できるだけ早く原稿を完成できるようにします」


 現在、僕は自室にて、激熱文庫という人気ライトノベルレーベルであり、僕の担当編集をして頂いている日中さんと電話で話していた。

 何とか四月中には納得のいくプロットを完成させ、それを日中さんに見てもらい執筆OKを頂いたのである。

 これからプロットをもとに原稿を書き上げ、一巻を完成させるという流れだ。


「そういえば今日は何となく声が疲れている感じだな。何かあったのかい?」

「あー実は今日、学園でスポーツテストがあったのです」

「なるほど。しかしスポーツテストとは、また懐かしい。今もシャトルランはあるのかな?」

「はい。そのシャトルランのせいでずいぶんと体力を持っていかれました」

「ははっ、そうか。確かに走るのが得意な人でも、あれは自分のペースで走るわけではないから疲れるだろうな」


 シャトルランは25メートルの距離を、音楽に合わせて往復するのだが、その音楽が徐々に早くなり、ついていけなくなるとアウトになってしまう。

 ランニングなどでは自分のペースで走る分、慣れれば疲れにくくなるが、シャトルランは体力配分が難しく普段からしていない人にはキツイものだ。


「そういえばイラストレーターの件だが」

「あ、はい。メールでは決まったと仰っていましたが」

「うむ。かなり多忙な人でな。ようやく口説き落とすことに成功したよ。それも君のお蔭だ」

「え? 自分の、ですか?」

「ああ。最初は忙しさもあり断られていたのだが、その人は君の名前を告げるとすぐに了承してくれたのだよ」

「は、はぁ……」


 何故でしょうか? 顔見知り? ……いえ、イラストレーターさんの知り合いはいないはずですが。


「何でもネットの不動ゴローのファンらしいよ」

「そ、そうなんですか? それは……嬉しいことですね」

「結構読んでいるイラストレーターも多いぞ。中には実際に絵を描いて、作家さんに送っている人もいたりするみたいだしな」


 そんな素晴らしいプレゼントをもらう人もいるんですね。

 プロの絵師さんに絵を描いてもらえるなんて望外の喜びでしょう。


「あの、お名前をお聞きしてもいいですか?」

「ああ。名前は――愛田もこという方なのだが」

「愛田……どこかで……あ! あの有名なRPGのキャラデザインを担当している方ではありませんでしたか?」

「ほう。知っていたか。その通りだ。その方は今までゲームのキャラデザしかしていなかったこともあり、今回も断られる確率は高かったが、良い意味で裏切られた」


 驚きだ。

 ここ数年の間に発売されたゲームなのだが、ゲームの内容も素晴らしいのはもちろん、その世界観にとてもよく合ったキャラデザが一気に火を点けたといっても過言ではない。

 事実ネットでは無名だった愛田もこの名は津波のように広がり、ゲームの内容よりも絵師さんの話題の方が豊富だった。 


 そして瞬く間にゲーム業界では引っ張りだこのイラストレーターとなっていたのである。

 ゲーム雑誌などでも、幾つか特集を組まれていたのを見かけたことがあった。

 ただ顔出しがNGということもあって、素顔が分からないのが残念だったが。


「君の書く作風にも十分に合ったイラストを描いてくれるのは、愛田先生しかいないと思いアタックしていたのだよ」

「そうだったんですか。いえ、まさかそんな有名な人が担当してくれるとは……」


 いや、それよりも自分のファンだというのがまだ信じられない。


「あちらさんも同じだよ。君の名前を出した瞬間に、一気に食いつかれたからな。それから君の作品の魅力について二時間は互いに語ったのは良い思い出だ」


 に、二時間も……何だか恥ずかしいですね。


 日中さんは作家の僕に負けず劣らずの作品愛を持っている方だ。そのような人と二時間も語れるとは、その人も相当である。


「それで是非一度顔合わせなどを、と思っているのだが。どうだろうか?」

「か、顔合わせ……ですか。だ、大丈夫でしょうか?」

「む? 何がだ?」

「その、自分のこの見た目だときっと驚かれるか怯えられるかなので」

「……ふむ。しかし愛田先生自身が君に会うことを望まれているからな。どうしても嫌なら断ることもできるが」

「…………いえ、さすがにお断りするのは失礼だと思いますので」

「そうか。あちらは大人だから君の言い分も理解してくれるとは思うぞ?」

「それでも……これから一緒に一つの作品を作っていく方ですから」


 たとえ怯えられたとしても、ここは一度会っておいた方が良いと思った。

 仕事だけの関係上、会わない方が上手くいくこともあるだろう。

 でも向こうから会合を求められている上、相手は大人で社会人として立派に働いて成功している人でもある。

 そんな人と会ってみたいという好奇心もあった。


「分かった。ではそのようにスケジュールを作ろう。そうだな……顔合わせは本社で良かったかな?」

「あ、はい。一度そちらにも伺わせてもらえればと思っていたので」


 ライトノベルを作っている会社というのも興味はある。


「了解だ。できれば休日の方が良いが、君もそれで大丈夫かい?」

「こちらは特に予定などはありませんので」

「それならあとは愛田先生の方だな。分かった。では詳しいことが決まれば日程などをメールで送ろう」

「よろしくお願いします」


 そうして電話を切り、ふぅっと深く息を吐く。

 自分の作品のキャラクターたちに絵を入れてくれる人。

 一体どんな人なのだろうか。

 当日は不快な思いをさせないように気をつけないといけない。


 ……はぁ、いけませんね。今から緊張してどうするんですか。


「――にぃやぁぁん、おはなしおわったー?」


 そこへ突然可愛らしい特攻隊が現れた。







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