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Mellow-刀ひとつ、武人が歩む魔法の国-  作者: 飯田倉和
武人来訪編
8/29

第7話「初陣、魔獣防衛戦」

「魔獣」と呼ばれる生物が、この世界の一部に存在している。


魔法文化のある国ではごく一般的に生息しており、国によっては特定の施設で家畜のように飼育されていたりと、ジパングやその近隣諸国のように魔法文化のない国以外では特に珍しい事ではない。

大小・形状・肉食草食共に様々な種類があるが、主な特徴としては全ての種類には少なからずとも魔力が宿っていて、その魔力の量も様々。


古くから魔獣を研究している王立の魔獣研究センターによれば、魔獣そのものはアトランティスが建国される遥か前から存在している固体であり、特にアトランティスの魔獣数に関しては小さな島国ながらも他の魔法文化国よりも多いそうだ。何か特別な魔力脈がこの国には存在しているから魔力を持って生まれてくる人間の数も多いのだろうと踏んでいるらしい。


兎のような小さな魔獣から、大きいものではサイのように軽自動車よろしくな魔獣まで、授業で習っただけでも軽く2桁は出てきたかもしれない。

たしかに小さい魔獣に関しては、人によってはペットとして飼育することもあるので、ごくたまに街中のペットショップのショーウインドウで見かけることがある(ミズチはめちゃくちゃ目を輝かせていた)。

大きい固体に関しては、安全に見るのであれば研究センターにアポをとって見学させてもらうのが一番(審査は少し厳しい)だが、未だ開発の進んでいない山岳地帯や北の樹海地帯などでは野生の魔獣に遭遇することもあるらしい。


だが人間でもそうあるように、決して全ての生物が安全である保障はどこにもない。魔獣でなくとも人間を簡単に殺す強い毒性を持つ生物だって存在しているし、それが通常の毒ではなく魔力性の毒であればなお処置が大変だったりする。ちなみに魔力性の毒には血清は効かず、特殊な治癒魔法で適正な処置をしなければならない。

そして危険なのはなにも毒だけではない。雑食・肉食獣にはよくあることだが、非常に獰猛な性格をしている魔獣も少なくない。そういえばアトランティスに来てから一度ニュースで北の森へ捜索に出たチームが大型魔獣に襲われて重傷だとかなんとか。


そしてやはり厄介だと思う問題は、中型以上は個体数が多く群れで活動していることが多い。更には「人間がちょっかい出さなければ温厚」という理屈が罷り通らない。



魔法戦技科2年特別カリキュラム「ヴァルハラ魔獣防衛戦」


野生の魔獣や、研究センターから実験中に脱走した魔獣が団体規模でヴァルハラへと進攻してきた際に行われる対魔獣実戦。

毎回ケガ人が必ずしも出てしまうので、2年でクラスB以上の生徒しか参加することができない、カリキュラムの中でも一位二位を争う危険なものである。


「進攻してくる魔獣ってのは、大体いつも同じ個体なのか?」


「いや、てんでバラバラよ。中型が10体くらい来る時もありゃ、小型が3桁来てヒーコラいう時もある。あとなんだ?ペット用として飼育されたのが施設から逃げて、学園内に迷い込んでそれを捕まえるってのもあったわ。」


定義がバラバラすぎる。何でも屋なのだろうかここの生徒は。

基本的に学園内で起きることのみに従事する理由としては、仮に街中や別の地区でこういう事が起きても王国陸軍や民間魔法警備団体が対処するかららしい。

といってもこの魔獣防衛戦は当然頻繁に起こるわけではなく、半年に一回。早くても4ヶ月に一回くらいのペースで起こるらしい。そりゃそうだ、そんな物騒なことが月イチとかで起きても困る。


ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!


という感じで、それが起きたときは警報が学園中に響き渡る。

比較的魔獣の研究センターの別館、いわゆる実験用魔獣を飼育している獣舎が学園から近いからか、研究センターから直で連絡がくることもあるらしい。


ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!


