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Mellow-刀ひとつ、武人が歩む魔法の国-  作者: 飯田倉和
武人来訪編
6/29

第5話「ひと振りの重み」

「シュートッ!!!」


一斉に撃ち出された魔力弾が、高速で動く的を次々と射抜いていく。

一発も洩らすことなく全て円の中心を貫き、時には別の的の中心すらも捕らえていく精密技術は、周りから見れば惚れ惚れするほどにスタイリッシュな技でもある。

周りからは「おぉ・・・」と溜め息が聞こえてくるが、黙々と魔力弾を展開しては撃ち続ける本人は、イマイチ納得していないような冴えない表情を浮かべている。


煩悩を振り払うように魔力弾を展開すると、さっきよりもハイペースで的を射抜いていった。

違う、もっと鋭く、もっと死角から、それでもって急所を確実に・・・そうでなければ、倒しきれない。きっと立ち上がってくる、弾かれる。

無差別戦で同級生に付けられた黒星の意味は、それだけで重い。




「ミカヅチさんのクラスA加入を進言します。」


アメリアは訓練施設の監督室で、アルバートにそう告げていた。

試験結果を精査する際、やはり複数項目のトータルバランスで結果が出てしまう。その際に各項目もEからSまでランク付けをされるのだが、あまりに両極端すぎて正確な数値が出せずにランク評価がゴタゴタになってしまう例もたまにあるのだ。

そういう時は実際の映像データを元に当事者と試験官の証言をもって、より正確な評価を下すことになっている。


魔力値E 近距離戦S 中距離戦A+ 長距離戦C

物理戦S 魔法戦E 指揮能力D


総合評価B


データベースのモニターには、そう結果が出ていた。

が、その結果に待ったをかけたのがアメリアであった。アルバートはもちろんそうなるであろうとは予想していたので、特に止めることなくアメリアの進言を聞いていく。


「たしかに彼は『魔力がない』と自負している以上、魔力値と魔法戦の評価がEから上がるということはありません。実際に使用もされていませんし。・・・ですが、近距離(インレンジ)から中距離(ミドルレンジ)における物理攻撃での近接格闘(クロスレンジ)戦は、今までにないくらい特筆した能力を持っています。

長距離(ロングレンジ)についてですが、彼には『アクセルエッジ』に似た能力があり、尚且つそれを呼吸でもするかの如く操れることを考えると・・・むしろ彼を前に長距離戦には持ち込めないのではと思います。」


「つまりS評価である部分が、他の低評価部分を補いきれていると」


「・・・・・。」


「アメリア?」


「補う、という次元の話じゃないと思うんですよね・・・。」


驚異的な制圧力を誇っていたはずのアメリアの魔法戦闘が通用しなかった。

実際アメリアも無双はできても決して無敵というわけではない。アルバートや他教師、そして上級生に敗戦を喫することもあれば、超強力な魔法シールドを前にしたら削りきるのは骨が折れることも分かっている。

それでも、それなりにダメージを与えることができる。自分の魔法は届く。

しかし届かない相手は今までに一人だけ居た。臨時剣技講師、コンゴウ・アザイ。そして今回、息子であるミカヅチ・アザイがそれをやってのけたのだ。

「悔しい」といった言葉が似合いそうな表情をするアメリアに、アルバートは口を開いた


「・・・『魔導斬(まどうざん)一刀流(いっとうりゅう)』という流派(スキル)がある。」


「魔導斬一刀流」。それはジパングにて約20年ほど前にコンゴウ・アザイが創始、以降使用している流派で、息子のミカヅチも修めていた。

サムライソード一本で敵を切り伏せる一刀流剣術であり、その名の通り「魔導」を「斬る」ことから、対魔法戦闘に関しては他の追随を許さない。

特に元となった剣術はなくコンゴウが幾年もの武者修行を経て辿り着いた合戦剣術であり、若い頃のアルバートや国王も当時から化け物じみた技術に背筋が凍りっぱなしだったことを覚えている。


「だからミカヅチは魔法戦ができないんじゃなく、対魔法戦用の技術を修めているから魔力を持つ必要も、魔法で戦う必要もないんだ。きっとその気になれば、魔法戦の最中ひとり置き去りにしても生還できるだろう。」


「魔法攻撃をただひたすらに潰し、自分の刃を相手に叩き込むということに慣れている・・・ということですね。それも、近接格闘戦においてはSという枠組みから遥かに離れているくらいに。」


「そういうことだ、よってミカヅチをクラスAに送る事に何の異論も無い」


正直、さっきから肝を冷やしっぱなしだと思う。

というよりはミカヅチの実技試験の最中からずっとだ。「魔導斬一刀流」・・・魔力を一切使わずサムライソードの捌きのみで魔法攻撃を叩き落し、「アクセルエッジ」をも凌駕する踏み込みで切り込んでくる。想像するだけでも背筋が凍るのに、自分も先ほどやられそうになったのだ。

