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プロローグ

初めてのラブコメ?……になればいいかなと思っています。

挑戦で書いたものですが、どうぞお楽しみください。

「――うん、今日も素晴らしい出来ですね」


 目の前で青々と実っている野菜たちに思わず、僕は頬を緩めた。

 とはいっても、恐らく他人から見たら引き攣った笑いにしか見えていないかもしれないが。

 不々動悟老(ふふどうごろう)。十七歳、高校二年生。三白眼で目つきは鋭く、額には大きな傷痕が走っている。

 額の傷、これだけでも十分迫力があるのに、さらにそれを助長するかのように僕の体格は同年代と比べても逸しているだろう。


 身長、205センチメートル。体重125キログラムという、まるでスポーツをするために生まれてきたかのようなガタイをしていた。

 また感情もどこか乏しさがあり、いつも無表情で怖いと言われる。睨んでいるつもりもないのに、いつも眼光が鋭過ぎだとも……。


 またこちらが全力で笑みを浮かべたつもりでも、泣いた子供の数知れず。警察にも職務質問を何度受けたか分からない。ただ街を散歩していただけなのに……。

 この前なんて、前を歩いていた女性がハンカチを落としたので拾って声をかけたら悲鳴を上げられ、傍にあった派出所からお巡りさんが出てきて事情聴取になった。まあ誤解はすぐに解け、女性とお巡りさんから謝罪を受けたが。