「それ(すなわ)ち」


「・・・・・ですねぇ」


遠くからドカドカと走る音が聞こえてくると、勢いよく教室のドアが開いた。眉間にシワの寄ったアルバートが入ってくると、教室の生徒は急いで自分の席へと戻っていく。

アルバートが生徒を見回していき、一周すると鼻でため息をついた。


「よし、全員揃っているな。これより魔獣防衛戦の作戦概要を伝える。3分前に王立魔獣研究センターから連絡が入った。どうやら実験用魔獣舎に野生の魔獣群が進攻し3番獣舎の檻を破壊した。そのまま魔獣は進路変えずまっすぐこの学園に向かってきている」


「つまり実験用の魔獣と野生の魔獣が混合されているということですか?」


「そう踏んでいる。野生魔獣の正確な数はわからんが、研究センターの話によれば、ひとつの番号の獣舎にはおよそ50体の実験用魔獣が飼育されているそうだ」


50体といえば、さっきハーネルが「中型が10来るときもあれば小型が100くるときもある」と言っていた。ちょうど中間あたりの数だ。

野生が混じるとなかなか骨の折れそうな数だとは思うが、参加できる全生徒もそれなりの頭数があるだろう。やれない戦ではないはずだ。


「魔獣舎から学園の敷地まで約10分!各学級クラスAが最前線を張り魔獣の群れを迎撃、撃ち漏らしや対処できなかった分を中衛として配備したクラスBが迎え撃つ!全員兵器使用自由!」


「兵器使用自由だぁ!?」


「どういう事です先生?いつも防衛戦では基本的に魔法攻撃を主とした迎撃体制だったハズでは・・・」


魔獣は何故か魔法攻撃にめっぽう弱いらしく、いつも防衛戦では魔法攻撃で一度対応し、そこから迎撃プランを練っていくらしい。兵器使用自由というのは、文字通り全てにおいての武装制限が解除される。

魔法攻撃はもちろん、格闘戦武器での戦闘、それに砲撃戦闘では実弾の使用も許可される。弾数制限はあるが、それでもすぐに使い切る数ではない。

だがそれが宣言されるという事は、何か理由があるはずだ。


「1番から3番の実験獣舎は、対魔法戦用装置の開発・研究に使用されている魔獣が入っているそうだ」


「対魔法戦?」


「そりゃ・・・・・まさか魔獣が対魔法バリア持ってるって事スか?」


「・・・強度はわからんが、そういうことだ」


教室内が少々重たい空気になる。

つまりは、魔法攻撃は通用しないと思え。そう言っているのだ。

たしかに魔法先進国で日々魔法戦を練り上げている生徒にとっては酷な話であるし、アメリアもハーネルももちろん例外ではない。ハーネルの戦闘をその目でまだ確認したことはないが、アメリアはオールラウンダーとはいえ当然根元には魔法ありきの戦術がある。

こういう時に限って、発達しているはずの魔法というものは一気に不便になるなぁとミカヅチは心の中で思った。


だが、そうは言っても魔獣は歩を止めてはくれない。

一同は外に出ると、わらわらと配置へ就いていった。アルバートのクラスではクラスAが学年最強の騎士と謳われているアメリア、常連であるハーネル(どうやら射撃型らしい)、そして転校間もなくして入ったミカヅチ。

戦力としては十分な気もするが、魔法を使うであろう2名がどこまで戦えるのか、やはりミカヅチが先陣を切るしかないだろうか。

しかしそれに待ったをかけたのが、まさかのアメリアとハーネルだった


「まずはセオリー通り、私が射撃魔法で弾幕を張ります」


「ん?向こうはバリアとやらを張っているんだろう?」


「だからだよ。先生も言ってたがバリアの強度がわからんから、まず試しにロングレンジから撃ち込んで様子を見るんだ。自分の射程まで引き付けてからじゃいざ吸収されたとなっちゃそのまま自分まで魔獣の群に飲み込まれちまう」


「恐らくですが実験用と野生の魔獣はほぼごちゃごちゃになって進攻していると思います。そのまま野生に魔法攻撃が効いてくれるのなら、ある程度的は絞れるハズです」


なるほど、まぁまぁ悪くはない。

乱れ撃ちでアローの雨を降らせるとなれば、どれがバリア持ちなのかがある程度特徴も掴めるかもしれない。・・・あくまでその実験用魔獣がどれほどのバリア強度を持っているかだが


「ま、全部効かなかったらそん時はそん時だ、物理戦で虱潰しにしてくしかねぇよ」


「仮に全てが格闘戦になったとしても、負けるつもりはありません」


「頼もしいねぇ」


そんな事を話しているうちに、だんだんと地響きが強くなってきた気がする。

まず分かっていることといえば、魔獣の数は最低でも50はいる。そしておそらく中型で全部が対魔法バリアを備えている。

後ろに控えているクラスBの連中も、決して出来ないワケではないがなるべく取りこぼしがないようにしたい。万が一巻き込まれでもしたら大惨事になってしまう・・・付き合いは短いがどいつもいいヤツらなんだ。


ドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!


