5
あとがきに重大発表を書いております。
「どうせ教室同じなんだしよ。一緒に戻らね?」
……自分で言っててビックリだ。
この身長差で歩いていると、またつまらねえ連中がありふれたことしか言わねえし、そういう陰でコソコソ言われるのは嫌なはずなのにな。
しかし驚いたのは、不々動の次の発言だ。
「いえ、自分なんかと一緒にいるのはあまりオススメできませんので」
「は? ……どういうことだよ?」
「自分は生徒たちにどう見られているか理解しているつもりです。もしかしたら伏見くんの耳にも入っているかもしれません」
まあ……知ってるけどよ。
「一緒にいたら不快な思いをさせてしまうでしょう。下手をすれば、伏見くんに害が及ぶ可能性さえありますので」
「んだよそれ。他人が好き勝手に言ってるだけだろ? つーか俺だっていろいろ言われてんだよ。いちいち気にしてられっか」
嘘です。すっごい気にします。超敏感ですから。
「しかし……」
「言わせたい奴には言わせとけって。俺はやりたいと思ったことをする。ほら行くぞ」
「あ…………分かりました」
渋々といった感じではあるが、二人で肩を並べて歩く。
まあ並んでいるというより完全に凹凸しているが。
そして案の定、俺たちを見る連中はギョッとしながら興味深そうに視線を送ってくる。
教室に入った時もそうだ。
確かに今まで会話すらしていない二人が、一緒に並んで歩いて入ってきたのだから驚きだろう。
しかも見る限りあまりにも対照的な二人という事実も眼を引き付ける根拠になっている。
俺は「見んなよ」と、不良のようにこっちを見る連中にガンをたれてやるが、あまり効果はないらしく不甲斐ない思いだけが胸を締め付けてきた。
きっとこの睨みも「あら、可愛いらしい」とか思ってんだろうなぁ。実際何度も言われたことあるし。
仮に隣にいる不々動が睨みつければ、恐らく蜘蛛の子を散らすかのように静かになるとは思う。
「な、なあおチビ」
自分の席に座ると、スポーツテスト前にも話しかけてきた奴が近づいてきた。
「あぁ? つーかおチビって呼ぶなよ」
「んなことよりよ、お前巨人と一緒に入ってきたけど偶然、だよな?」
「は? 偶然じゃねえなら何?」
「へ? いやぁ……仲良かったっけ、お前らって」
「お前に関係ねえだろうが。放っとけよ」
「いやいや、友達だろ? 放っとけるかよ」
……友達、ね。
俺、お前の名前すら分からねえんだけど。しかもその友達が嫌がるあだ名で呼ぶか普通。
コイツにとって友達ってのは綿あめみてえに軽いもんなんだろうな。
無論友達に関して、十人いれば十人全員がそれぞれの価値観を持っていると思う。
けど再認識した。
コイツの友達という価値観と俺の価値観はまったく違うし、一生分かり合うことなんかねえって。
俺は見せつけるように大きな溜め息を吐くと、弁当を持って席から立つ。
そしてそのままの足で不々動の席へ向かう。
「なあ不々動、一緒に飯食わね?」
「…………よいのですか?」
不々動が周りを気にしているような視線をする。
「言ったろ。やりたいようにするって。お前、いつもどこで飯食ってんの?」
「屋上です」
「ん、ならさっさと行こうぜ」
俺に何を言ったところでムダだと思ったのか、不々動は「分かりました」と答えてカバンを探って弁当を取り出す。
するとまたも耳障りな声が聞こえてくる。
「ね、ねえ。伏見くん、どうしたの?」
「さあ? もしかしたら巨人に脅されてるとか?」
「あーあ、俺らのプチ虎ちゃんがとうとう巨人の毒牙にってか」
その直後、若干だが不々動の表情が暗くなったのを見た。
コイツは多分良い奴だ。少なくとも俺や周りの連中よりもずっと。
