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 で、出た!? 出ちゃったよぉぉぉっ!?


「ひゃ、ひゃい! みゃ、みゃゆひゃらでしゅっ!」

「……こんばんは。いきなりのメール、すみませんでした。何だか驚かせてしまったようで」

「い、いいえ! こ、こちらこそ唐突に電話してしまってその、あの、しゅみませんっ!」

「お気になさらないでください。電話をくださったということは、今お時間大丈夫でしょうか?」

「だ、大丈夫です! もう全然暇でしたから! 何ならこのままオールでもいけます!」

「それは電話代が物凄いことになりそうなので止めておいた方が良いかと」

「そ、そうですよね! 私ってば何言ってるんでしょうね! あはははは!」


 変な子って思われたかな? でも不々動くんとならオールでも電話できるのは事実だ。

 いやでも、この心地の良い低音ボイスを聞きながら眠ると良い夢を見れそうだなぁ。


「ところで繭原さん?」

「は、はい! 何でしょうか?」

「メールに記載した通り、少しお聞きしたいことがあったのですが」

「そうですね。どんなことでしょうか?」


 ラノベの話かな、と思っていると……。


「実は今度の日曜日に、ここら周辺の清掃活動があるのをご存じですか?」

「清掃? ……ああ、確か今週はクリーン週間でしたね」


 定期的に行われる清掃イベントで、地元の学生や住民たちを募って清掃活動を行うのだ。

 昼には炊き出しなどもあり、そこそこ活気づくイベントだったはず。

 私も何度か手伝った経験がある。


「実はうちの学園の生徒会にも参加要望があったのですが、あいにく参加できるのが生徒会長だけということで、もう少し人手を増やすべく自分も手伝うことになったのです」

「……不々動くん、生徒会長さんとお知り合いなんですか?」

「ええまあ。少し縁あって」


 縁……一体何があったんだろう。

 彼には悪いが接点があるようには見えない。


 あ、そういえば彼が一年の時、ちょっと噂になってたっけ?


 生徒会長が、不々動くんがいる教室に一人現れて、彼と一緒に教室を出て行ったことが数回あったとか。

 周りでは不々動くんが生徒会長を脅しているなどと心無いことを言う人が多数だった。

 だからきっと根も葉もない噂だろうと思っていたけど……。


「その……生徒会長さんとは仲良し……なんですか?」

「仲良し……ですか。どうでしょうか。自分が困った時に、相談に乗ってもらったりはしたことありますが」


 そ、それって結構親密じゃない!? だって悩み事を言える相手ってことだもんね!

 うぅぅ……気になるけど、これ以上聞くのは失礼かなぁ。


「あの、清掃活動の件なんですが」

「! ああはい! えと、脱線させてごめんなさい!」

「いえ。その清掃活動にもう少し人手があればと生徒会長さんは仰っていまして。自分に誘えるような人がいれば声をかけてほしいと頼まれたのです」

「……もしかしてそれで私に、ですか?」

「突然すみません。何分、自分には親しい友人などがおらず。誘えるとしたと考えると、頭に浮かんだのが二人だけだったので」

「ふ、二人……ですか。ち、ちなみにもう一人は誰ですか?」


 私が彼に選ばれたということは嬉しいが、もう一人の人物が気になって素直に喜べない。


「桃ノ森さんです」

「桃ノ森さんって……同じクラスのですよね? そういえば最近よく話してますよね」


 私に言わせれば彼女はコミュ力のバケモノって感じですね。 

 煌びやかなカリスマ性を持つアイドル声優で、誰とも気兼ねなく接することのできる、私には到底敵わないほどの魅力を持っている女子だ。


「話しているというか、話しかけてこられるという方が正しいですが。しかし自分と会話をする相手は、その桃ノ森さんと繭原さんくらいなので。ただ桃ノ森さんとは連絡先も交換していませんし、繭原さんほど親しくもないと思いますね」


 ――やった!


 思わず小さく拳を握りガッツポーズをしてしまった。


「そ、そうなんですね! まあ、彼女は誰にでもフランクですから!」

「はい。ああいうフレンドリーさは感心します。とても自分にはできません」


 うんうん、私も同じだよ不々動くん! 似た者同士だね!