「来ます!」


鳴り響く轟音とアメリアの凛とした声で集中力が増す。

まだ二人には見えていないだろうが、ミカヅチには既に魔獣の姿が見えていた。大型バイクくらいのサイズがありそうな魔獣が、速度はそれほどないにしてもとてつもない数で。

50以上とは言っていたが、見えている限りでは後ろにもっといるだろう。もしかしたら3桁到達しているのかもしれない。響く振動からミカヅチはそう察してた。


「喰らいなさい・・・ッ!一斉射ぁッ!!」


チャージを終えていたアメリアがレイピアで魔獣の群れを指すと、纏っていた光のエネルギー矢が上空へと昇った後一気に降り注いだ。

アメリアのシャイニングアロー、というよりは使用する砲撃系魔力は基本的に魔力の圧縮率が高い。並みの魔法使いが使用する魔力弾と比べると倍くらい密度の差があるので、バリアが薄かったとしたら簡単に貫通できる。

・・・ということは、アメリアの矢がバリアを貫けなかった場合・・・


「ギャォオオオオオォォォオォッ!!!」


「なっ・・・!?」


貫けなかった。

咆哮をあげた魔獣から発生したバリアは、いとも簡単にアメリアの矢を跳ね返した。豪雨のように降り注がれる矢はバリアによって打ち砕かれ、破片は全て魔力爆発を起こしていった。

不本意だがそれにより周りにいた魔獣の数匹が吹き飛んでいくのを確認すると、それが野生の魔獣なのだと直感で理解できる。


―――それだけ分かれば、あとは此方から仕掛けるのみ。


「・・・雷脚振跳」



「やーな予感はしていたが、こうもアッサリ的中されるとねぇ」


「恐らく密集している分バリアが何層にもなっているんだと思います・・・。これは早く潰さないと、あれだけでも十分施設を潰せる能力は持っているはずです!ミカヅチさん!」



・・・・・・・・・・。


「ミカヅチさん?」


「・・・おい、ミカヅチはどこだ?」


「ッ・・・まさか!?」


「ケぇエエエエエぇぇぇぁッ!!!」


地を揺るがす轟音を切り裂く声と共に、前方でなにかが吹き飛んだ。

間違いない、魔獣だ。今まさにこちらへ進攻してきている魔獣のうちの数体が、紅蓮の花を咲かせながら空中を舞い上がっている。一体、また一体と禍々しい呻き声を上げながら上空へ吹き飛ばされてはその地に伏せていく。

瞬く間に魔獣の眼前へと迫った武人は、硬いと云われている魔獣の皮や骨を物ともせずその握られたサムライソードで切断していく。まるでバッティングセンターでボールを打ち返すが如く次々と。


「あいつには恐怖心ってものはねぇのか・・・?」


「防衛戦は初めてのはずなんですけど、人間を相手にするより気を使わないから戦いやすいんでしょうか・・・?」


「だからって敵陣真っ只中に突っ込んでいくやつがあるか!?(ハタ)から見りゃただの自暴自棄だ!」


斬る、斬る、斬る、ひたすらに斬る。

生物を斬り殺すのはアトランティスに来てからは初めて。だが彼には恐れることは何一つなかった。こんなもの、ジパングの合戦と比べればてんで殺意なんてありはしない。

この魔獣を斬る感触。なぜだろうか覚えがある気がする。恐らくジパングの武人が使っている鎧と同じくらいの硬度なのだろうか?なんとも今では懐かしくなってしまった感触に自然と頬が緩んでしまう。


「くははッ・・・!」


しかし、相手側が単純に突進してくるだけというのには、少々面倒な部分がある。人間が向かってくるのとは違い止ることを基本的に知らないので、どうしても数を相手にすると撃ち漏らしてしまう。加えてサムライソードの射程はミカヅチの上背をもち、乱戦用の歩法を使って半径約2メートル。

当然だが、道幅からひとりでまかないきれそうにもなかった。

軽く舌打ちをしながら、遠めに見える魔獣がすり抜けていくのを見ていた時だった。



ドン!ドンドン!ドン!


