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 クラス替えによって一年の時から一新されたクラスメイトたち。

 ただやはりというか、僕が教室へ入ると例外なく皆からの視線を浴びてしまう。

 もう慣れたとはいえ気分が良いものではないのは確かだ。

 女子はちょっと怯えている子もいるのでショックである。


 僕は黒板に書かれている座席表に従って自分の席へと着く。幸い一番後ろの席だったので安堵する。

 何故なら前に座ったら、後ろの人が黒板が見えないという悲しい事件が起きるからだ。

 先生が来るまで多少時間があるみたいなので、僕はカバンから一冊のライトノベルを出して読み始める。


 今僕がハマっているライトノベルはラブコメものだ。

 というよりあまりバトルファンタジーものは読まなかったりする。

 自分が書くのはバトルファンタジー一択のくせに、どういうわけか読むのはラブコメや日常系というできる限り人が死なないような穏やかな物語だ。

 何というかバトル系というのは簡単に人が傷ついたり死んだりするので、読んでいると心がきゅーっと締め付けられて悲しくなってくる。

 自分はそういうものを書く……というかそういうものしか書けないのだが。

 いや、だからこそか。平和なラブコメものを僕の魂が欲しているのかもしれない。


 ――『妹が世界一カワイイとしか思えない』――


 特に最近では妹ものを好んで手にしている。

 この『妹カワ』はアニメ化もしている人気作品で、出てくる妹が本当に可愛くてほっこりするライトノベルなのだ。


 まあ世界一カワイイ妹はうちの珠乃だが、それでも世界二位くらいのランクは上げてもいいくらいこの妹キャラは好きである。

 また出てくる兄は自分の身長が低過ぎるというコンプレックスを抱えており、それでも健気に頑張ってプロのバスケット選手を目指しているのだ。

 後半部分はともかく、前半の身長に対するコンプレックスというのがどこか自分と似通っていて感情移入できるから読み易いのかもしれない。


 もう十巻も出ており、アニメも第一期、第二期と絶好調で、このまま第三期まで行くのではと楽しみにしている。

 すると周囲がざわざわとし始めたので、また自分のことかと思い顔を上げた。

 しかし皆の視線は僕へ集まってはいなかった。


 視線のすべてが集うのは、教室に入ってきた一人の少女であった。

 サイドポニーに結っている薄桃色の髪が、歩く度にユラユラと揺れる。外見はギャルっぽく、メイクや装飾もどこか煌びやかだ。耳にもキラリと光るピアスをしている。周りに愛想の良い笑みを振り撒いていた。

 その笑顔にやられて男子たちは頬を染めて嬉々としている。少し開いている胸元もそうさせている原因だろう。


「ハッホー、また一年よろ~」


 ギャルさんが手を振りながら、女子の集団へと合流する。言葉から察すると、どうやら去年も同じクラスだったのだろう。


「やったぜー! あの桃ノ森ももりと同じクラスなんてラッキー!」

「だよなだよな! ああ、この一年で仲良くなって俺の彼女にしたい!」

「バッカ、お前みたいなモブが何調子こいてんだよ!」

「んだとこらぁっ!」


 男子たちが色めきついている。

 それほどまでの有名人なのかと、注目を浴びる彼女が気になり視線を向けた。

 確かにルックスは目を惹く。まるでカリスマオーラでも出ているかのようだ。特に声がスッと耳を心地好くくすぐってきて、男子にとってはとても魅力的だと思う。


 ふむ。男子たちが騒ぐのも分かりますが…………うん、珠乃の圧勝ですね。


 我が妹の方が百倍可愛い。特に最近彼女が陽気に見せてくれる仕草。


『にへへ~、た~まのんのん!』


 太陽のような笑顔を浮かべ、小さな頭を左右に振りながら言うその仕草を見た時は、思わず膝から崩れ落ちたものです。あまりの可愛さに。

 故に何が言いたいかというと、妹が世界一カワイイとしか思えない。ということ。

 そう判断して、もう興味がなくなった僕は読書に勤しむことにした。


 すると件のギャルさんがキョロキョロと教室内を見回し、その視線が僕を捉える。

 そのまま何故か僕の方へ近づいてきて……。


「ねえ、あなたが噂の巨人くんだよね?」

「え?」


 巨人という言葉に反応し、反射的に顔を上げた。

 すぐ近くにギャルさんが立っていたので驚く。


「ねえ、立ってみてくれる?」

「はぁ、構いませんが」


 言われたとおりに席から立つ。


「うひゃ~、マジでデカイし。何センチあんの?」

「205センチメートルですが」

「わお! 二メートル超えとかチョーウケるんだけど~」


 何がウケるのか自分にはよく分からないが、周りがそわそわし始めていることに僕は気づく。


「ちょ、ちょっとももり! 怒らせたらどうするのよバカ!」

「そだよ! 無理矢理押し倒されちゃうよ!」


 一体僕はどういう目で見られているのでしょうか。

 いや、考えなくても分かってしまうのが悲しいです。


「あの、もういいですか?」

「へ?」

「いえ、ですからもう座ってもいいですか? 本の続きを読みたいので」


 するとギャルさんは明らかに衝撃を受けたような驚き顔を浮かべた。


「……ね、ねえ、アタシのこと知ってるでしょ?」

「いえ、知りませんが」

「は……はい?」

「「「「はい?」」」」


 ギャルさんだけでなく、クラスメイトたちまで目を丸くする。

 え、知らないと変なのでしょうか? そこまでの有名人という……こと?


