人生の休憩所
「誰かいませんか?」
誰もいないと勘づいていながら、
反響する壁もないそこで返事を待つ。
目が覚めた時からここに居た僕は、ここは何処だとか、何故ここにいるだとか、考えてもきっと無駄であろう疑問は放棄した。
不思議と恐怖心は無かったのだ。
このまま1人の空間も、それはそれで楽しそう...なんて、馬鹿なことを考えている訳ではない。
ただ、戻ったところで僕は...。
友人関係にも疲れていた。面倒な上下関係にも。
ましてや家族との繋がりなど、とっくに意味を成していなかった。
もし逃げ出せるのなら...。何度考えたことか。
でも出来なかった。友に裏切られても、先輩に理不尽な扱いをされても、親に酷い仕打ちを受けても...それでも逃げ出せなかった。逃げようともしなかった。
これが僕と、どこか受け入れていたから。
ここが居場所と、どこか腑に落ちていたから。
何故だろうね。
あんなにも無意味な場所でさえ、置かれた立場を全うしようとして。
何故だろうね。
こんなにも自由で放たれた場所なのに、何をする気も起きないなんて。
「...ははっ」
思わず乾いた笑いが出る。
嘲笑いにも似た、呆れにも似たそれは、
スウッとつっかえが取れたように、心地よかった。
結局のところ、帰りたいのかもしれない。
あの最悪な居場所へ。あのうんざりな世界へ。
「もう大丈夫。」
誰に言っているのか。自分でも分からぬままに、
頭を下げた。
今思えばあの空間は、
一時の癒しか、脳の警告か、ただの幻覚か。
まぁ、今更知ったこっちゃないが。
___あの空間に訪れる誰かへ。
僕と同じ、途方に暮れた誰かへ。
楽だからって、留まってはいけない。
だからって、無理をするのも違う。
戻れればいい。
自分から、戻れればいい。
それが出来たならきっと、
君は変わっているはずだから。
まぁ、せっかくなんだし、少しくらい休めばいい。
邪魔されない空間で、ぼうっと...なんて言っても、勝手に頭に浮かべてしまうんだけどね。邪魔なはずの存在を。まるで自分から求めるように。
でもさ、そんな変な感覚に、その意味に、気づかせてくれるのがあの空間の役目なのかもしれない。
名付けるなら...人生の休憩所?
我ながら安易な名前だ。
人生の休憩所
そこに迷い込んでしまうのは、
幸せなことか。不幸せなことか。
でもね、戻ってこれた人は必ず___
前よりずっとずっと、強い自分に出逢えるから。