「ギィイイイイイィィィッ!?」」


ミカヅチの横で、斬ってないはずの魔獣がダイナミックに倒れた。

しかしその倒れた魔獣はどうやらまだ生きている。掠れた呻き声を吐き出しながら足をばたつかせ、どうやらもがき苦しんでいるようだ。

他の魔獣も同様、主にミカヅチから若干距離のある魔獣がどんどん倒れていく。そういえばこの後ろから聞こえるこの音は銃声か。なんだか久しぶりに聞いた気がする。

チラリと後ろを確認すると、ハーネルの姿を捉えた。

こちらへ走って来ながらもその両手に握られた拳銃の引き金を次々と引き、撃ち出された弾丸は魔獣の歩を止めていく。しかしこの魔獣、ミカヅチでも斬る感触がダイレクトに分かるくらいには皮が硬いハズなのだが、45口径の弾丸数発で止められるものなのだろうか。


答えはすぐに分かった。目だ。ハーネルは魔獣の目を狙っている。

走りながらで、距離も照準も安定しないハズなのだが、このハーネルという男はなんという射撃技術を持っているのだろうか。確実に2発・・・両目を狙い撃つことで仕留めていく。

クラスA常連だという理由が分かった気がする。


「ハーネルさんにとっては、あの大きさであの速度なら動いてない的とほぼ同じなんですよ。乱戦内での射撃精度なら、精密機械的性能のスティレットより上です」


いつのまにかミカヅチの隣に立っていたアメリアが次々とアローを放っていく。バリアで止められているハズじゃなかったのかと思っていたが、当たった魔獣はハーネルが撃ち止めたものたち。


「恐らくですが、額付近にコアのような水晶が埋め込まれているのが実験用の魔獣です。それ以外の魔獣にはアローが効くみたいなので」


「構わん、あろうがなかろうが叩き斬るだけだ」


「言うと思ったわ。目視で残り5割!このままかっ喰らっちまおうぜ!」


ここ数年で一位二位を争うほどの物量を誇ったはずの魔獣防衛戦は、ものの1時間もかからずにあっけなく終わってしまった。

新たにクラスAに加わった武人ミカヅチ・アザイの名前が学園に知れ渡るのは、おそらくこの時からなのだろう。別の組の生徒曰く、血煙にまみれた魔獣の残骸の上に佇む姿には恐怖すら覚える・・・とのこと。


防衛戦が終わり、魔獣の残骸が研究センターによって引き取られている中、ヴァルハラのランクB以上の生徒達は特別休講を得ていた。

カリキュラム内とはいえ、過酷な任務であることには変わりない。

全休になるわけではないが、作戦終了から約2時間ほど。原則として教室での待機は禁止とされているので、特に行くアテのなかったミカヅチは学園の中でも一番高いところにある屋上テラスのベンチにどっかりと座って、そこから見える町並みを眺めていた

途端に後ろからドアの開く音が重く響く。コツ、コツ、と足音はそのまままっすぐこちらに向かってくると、相手が誰かはおおよそ検討がついた。凛としながらも、どこか懐かしく優しい風を孕んだ気。「光」の気というものは、そこにいるだけでこんなにもわかりやすいのだろうか。


「・・・ミカヅチさん、貴方がここに来た理由って・・・コンゴウ先生の捜索ですか?」


「気づいていたのか・・・?」


目にもまぶしい金髪の少女が武人の隣に腰を下ろす。

アメリア・L・エリダンヌ。国王の娘として生まれた彼女は、コンゴウがまだこの学園で臨時講師をやっていた時から国王間で幾許かの交流があったらしい。コンゴウの剣技講習を耐え抜いた数少ない生徒の一人であり、その講習のおかげで彼女は最強の「魔法使い」ではなく「騎士」になれたのかもしれない。

国王がコンゴウの捜索を密にやっていたとしても、娘には隠し切れなかったのか、それとも彼女の洞察力自体は高いのだろうか・・・。といっても、直々に血縁を国にまで呼んで衣食住ある程度サポートまでして住まわせるというのだ、ある程度の内情を知っていればすぐに気づくのもおかしくないだろう。

アメリア自身は何か別の情報を知っているのかもしれない、ミカヅチが口を開きかけた時だった。



「無礼を承知で言うのは分かっています。

 お願いします・・・・・コンゴウ先生の捜索に、私も加えてください」


金色になびく風から覗く碧色の瞳は、目の前の武人を離さなかった。

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