「キャット・オブ・ナインテイル」が切り払われた後の一撃、あれはサムライソードの背・・・刃ではない部分で首元に当てられたのだが、本来なら刃を使う。

つまりこれが本物の戦だったら、アメリアは知覚できぬ間に首を落とされていたということだろう。


「次元が違いすぎるでしょ・・・普通に考えて」


ちらりと目線でミカヅチを追う。

試験が終わってからすぐミカヅチはクラスメイトから様々な質問攻めに遭い、終わってからというもの20分くらい前からずっとサムライソードを正眼で構え、目を閉じたまま動く気配がない。

他の生徒も不思議に思ってはいるのだが、なにせ近寄ることができない。下手に声をかけようものなら一瞬で切り殺されるのではないかというくらに近寄りにくい気配を出しているのだ。

それでもアメリアは気になって仕方が無いらしく、自分も訓練中だというのに目線の先にはずっとミカヅチを入れたままだった。


「・・・・・あの時も、あんな風に鍛錬してたな」


「何がだ?」


「うひゃわぁっ!!?」


不意なハーネルの声に思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

完全に自分の世界に入ってしまった。そういえばコンゴウもああいう風に一本の木のようにサムライソードを構えたまま動かないことがあったようななかったような。

カラカラと笑うハーネルを恨めしそうに見ながら、さっきの事を聞いてみるとする。


「・・・ハーネルさんは、どう思います?」


「異論はねぇし、見たまんま事実じゃねぇか。それにクラスAの人員が増えてくれるなら防衛戦で俺らの負担もなくなるだろ?あいつなら先陣切ってくれるだろうよ」


腕を組んであっけらかんと答えるのを見て、こういう時男性は強いなぁと思う。

考えてみればたしかにミカヅチは想像以上に強いが、敵ではないのだ。自分との力の差を比べるのも仕方ないことだが、なにも倒さなければならないということじゃない。

これから同じクラスAとして、肩を並べて共に戦っていく。

きっと利用されるし、利用することも少なからずあるだろう。でもそれは決して使役ではなく役割なのだ。そのために鍛錬を続ける。なにも一人で戦っているわけではないのだから。


「コンゴウ先生がいなくなって他の連中もどこか気が締まらねぇって感じになってたが、ミカヅチがいりゃこれまた皆の気も引き締まるんじゃねぇか?」


「知ってたんですか?」


「アザイなんて苗字(ファーストネーム)だって、あっちでそういっぱい居るワケじゃないだろ?あの雰囲気でも大体予想はつく」


ただでさえ普通の高校生とはかけ離れた容姿を持つミカヅチは、サムライソードを握るだけで一層雰囲気が変わる。

本人曰く「剣気を練り上げる」とのことだが、極端な刀剣文化ではないアトランティスの人間からすれば何じゃらホイといった感覚でもある。が、特別理解できないわけではない。肉食動物に睨まれた草食動物は恐らくそういう気持ちなのだろう。


身体が凍りつくような、それでいて脳髄にビリビリくるような威圧感も、このアトランティスにおいては強力な武器になる。

実際威圧感だけで相手を圧倒できる人間は生徒にはいなかった。大体はアルバートやコンゴウなど、戦の術を知っている人間における固有スキルだと思っていたから。

前髪から覗く、サムライソードの刀身の如くギラリと光る眼孔。アルバートに勝るとも劣らない上背。制服の上からでも分かるくらい主張された、隆々とした筋肉。それでいてパワーファイターかと速度で掛かれば、その速度すらも凌駕されるれっきとしたスピードファイター。


彼はもうすでに戦士として、武人としてひとつの完成形に辿り着いているのではないだろうか。



「で?さっきからミカヅチに熱い視線注ぎっぱなしなのは、お前にもいよいよ春が来たって解釈でいいのか?」


「ぬなっ・・・何を言ってるんですか!?もうっ!秋です!」


「いやそういうマジレスいらんから・・・」




アメリアはもちろんのことだが、ハーネルもどうしてもやりたい事がひとつあった。


「刀を握ってみたい?」


そう、二人ともずっとサムライソードを握ってみたかったのだ。

近接武器においては国内産がほとんどを占めるアトランティス人にとっては外国の近接武器に触れる機会はほぼ無いに近いので、ある意味で一つの夢とも言える。

しかし、その触れたい対象がサムライソードともなると話は別だ。

「魔剣」と呼ばれし武器というのもあるが、サムライソードは武人の魂だというのも国王から聞かされた事がある。ともなってしまえばそう易易と他人に触らせて良いものではないのではないか。そう思うのだが、やはり好奇心というものは抑えられるものでもない。