「そっかぁ。だから私だけが頼りだったんですね?」

「ええ。ご迷惑かもしれませんが、お声をかけさせてもらいました」

「別に迷惑なんて思いません! それどころか頼ってくれて嬉しいですから!」

「そう言って頂けるとこちらとしても助かります」


 ああ、本当にこの耳元で囁かれる不々動ボイスは反則だ。ずっと聞いていたいと思ってしまう。

 それに電話の向こうで、恐らく申し訳なさそうに頭を下げている彼の姿を想像すると、つい可愛らしく思い笑みが零れる。


「他ならぬ不々動くんの頼みですから! 是非とも参加させて頂きますね!」

「本当ですか! それは良かった。では詳しい時間と用意するものなどは、後程メールで送らせて頂きます」

「はい、よろしくお願いします!」

「それでは時間も時間なのでこのへんで――」


 あ、もう……終わりなの?


 一気に燃え盛っていた火が鎮火するような気持になっていく。


「あ、その……!」

「? どうかされましたか?」

「え、えっと……そ、そう! もう少しお話しませんか? ラノベの話……とか」

「別に構いませんが、ご迷惑ではありませんか?」

「そんな! こっちがお願いしているんですから」

「……分かりました」

「ほんとですか! あ、あのですね! 今度ある新刊が発売されるらしくて――」


 私はこの時間が終わらなければいいのにと思い、それから一時間ほど彼と他愛もない話をして盛り上がった。

 電話料金は痛い出費になってしまったが、私は後悔しない。

 だってその分、見返りは大きかったんだもん。




     ※




 ――日曜日。午前九時三十分。

 珠乃と手を繋ぎ、僕は学校指定のジャージ、珠乃も汚れてもいい無地の服を着て近場にある【おおこま公園】へとやってきていた。

 この公園はとても広く、子供たちが遊ぶ遊具区画や、釣りなどもできる池や緑豊かな木々が彩る住民に愛されている憩いの場である。


 そこではすでに多くの人が集まり賑わっていた。

 ここにいる人たちすべてが、これから行われる清掃イベントに参加するのである。

 また昼には炊き出しも行われ、それが楽しみでイベントに参加する人も多い。

 ちょうど公園の入口で待ち合わせをしていた繭原さんと出遭えた。


「あー、いーちゃんだぁ! はようなのぉ!」


 珠乃がいーちゃんこと繭原糸那さんに向かって走り出す。


「わー、おはよう珠乃ちゃん!」


 彼女も学校指定のジャージを着ている。


「おはようございます、繭原さん。この度は、お誘いを受けてくださりありがとうございます」

「そんなそんな! この街に私だって住んでるんだし、参加するのは当然ですよ! というより誘ってくれて嬉しかったですし」

「やはり繭原さんはお優しいですね」

「や、優しいとか……そういうことじゃなくて……うぅ」

「いーちゃん? おかお、まっかだよ? おこった?」

「えっ!? ううん、怒ってないよ! それよりも珠乃ちゃん、短くツインテールにしてるんだね、可愛いねー」

「にへへ~、にぃやんにしてもらったのー! いいでしょー?」


 クルリと身体を回転させて珠乃が自慢げに笑みを浮かべる。


「あはは、本当に器用ですね不々動くんは」

「いえ、ただ単に慣れているだけですから。それより多華町先輩……生徒会長さんと合流しましょうか」

「はい。どこにいるか分かるんですか?」

「恐らく中かと。同じジャージ姿だと思いますのですぐに分かると思います」


 そう言って公園の中に入って行く。珠乃はすっかり繭原さんに懐いているのか、彼女と手を繋いで歩いている。ちょっと寂しいと思ったのは内緒だ。


 そして大勢の人が集まる中、自分たちと同じジャージ姿の人たちを発見した。

 一人だけ際立って見えるのは、やはり多華町先輩である。

 その佇まいの美しさだけで、他の者たちの視線を独占するのだからさすがだ。

 もうすべてが黄金比で完成されている存在なのではなかろうか。

 ただ注目を浴びているのは、僕自身もそうなのだが。

 もちろん多華町先輩とは真逆の理由がほとんどだろう。

 そんなざわつきに気づき、多華町先輩もまた僕の存在を見止める。








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