 そんなコワモテ高校生の僕も、今日から晴れて二年へと上がり後輩を持つ立場となった。

 ただ一年というか、中学一年生の時も入学当時から先輩に間違えられていたので、先輩と呼ばれるのは珍しくない。


 僕は今、学園に行く前に日課である畑の草むしりを早朝からしていた。

 中学の頃から野菜作りにハマり、自分の家の庭で小さな農園を作って野菜を育てているのだ。

 幸い庭は広い。というより敷地面積が広い。思う存分、自分好みの畑を作れる。

 ちなみに今住んでいるところは祖父母の家だ。


 父はすでに他界し、母親は仕事で海外出張が多いため、日本に残りたいという僕の要望により、小学三年生の時から祖父母の家に預けられている。

 祖父も祖母も剣道家で、世界大会でも活躍した有名な選手だったらしい。

 現役を引退してからは道場を開けるような大きな家を購入し、子供たちの剣道育成に精を注ぎ込んでいる。

 部屋の掃除などは大変だが、家事は嫌いではないので苦にはなっていない。


「もう少しでキュウリは収穫できますね。ホウレンソウとタマネギはもう獲っても良さそうです」


 他にもいろいろ育てているが、食べるのがもったいないほど可愛がっているので、いつも収穫時期になると嬉しさと同時に寂しさもまた少なからず感じる。



「ゴローさん、ゴローさーん!」



 不意に家の中から自分を呼ぶ声が聞こえる。

 見ると縁側に祖母である不々動ねねが立って手を振っていた。

 とても『剣道の申し子』と呼ばれた剛の者だとは思えないほど小さく華奢な身体をしている。可愛らしいお婆ちゃんといった感じだ。


「そろそろ朝ご飯の支度、手伝ってくださいなー」


 おっと、どうやら少し長居してしまっていたようですね。

 じゃあ野菜の皆さん、また学園から帰ったらお会いしましょう。


 この口調、気になる人もいるかもしれない。

 これはどちらかというとお婆ちゃん子である僕が、誰に対しても敬語で話すお婆ちゃんに癖付けられたのだ。

 もう何年もずっと敬語で話してきているので、今更フレンドリーに話す方が僕にとっては困難である。


 僕はお婆ちゃんと一緒にキッチンへ入り朝食の準備をしていく。

 今日のメニューは先日収穫したアスパラガスを使ったアスパラの肉巻きと、お婆ちゃん特製の里芋が入った味噌汁と甘く焼いた卵焼き。それと焼き鮭と白米である。

 手早く調理していき、食卓へと料理を運ぶ。


 すでにお爺ちゃんが起きていて新聞に夢中になっている。

 こちらはどちらかというと僕と同じガッシリとした体格を持つ。とはいってもさすがに現役ほどではないが、引き締まった筋肉の鎧を纏っているのは知っている。

 名前は不々動源治。名前からして強そうである。


「おはようございます、お爺ちゃん」

「む? うむ、おはようゴロー。今日も良い天気だな」

「そうですね。とても晴れやかな快晴です」

「今日からお前も高校二年生だ。後輩に舐められんようにバシッと決めてこい」


 そもそも今までこの容姿で舐められたことがないんですが……。

 初対面の人物には、必ずといっていいほど一歩引かれる。この前、白スーツにサングラスをした明らかに堅気ではなさそうな強面の男性に『ウチで働かねえか?』と言われた時はかなり焦ったものだ。

 もう怖がられるのは慣れてしまっているが、どうもまだ身長も伸びているようなのでいい加減にしてほしい。

 今でも運動部からの勧誘がひっきりなしなのだ。君なら天下を獲れると言われたのは軽く十回は超える。


「はぁ。こう見えて僕は文化系なんですけどね……」

「あ? 何か言いおったか、ゴロー」

「いいえ。ただの独り言ですので」

「ゴローちゃん、そろそろあの子を起こしに行ってくれるかい」


 お婆ちゃんからの要求が入る。僕は二つ返事で了承しその場を離れていく。

 向かった先は僕の自室。

 扉を開けてすぐベッドへと歩を進める。

 そこにはスゥ……スゥと心地好さそうに眠っている幼女が一人。


 この子は僕の妹――不々動珠乃(たまの)。もうすぐ五歳になる。

 相変わらず天使のような寝顔である。

 目に入れても痛くないほど可愛いとはこのことだ。よくぞ自分に似ずに美人である母親の血を濃く受け継いでくれたと本当にホッとしている。


 ああ、何時間でも見ていられますね。

 おっと、それはまた今度にして今はこの子を起こさなければ。


「ほら、起きてください」

「……んむぅ……にぅ……」


 身体を優しく揺らしながら声をかけると、珠乃は可愛らしい声を出す。


「んんにぅ…………にぃ……やん?」

「はい。おはようございます、珠乃」

「……は……よぅ……にへへ」


 朝っぱらからこんな向日葵のような笑顔が浮かべられるだろうか。

 この笑顔さえあればすべての戦争がなくなるだろう。


「にぃやん、だっこぉ」

「いいですよ。よっと……まずはトイレに行きますか」

「おー」


 これがいつもの流れだ。珠乃をトイレへ連れていき、洗面所で顔と歯を洗う。

 そして着替えさせて食卓へと一緒に向かうのだ。


「はよぅーなのぉ! ばーやん、じーやん!」

「「おはよう、珠乃」」


 元気一杯の挨拶をする珠乃に満面の笑みで応じる祖父たち。

 この四人が、現在この家で住んでいるすべてだ。

 それから全員で食事を取り、学園へ行く時間が来たので準備をする。

 珠乃は幼稚園だが、いつも家の前まで幼稚園バスが来るので安心して家から出ていけるのだ。

 自転車通学なので、特注で作ってもらった大きめのマウンテンバイクに乗り、しっかりとヘルメットを装着する。


 プロレスラーのようなガタイの少年が、制服に身を包み、マウンテンバイクにヘルメット装備で漕ぐ姿はどこか異様な光景に映るものだ。


 ああ、できれば写メールを撮るのは止めてほしいです。

 この前、シャベッターというSNSに、明らかに僕であろう人物が通学している風景を動画で乗せていたのにはビックリした。


 タイトルが『巨人がマウンテンバイクで激走』である。


 激走なんて危ないからしていないというのに。

 しかも何故か五百人もの人が『いいね』という高評価をしていることにも驚きだった。

 ああいうことは本人に了承を取ってからにした方が良いと思いますけど。

 ただ別に特にそれで何か害があったというわけでもないので放置はしている。


「さあ、安全運転で今日も頑張りましょう」


 すでにご近所さんには名物となっている通学風景だが、すれ違う人々に挨拶をしながらゆったりと学園へと向かっていくのであった。

 








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