「……マジでアタシのこと知らないの? 去年文化祭でも結構活躍したんだけどなー」

「はぁ。すみません。文化祭の時は妹の面倒で忙しかったので」


 この学園の文化祭は、外からお客さんを招くことができる壮大な規模になる。

 妹も楽しませたいと思い、僕は彼女のエスコートをずっと文化祭時にやっていたのだ。

 もし何か有名なイベントがあったとしても記憶にない。


「ふ、ふーん……ちょっとショックかなー」

「すみません。ですが興味ないものはさすがに知らないので」

「きょ、興味ない……っ、は、初めて言われたんですけど……!」

「あの、もう座っていいですか?」

「え? あ、う、うん。いい……よ」


 どうやらもう話が終わったようなので、僕は再度読書に意識を集中した。

 僕に対する視線は感じるものの、先程と違って静寂が場を包む中、扉が開き先生が姿を見せる。


 そして二年になって初めてのホームルームが始まった。

 本日は授業といっても、クラス内の決め事やら役員などを決め、親交を深めるための細やかなレクリエーションだけ。

 故に午前で今日の日程は終わる。本格的な授業は明日からだ。


「では最後に飼育委員を決めたいと思いまーす」


 さっそくの人気でクラスの委員長に就任したギャルさんが、黒板の前に立って進行を務めている。


「う~ん、やっぱコレもクジ引きで選ぶしかないってことかぁ」


 美化委員や保健委員なども率先して手を上げた者はおらず、結局クジで決まった。

 ちなみに委員長はほぼ全員の推薦でギャルさんになったのである。

 そしてここまで黙していた僕がスッと手を上げた。


「! え、えっと……巨人くんが……するの?」


 嘘ぉ……といった感じで誰もが僕を見つめてくる。

 しかし別におかしなことではない。実は去年も飼育委員を務めたのだから。

 この学園にはたくさんの動物がいる。何でも動物との触れ合いは心を豊かにするからという理事長の言い分らしい。


 牛、馬、兎、鳥、犬、猫など小さな動物園である。

 昔から人には好かれないが動物には好かれた。この体格なので小動物など怯えてしまうのではと思うが、何故か外にいても野良猫やらが寄ってくるのだ。

 僕も動物が好きなので小学生からずっと飼育委員を好きで続けてきた。

 いつか動物がメインの小説でも書けたらいいと思う。


「いけませんか?」

「え? う、ううん、いけなくはないよ! はい、じゃあ男子の飼育委員は巨人くんにしてもらうことになりました! みんな、拍手―!」


 まばらに拍手が起こる。

 少し耳を澄ませば、


「おい、まさか動物を食う気じゃ……」

「剥製にして売ったりとか?」

「あの見た目で飼育委員とかギャップが酷え」


 などと口々に勝手なことを言ってくれる。

 はぁ。本当に僕のことをどんな目で見ているのでしょうか……。

 皆の評価についガックリと肩が落ちてしまう。


「じゃあ女子の飼育委員だけどぉ……」

「あ、あの……」

「ん? おお、繭原さんがしてくれるのー?」

「その……は、はい」


 手を上げたのは物静かそうな水色の髪をおさげにしている女の子だった。

 目をあちこちに泳がせながら、勇気を振り絞って手を上げたといった様子である。


 ……あれ? あの人は……。


 確か先程あった自己紹介の時間で、繭原糸那(まゆはらいとな)と名乗った。

 喋り方もか細くおどおどしていたので少し印象的だったのを覚えている。


 ……うん。やっぱり見覚えがありますね。


 自己紹介からどこかで会ったことがあるような気がしていたのだ。

 しかしハッキリとは思い出せない。

 すると僕が繭原さんを見ていたこともあり、右斜め前に座っている彼女もまたこちらを見たことで目が合ってしまう。

 直後、慌てたように繭原さんが顔を逸らし目を伏せた。


 ああ、もしかして怖がらせてしまったのでは……?


 このガタイで目つきなので、まるで小動物のような彼女を怯えさせてしまった可能性が非常に高い。

 できるだけ目を合わせないようにしましょう。

 その方が彼女のためだと思い、僕は重い溜め息を吐き出し前を見据えた。

 こうしてオリエンテーションなどが終了し、放課後を迎えることになった。







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