だが一方のミカヅチはあっけらかんとしていて、鞘に収めてあるサムライソードをこちらに差し出した。


「じゃ、まずは俺から・・・・・っぅおッ!?」


「どっどうしました!?」


「お・・・重てぇ!これ、細さの割にブロードソード並の重量あんぞ!?」


「鞘にも鉄を使ってるからな、抜けばいくらか違うハズだ」


喉をごくりと鳴らしたハーネルは、ゆっくりと鞘から引き抜いていく。

くもりひとつ無い刀身が露わになり、完全に引き抜いてわかったことがある。軽いのだ。鞘に納めてある状態とは打って変わってかなり軽い。流石に羽のようにとは言わないが、さっきの重量を考えるとそのギャップにも驚いた。


軽くて硬い魔鉱石を使っていない、ただの鉄でこんな武器が作れるジパングはぶっちゃけヤバいだろとハーネルは内心で思う。ミカヅチ曰くサムライソードは通常「玉鋼(たまはがね)」と呼ばれる鉄で作られているらしいのだが、2人からしたらまったく想像できない。

鞘に収めてアメリアに差し出すと、アメリアもおっかなびっくり受け取った。


(特殊な能力や力が宿っている訳じゃないのに、持つだけで重圧がのしかかってくるような気がする・・・)


やはり同じ剣を持つ者。ハーネルとはいくらか感じ方が違うみたいだ。

そもそもコンゴウの剣技講習を受けたアメリアは、当時から植え付けられたトラウマにも近い思いがあるので、本能がサムライソードを避けたがっているのかもしれない。

意を決して鞘から引き抜くと、やはりその軽さに驚く。

一体この魔力の宿らない刃のどこをどうすれば魔法を斬り裂くことができるのだろうか。云わば実体をもたない魔力は自然現象と同じだから、水や雲、空気を斬るのと同意義になる。アメリアの疑問は深まるばかりだった。


両手で握って、アメリアは軽く振ってみた。

何かが違う。ミカヅチが振るときの音より濁って聞こえる気がする。

アメリアの持つレイピアは、実際のところ「ストリッシャ」と呼ばれる武器のほうが近いかもしれない。レイピアは「突き」が主体の細い針のような武器だが、ストリッシャはそのレイピアに両刃を付けたようなものだ。

フルオーダーでチューンされたアメリアのレイピアは、ストリッシャとの中間に位置するような形をしている。要は「斬る」と「突く」がどちらもできるタイプ、先端にいくにつれどんどん細くなっている。


(サムライソードも先端は尖っているとはいえ、ブロードソード等と同じく先端ギリギリまで刀身に幅がある。それでもって片刃だから、空気抵抗の調整が難しいのかもしれないわね・・・)


「なんなら何か試しに斬ってみるか」とミカヅチの提案で、ハーネルが廃材置き場から木材を拝借してきた。


「木材ってコレ、えらい太くないですか?」


「いやぁ手に持てるような角材とかなくてよォ」


「どう見てもほぼ丸太じゃねぇか」


ハーネルが持ってきたのは、直径10センチ弱の丸太だった。

昔の家屋建てる際の足場を組むくらいにしか使い道がないだろうものがなんでアトランティスにあるのか疑問だったが、ミカヅチにとっては丁度いい太さなので良しとする。用意した脚立に置いて準備完了だ。


「おぉりゃッ!」


ガスッ


両手で握って勢いよく上段から叩き下ろしたハーネルだったが、虚しくも刃は鈍い音を立てて2センチにも満たない場所で止まっていた。アメリアから見てもかなり力任せに振ったので刃こぼれが気になったが、ミカヅチは一言「大丈夫」とだけ言ってアメリアに渡した。

あれだけ薄い刃なのに刃こぼれひとつないサムライソードに内心驚きながら、アメリアも上段で構える。構え方は、僅かながら頭の中で覚えていた。

前にコンゴウが訓練の際に世界中の剣術における様々な構えを説明していた時、たしかジパングの構えにあったハズの「天の構え」。深く深呼吸をして、アメリアは目を開いた


「・・・はぁッ!!」





「しかしまぁ、サムライソードってのも奥が(ふけ)ぇな」


「ですね。やはり素人の私達ではあれが限界でした」


結果はお察しの通り、アメリアも3センチほどで止まってしまった。「なかなかサマになっていたぞ」とミカヅチは褒めていたが、そんなミカヅチは普通に口で説明しながら振り落としてそのまま丸太を真っ二つにしてしまった。

唖然とする2人は「うん、無理」と頭の中で結論付けた。


「まぁ自分のスタイルってのはそう簡単に変える事はできねぇからな。俺だって多分アメリアの武器はてんで使えねぇだろうし」


「なんかお前が触ったら魔鉱石(ミスリル)が誤反応とか起こしそうだな」


「いや、それは流石にないと思います・・・」


魔力持っている人間ならまだしも、魔力なしの人間が魔鉱石使って暴発なんてありえないが、この人は規格外だしなぁ・・・とアメリアは思うのだった。

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