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 俺の名前は――伏見虎大《ふしみこだい》。


 今日これからのことを思うと気持ちは超ブルーだ。

 それは何故かって?


 ――スポーツテストがあるからだよ。


 別にスポーツが苦手ってわけじゃねえ。どちらかというと運動神経は良い方だ。

 けどスポーツテストの日には、毎回ある行事も一緒に開催される。


 ――身体測定だ。


 小学生の時は、別に苦じゃなかった。

 でも中学、高校と上がるにつれて毎年恒例のコレが来る時期はいつも憂鬱になっちまう。


「…………はぁぁぁ」


 俺は教室の一番前の自分の席に突っ伏しながら大きな溜め息を吐く。


 ……ヤダな……。


 サボっちまうか? いや、どうせあとで結局身体測定を受けることになるし意味がねえよな。

 何でこんなにも俺が身体測定を嫌うのは何故かって?


 簡単だ。


 ――――背がちっちぇえからだよ!


 成長期のはずなのに、俺の身長は中学二年くらいからウンともスンも言わないようになっちまった。

現在の身長――143センチメートル。


 女子かっての!? いや、女子の方でも低い方だし!

 …………はぁぁぁぁぁ。


 何で俺の身長はこんなにもやる気がねえのか……。

 確か16歳の男子の平均身長って170センチメートルを越えてたはず。

 加えて言うと女子のそれも160近くあった。


 ……俺は小学生かっ!?


 それに高校生になってから、歴史の教師である友枝先生が会う度に生温かい視線を向けてくるのだ。まるで同類でも見るかのように。


 止めて! 俺はショタじゃないから! アンタはロリかもしれないけれど!


 …………はぁぁぁぁぁぁぁぁ。


 今日、何度目の溜め息か分からない。

 どうせまた明日、絶望を突きつけられるんだろうなぁ。

 そこへ教室の扉を開けて一人の人物が登校してきた。


「あっ、ハッホー、ろーくん!」


 入ってきた人物に真っ先に挨拶をしたのは、この学園でも有名なアイドル声優――桃ノ森ももりだ。

 学園の中でもアイドルとして君臨しており、男子の視線を釘付けにするギャルである。俺としてはちょっと苦手なタイプではあるが。

 ただ最近髪を切ったのか、ショートボブになっていて、どちらかというとそっちの方がキャピキャピ感が薄いので好みではある。


 加えて言えば、入ってきた人物も彼女と席巻する別の意味での人気者――巨人こと不々動悟老だ。

 前にこの二人に一悶着あって、一時はクラス中が気まずい雰囲気になっていたが、今ではかなり親密なように見えた。

 桃ノ森なんてあだ名呼びだし、不々動も嫌な顔をせずに受け入れている。


 4月中旬に急に仲良くなった気もするが、二人に何があってそうなったのかは分からん。

 ただ〝ろーくん〟と桃ノ森が不々動のことをこの教室で初めて呼んだ時は、クラス中がひっくり返ったかのような衝撃が走ったものだ。

 今ではもう慣れて……いや、よく見れば男どもは悔しそうというか羨ましそうに不々動を睨みつけているが、当の本人はどこ吹く風で気にしていない。


 いつものように不愛想に桃ノ森に挨拶を返すと、自分の席に座り本を読み始める。

 俺はそんな不々動を見ながら思う。


 …………ああ、20センチメートルくらい分けてくれねえかなぁ。

 それでもアイツ、180センチメートルだろ? 十分じゃね? 

 俺なんてそれでも160センチメートル台ですけど?


 しかもあの男らしい身体つき。目つきも鋭くカッコ良い感じでマジで羨ましい。

 俺なんていくら鍛えてもマッスルボディみたいに逞しくならない上、顔も童顔というか中性よりだからよく可愛いって言われたりする。

 だからホント不々動を見る度に羨ましく思う。ただそれだけでなく、アイツは他人の評価をまったく気にしない。


 巨人、ヤクザ、バケモノ、俺なら落ち込むほどのあだ名をつけられても平然としている。

 他人に流されない強い心を持っているってことなんだろう。

 俺なんてチビとか可愛いとか言われるとイラってして殴りたくなるってのによ。

 肉体も精神も大きく強い。俺の憧れの在り方だ。


 まあ、あの形で文化系だって知った時は思わず心の中でツッコんじまったけどな。


 あれだけ恵まれた体格がすっげえもったいないように思う。

 たまに運動部の連中がスカウトや助っ人になってほしいとやってくるが、一切表情を変えずに淡々と断っている。

 その理由が〝妹の世話があるので〟だ。

 何その可愛い理由。ギャップがあり過ぎてつい胸がキュンってしちまったし。

 てかアイツが本気でスポーツにのめりこめば、常人じゃいけない高みに簡単に行けそうな気もする。聞いた話によれば、家が剣道の道場をやってるらしいしな。

 桃ノ森との会話を盗み聞き……いや、たまに聞こえてくるが、アイツも昔は剣道をやってたって言うし。


 ……何でやめたんだろうなぁ。


 俺だったら自分の身体を活かしたことをやると思うけど。

 そんなことを思っていると、チャイムが鳴り担任の教師が入ってくる。

 これからスポーツテストがあるから、更衣室で準備をして男女ともに指定された場所へ行けとのこと。


 ああ……地獄の証明が始まっちまったか。


 俺はもう諦めて、体操服を持って男子たちと一緒に更衣室へと向かう。


「なあなあおチビ~?」

「あぁ? んだよ、話しかけんなボケ」

「あ、ああ……悪い」


 クラスメイトの……ああ、去年も同じクラスだった奴が話しかけてきた。

 つーか気安く悪口放り込んでくんじゃねえよ。名前は……何だったっけ?