それはまだ短い時間だけど、接してきた俺が分かっている。
今良くないことを口にしてる奴らは、コイツの本質を知ろうとしないバカどもだ。
見た目と噂だけで判断し、陰でこそこそしかできねえ臆病者ばっか。
「…………うっせぇな」
気が付けば、そんな言葉を俺は吐いてしまっていた。
「俺は誰にも脅されてなんかねえよ。てか、今のやり取り見てたら普通分かんだろ」
あー言っちまったし。てか俺もつい数時間前は、どっちかってーと、コイツを見た目や噂で決めつけてたアッチ側だったくせによ。マジで調子良くて笑える。
俺も見た目とか噂で判断されるのが一番嫌だったのに、そんなことを俺がしてたわ。
そんな現金な俺の圧倒的な正論に対し、ざわつきが一瞬にして治まった。
俺がこんなにハッキリと意見を言ったのは初めてだし、俺みたいな見た目の奴は強く反論しないとでも思っていたのだろう。
ほぼ全員がキョトンと、珍獣にでも遭遇したかのような表情をしている。
その姿はとても滑稽に移り思わず笑みが零れそうになった。
「ほらさっさと行くぞ、不々動。飯の時間がなくなっちまう」
「あ、はい。分かりました」
そうして俺たちは、絶句しているクラスメイトに見守られながら教室を出て行った。
「――――へぇ、こんなとこあったんだなぁ」
不々動がいつも昼飯を食ってるという屋上の一角へと来ていた。
日当たりも良く風も気持ち良い。
物置が壁になっていて、他の視線も届かない。
ぼっちには最適な場所である。
まさにベストプレイスって奴だ。
「んだよ、こんな良いとこあんなら教えてほしかったぜ」
「すみません。教える機会などなかったので」
「おいおい、マジで受け取んなって。今のは冗談だぞ冗談」
「あ、そうなんですか。すみません、ユーモアのセンスがなくて」
コイツ、どうやっても謝ってきやがる。多分人生の中で一番言ってる言葉なんじゃねえの、〝すみません〟って。
「ま、とにかく飯食おうぜ。もう腹減って仕方ねえし」
二人でベンチに座り互いの弁当を広げる。
「へぇ、不々動の弁当って今どきの若者って感じの弁当じゃねえな。種類もたくさんあるし、煮物とか漬け物とかも入ってる」
聞けばコイツは家庭菜園をやっていて、自分で育てた野菜を自分で調理しているとのこと。
「すっげえな。自炊できんのかよ」
「とはいっても、妹のも作っているのでついでみたいなものです」
妹がいんのか。……ま、まさかコイツみてえにデカイんじゃねえだろうな。いや、有り得るから怖い。
「伏見くんのも立派なお弁当ですが、ご自分ではないのですか?」
「は? ああ、これはその……アレだ。…………姉ちゃんが、な」
「お姉さんがおられるんですね」
「ま、まあな。つーか今日登校してきた時に多分見てると思うけど」
「登校……確か今日は風紀委員の方々が身嗜みをチェックするために立っていましたが…………まさか風紀委員の中に?」
「いや、違くてよ…………ほら、監視役の教師もいただろ?」
「はい……今日は家庭科の伏見先生が……!」
「気づいたか?」
「伏見……同じ苗字です」
「そゆこと。家庭科の伏見小兎は、俺の姉ちゃんだ」
「そうだったのですね。知りませんでした」
「結構知ってる連中多いけどな。まあ、姉ちゃんの奴、俺を見かけるとすぐに抱き着いてきたりして話題になってるし」
その度に生徒たちにはからかわれるし、教師も注意せずに微笑ましそうな顔で見られる。
こっちは家族といえど異性だし、それに何より誰かにその現場を見られるはやっぱり恥ずかしい。
【重大発表】――――――――――――――――――――書籍化します。
活動報告でも発表させて頂きましたが、詳しいことはまた後日です。