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Mellow-刀ひとつ、武人が歩む魔法の国-  作者: 飯田倉和
武人来訪編
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第8話「武人というもの」

「はぁ・・・・・。」


重いため息が虚しくも部屋に木霊する。

部屋が広いせいか無駄に響き渡った気がして更に虚しい気分が加速されると、ティーカップに入れたまますっかり冷めてしまった紅茶に口をつける。

気に入ってる茶葉であっても気分と温度次第でここまで味が変わってしまうのかと思うと、結局またため息をつくことになる。現にそれは一時間近く前から繰り返されてきたこと。


ミカヅチ・アザイがジパングからアトランティスに来ることになったのは、自分の父である国王が直々にアザイ家に打診を送ったからである。

初めは誰か客人でも招くのかと思っていたのだが、父は妙に余所余所しく口を紡ぐし、何よりも偶然運ばれるのを見た・・・魔法技術の最高峰が一つ「テレポート」の術式が組まれエリダンヌの刻印が刻まれた小包。

国内や、船で一直線でいける様な近隣諸国を相手にはわざわざここまでしない以上何かがあるに違いなかった。


スティレットもエリダンヌのメイドである以上ヘタに使うことはできない。だからアメリアは自分で調べることにした。

その日からアメリアは屋敷内の会話には細心の注意を払って聞いていた。父親・母親は言わずもがな、特に父に一番近い秘書のような役割も持つ侍女長。配送の手配や受け取りを担当している専門の業者。

自分としては探偵ごっこのつもりでもあったのだろうか、正直、父にはバレてるんだろうなとは思っていた。



分かったのは、小包の中身はヴァルハラの案内資料。

そしてもうひとつ。―――送り先は遥か東、「ジパング」と呼ばれる国



ほどなくして、ジパングに黒い髪の兄妹がやってきた。


彼女は直接姿を見ることはなかったが、名前だけは見ることができた。

学園の授業を確認するために使うシラバスに、まったくもって珍しい転入生の知らせと担任からの私信。

それを見た瞬間から、アメリアの中で何かが動き始めたのだろう。


ジパングの武人ミカヅチ・アザイと、妹のミズチ・アザイ

数年前まで学園で剣技講師をして、現在は行方不明となっているコンゴウ・アザイ。

転入してきたのは、その技術を継ぐ武人。ミカヅチのクラス判別をする為に行われた能力試験・・・云わば模擬戦では圧倒的な(わざ)で惨敗を喫し、改めて彼はコンゴウの息子なのだと肌で知ることとなる。


では何故ミカヅチがアトランティスへ来ることとなったのか。

それだけが未だにわからなかった。家族を揃えようにも当のコンゴウは行方がわからない状態であり、母親もどうやらジパングへ残してきたらしい。その代わり妹であるミズチがやってきた。

言うのもなんだが、髪色以外はあまり似ていないと思う。初めて見たときは兄妹とはとても思えず、ミカヅチはミズチの父親なのかと思ってしまったほどに・・・ここで若干の違和感を覚えた。


ミカヅチがクラスAに入り少しして突如起きた魔獣防衛戦。

近年まれに見るほどの規模であり、幾らか学園への被害も予想された。のだが・・・被害はほぼ無いに等しかった。

最前に駆けた武人の鬼気迫る猛攻が次々と魔獣を撃破。次から次へと斬り潰されて紅蓮の花を咲かせ続ける姿は、生徒の中から若干のトラウマを出したらしいと後になって知った。さすがにそれには苦笑いをせざるを得ない。

そして、彼がここに来た理由は大体わかった。



「無礼を承知で言うのは分かっています。

お願いします・・・・・コンゴウ先生の捜索に、私も加えてください」



―――彼は、コンゴウ先生を探しに来たのだ。


そう分かったのならば、もう言うことはひとつ。コンゴウの世話になった身として、自分も手伝いたい。「光の騎士」の名に懸けて、新たに仲間となってこれからを歩んでいく東洋の武人に協力したい。

立ったままお互いに目を逸らさない二人。武人は相変わらず何を考えているのかこちらからは理解できないが、その表情は哀愁にも似たものを感じた。

そんな悲しい目もできるのかと内心驚きはしたが、彼女は退かない。

この武人とともにコンゴウ・アザイを見つけだし・・・



―――――――



・・・・・見つけだし?

見つけだしてから、それからどうなる?連れ戻す?

では何故コンゴウは行方をくらました?


アメリアはここで痛恨のミスを犯していた。ミカヅチがコンゴウを探しに来ていたとして、なぜ探しにきたのか・・・それが分からない。

有り体に言えばコンゴウがなにか事件に巻き込まれていたのならば、当時にはニュースとして情報が流れていたハズだが、彼女の記憶にはそんなものはなかった。せいぜい内々で騒がれていたくらいである。

ということは何か意味があってコンゴウは自分から姿を消したとなる。そして数年、家族の捜索もないまま。


アメリアは完全に自分の要望としてミカヅチに頭を下げていた。それに気づいた時彼女は相当な自負の念を抱かざるを得なかった。

コンゴウに戻ってきてほしい。ここには家族であるミカヅチもミズチもいる。戻ってきて、また自分を鍛えてほしい。

目の前の武人は、果たして何を考えてこの地に立っているのか・・・。



「お前は身内を血で染める気になれるか?」


ミカヅチが放った言葉に一瞬、何を言っているのか分からなかった。

身内・・・つまりは自分の親族をはじめ、友人のことだ。

そんなものは無理に決まっている。何が悲しくて自分の親や友人に対して危害をくわえなければいけないのか。そんなことをする人間はむしろ許せない。

唇をきゅっと締めるが、それでも彼女はあきらめようとしない。


「無理だろう。お前にはそんなことする必要も一切ないし、俺もさせたくない。」

「コンゴウ先生を探して・・・どうするつもりですか・・・?」


そう、それが聞きたかった。聞き出すまでが長すぎた。

正直な話、もうほとんど答えはわかっていた。というよりは、ここまで出されておいて分からないほうがどうかしている。素直に認めたくなかった・・・魔獣を相手にするアトランティス人の自分、魔獣が存在しないのに尋常ではない精神力と戦闘能力をもつジパング人のミカヅチ


「この数年間俺はミズチと二人だけで生きてきた。正直な話今更親父とジパングに帰るつもりはない・・・あの男が今まで俺達に何をしてきたか、母がどんな思いで俺やミズチを育ててくれたか・・・。そして母を失ってもなお、親父は姿ひとつ現そうとしない・・・。そんな人間を父親と呼べるのか?呼べやしない・・・だから俺から来た、今までの生き方にケリをつけるために。」


痛めないように優しく掴まれた両肩だが、たしかに力がこもるのを感じる。そして前髪に隠れた右目には、あの時と同じ背筋の凍るような光を燈した眼孔が覗いていた。


魔獣の居ない国。サムライソードを用いた合戦剣術。相手は何なのか。


「親父・・・浅井金剛と刃を交えなければならない。」


あぁ、なんとなく武人という人間がどういう生き方をしてきたのか・・・分かった気がする。


「・・・あの男を斬る為に、俺は此処まで来た。」

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