 特に関わりたいって思わなかった奴だから覚えてねえや。

 そいつは俺の不機嫌さに当てられて「何だよアイツ」って文句を言いながら去っていく。

 多分一緒にスポーツテストを回ろうとかそんなとこだろう。


 テストはいろいろあって、結構種類は豊富だ。

 50メートル走・握力・反復横跳び・立ち幅跳び・ソフトボール投げ・シャトルラン(持久走)・上体起こし・長座体前屈など。


 昔は懸垂とか垂直跳びや背筋力など計測してたらしいが、それらは旧スポーツテストと呼ばれていて、今では計測種目には入っていない。何でかは知らねえけど。

 まあ運動神経が良いっていっても、この身体だから種目によっては平均を大きく下回る結果になるので、普通以上の身体能力を持つ奴らとどうしても比べてしまうから、このテストも好きじゃない。


 特に絶対的な筋力を有する種目は砕け散ればいいと思っている。

 中学の時、男子と一緒に回ることがあったが、そいつらは俺の結果を見て、バカにしたようにクスクスと笑っていた。


 ――まるで子供みてえだよな、お前。


 そう言われてからというもの、どいつもこいつも俺を見てバカにしている気がして、それからはずっとぼっち生活だ。

 友達って呼べる奴なんていやしねえ。

 作っても心の中でどうせ俺のことをバカにしてるって思うと、そんなクソみてえな連中なんていらないって思ったからだ。


 それでもこの容姿だから話しかけやすいのか、男女問わず気さくに声をかけてくるが、全部当たり障りのない応対をして深く繋がってはいない。


 別に一人でもいい。…………とか最初は思ってたんだけどなぁ。


 やっぱり寂しかったりする。

 俺だって本当に信頼できる友人とか欲しいし、放課後や休日とかそいつらとバカ騒ぎして遊んでみてえ。


 まあ簡単に言えば俺がヘタレなだけなんだろうけどな。うっせえよ、誰がヘタレだ!


 はぁ、自分で言って自分でツッコムしかないこの寂寥感……。

 とりあえず今日は目立たず過ごしたい。

 そんですぐに家に帰ってアニメでも観て癒されたい。

 肩を落としながら、まずは50メートル走からでもやるかと思い列に並ぶ。

 走ることには自信があるので、ここは何も問題はない。

 むしろでけえ奴らをごぼう抜きして良い気分になれるから最高だ。


 俺の番が来て、スタートの合図が入る。

 見事スタートダッシュが決まり、グングンと風に乗っていく。

 まるで追い風が吹いているみたいに身体が軽い。いや、元々軽いんだけどね。


 タイムは――6秒20。


 おお、自己ベスト更新だ。やるな、俺。


「うおっ、速えなアイツ」

「すげえ、忍者だ忍者」

「まさに電光石火だよな。ロケットモンスターのテカチュウを思い出したぜ」


 おい、誰が忍者だ。クナイとか持ってねぇから。ニンニンとか言わないから。

 それにテカチュウって、有名なゲームに出てくるネズミ型モンスターじゃねえか。そんなに小さくねえよ!


「去年もそうだったが凄いな伏見。なあ本当に陸上部に興味はないのか?」


 そう聞いてくるのは陸上部顧問の先生だ。


「あーいや、興味ないんで。すんません」


 この人、こうやって勧誘してくるから苦手だ。

 俺は部活で青春とか暑苦しいのはノーサンキューである。

 基本的に汗とかかくの嫌いなんだよ。だから夏なんて爆発して消えてしまえばいいのに。

 そそくさとその場を離れて、次は何をしようかとグラウンドの周りを見回す。

 するとどこからか「おお~っ!」と感嘆するような声が響く。


 見るとソフトボール投げが行われている場所である。

 衆目の中心にいる人物を見て、俺も興味が湧く。

 何せあの不々動だったのだから。

 ソフトボール投げは、一人ずつ二回投げる。

 多分一投目を放ったのだろうが、それを見て周囲の連中は驚いたのだろう。


 そういや去年もアイツ、注目を浴びてたっけ?


 もちろん凄い記録を出したからだ。

 今回もそうだろうが、一体どれほどの距離を出したのか。


「ふ、不々動くん、記録――――――測定不能です!」







少しだけ伏見くん視点が続きます。


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