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 坊主頭が光っているが、キリッとした端正な顔立ちをしているので結構女の子にモテる。

 実際、同じ道場に通う女子たちに黄色い声援を送られていることが多々あり、他の男子たちの嫉妬の対象となっていた。


 そんな彼の名前は闘希くんといって、中学三年生の一番の年長で皆のリーダー役もこなす剣道の腕もかなりの実力を持つ少年だ。

 ちなみにうちの道場では、小・中学生を対象とした教えを行っている。


「すみませんっす、悟老くん。コイツらが勝手なことばかり言って」

「いえ、闘希くん、お気になさらないでください。元気があって何よりですから」

「そう言ってくれるとありがたいっす。ほらお前ら、さっさと行け」


 子供たちも闘希くんを慕っているようで、しっかり言うことを聞いて歩き出す。

 珠乃も繭原さんと一緒に手を繋いでついていく。

 僕もまた闘希くんと肩を並べて歩を進める。


「本当に闘希くんは真面目で頼りになりますね」

「そ、そんな! 俺はただやらなきゃならないことをしてるだけっすから! というより真面目で頼りになるのは悟老くんっすから!」

「? そんなことはないと思いますが」

「いいえ! たまに道場に来てくれて、いつもアイツらの面倒を見てくれるし、俺にはその……勉強とか普段の愚痴とか聞いてもらってるし。本当に頼りになる兄貴みたいな存在で……」

「え? でも確か闘希くんにはお兄さんがいたのでは?」


 以前そう彼に聞いたことがある。


「いや……まあ、いるにはいるんすが……アレは美少女フィギュアとかエ、エ、エッチな同人誌? とか集めてるなよっちぃ奴っすから」


 闘希くんはまだまだ初心らしく、エッチという言葉は非常に言い難そうだ。顔も紅潮してしまっている。


「そ、そうですか。でも……はい、自分も闘希くんのことは弟のように思います」

「! マ、マジっすか!?」

「ええ。弟がいたらきっとこんな感じだろうと思うことが多々ありますから」

「嬉しいっす! じゃあいっそのこと悟老兄って呼んでもいいっすか!」

「別に構いませんが」

「よっしゃあっ!」


 そんなに嬉しいものなのか、拳をバタバタとさせて全力で喜びを表現する彼。


 余程実のお兄さんが、お兄さんっぽくないんでしょうか……?

 確か前にお兄さんとケンカして、一方的に闘希くんが勝ったようなことを言っていた気もします。


 お兄さんは二十歳を越えているのにもかかわらず、それが本当に情けないと彼は言っていた。


 ケンカの強さだけがすべてではないと思いますが、この頃の男子というのは腕っぷしが尊敬される傾向にあるようですね。


「おっ、良いニオイがしてきましたっすね!」


 闘希くんの言う通り、目の前から腹の虫を刺激する香りが漂ってきた。


 どうやらこれはカレーのニオイのようです。


 ご飯とうどん、どちらでも好きにカレーをかけて食べていいらしい。

 珠乃ではないが、自分も結構お腹が減っていたようで、カレーを見てよだれが口内に溢れているのが分かる。

 するとそこへ多華町先輩も戻ってきたらしく、僕に話しかけてきた。


「お疲れ様、不々動くん。大分、頑張ってくれたようね」


 僕の汚れた姿を見て満足そうに微笑む多華町先輩のジャージも、立派に務めを果たした様相を見せていた。

 僕は彼女と一緒にカレーを受け取りにいく。

 先輩はカレーライスを、僕はカレーうどんをもらった。

 濃厚なドロリとしたカレーがうどんに絡みついてとても美味しい。

 疲れた身体が一気に癒されていくのを感じる。


「あら、うどんも美味しそうね」

「そうですか? 良かったら召し上がりますか?」

「えっ! あ、えと……いいのかしら?」

「はい。それでは……あーん」

「!? ふ、ふふふふ不々動くんっ!?」

「ん? どうかされましたか……って、すみません! ついいつも珠乃にやっている癖で!」


 やはり疲れていたのか、相手が身内ではなく、さらに年上の女子だということを失念していた。


「べ、べべべ別にええで。あ、あーんくらいどうってことあらへんしな!」

「え? ……いいんですか?」

「え、ええって言うとるやろ? ほら、さっさとし」


 と言いながら多華町先輩は小さな口を開いてこちらに向けてきた。


「そ、それでは……あーん」

「あーん……ん。…………んく。うん、美味やね」


 その瞬間、彼女が見せた笑顔は強烈だった。

 潤んだ瞳に、濡れた唇から覗いた赤い舌。それに生温かい吐息。

 どれも色っぽくて、思わずドキッとしてしまった。


「…………不々動くん」

「た、多華町先輩……」


 少しの間だが、そうやって互いに顔を見合わせたまま時間が過ぎていく。


 するとそこへ――カシャッ!


 何やら無機質な音が聞こえたため、互いに正気を取り戻し、音の方へ顔を向けた。

 そこには――。


「わわっ、まさかこんなとこで会長のイチャイチャシーンが見られるなんて!」

「何ともお可愛いです。是非ともこの写真は待ち受けにしましょう」


 と、二人組の少女がそこに立っていた。

 僕と多華町先輩は一瞬呆けていたが、すぐに多華町先輩の方がハッとなって、その二人組の正体を知るとわなわなと震え出した。


「っ…………夏灯、秋灯? あなたたちは一体そこで何をしているのかしら?」


 そう、そこにいたのは生徒会役員の柴滝姉妹であった。

 二人ともスマホを構えている。


「いやぁ、思ったより用事が早く終わっちゃったんで、お手伝いにきてたんですよー。まあお手伝いできたのも一時間くらいでしたけどねー」

「はい。その一時間、全力で務めを果たさせて頂きました。そして会長に報告をと探していたところ、予想だにしない会長のワンシーンがあったものですから、後世に残そうとこうしてスマホで写真を」

「け、消しなさいっ! 今すぐ! 会長命令よ!」

「えぇー、せっかく良い雰囲気だったのにー」

「そうですよ会長。ほら、これを見てください」


 柴滝姉さんの方が、スマホで撮った画像を多華町先輩に見せる。

 最初は怒り眼だった多華町先輩だったが、画像を見ると表情が一変し、食い入るように見るようになった。


 そして何やら柴滝姉さんが、多華町先輩の耳元でゴニョゴニョと呟き始める。


「どうです? こんなに良い写真はなかなか撮れませんよ? それにほら、隣には少し照れ臭そうにしている不々動くんも」

「こ、これは……何ともレアや……!」

「もしよろしければデータをお送りしますが?」

「むむむ! …………お願い」

「了解しました」


 恥ずかしそうに俯く多華町先輩と、互いにグーポーズで示し合う柴滝姉妹。

 一体彼女たちの間で何が起こっているのかは分からない。ただ多華町先輩の怒りは急激に萎んだことは確かのようだが。

 それに柴滝姉妹はとても楽しそうだ。コロコロ変わる多華町先輩の表情が面白いのかもしれない。









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