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Mellow-刀ひとつ、武人が歩む魔法の国-  作者: 飯田倉和
武人来訪編
2/29

第1話「魔法の国アトランティス」

青空の下に、高く乾いた快音が響き渡る

カン!カン!カン!と何度も、飽きることなく、淡々と。

黒い髪の兄妹が握っているのは、木で作られた刀と薙刀。こうして打ち合いを続けて既に一時間半。妹のミズチがふと目線を兄の後ろにやると、ぱぁっと表情が明るくなった。


「お兄ちゃん!島が見えてきたよ!」


「ようやくか・・・。到着は夕方くらいになりそうだな」


「やっと船上生活から解放されるねぇ」


此処は船の上。二人は甲板の上で打ち合っていた。

例の書類が届いてから、ミカヅチはずいぶんと悩んだ。

自身ではほぼ即決ではあったのだが、ミズチの事と元々通っていた学校の事もある。

自分は良いが、妹には今まで作ってきたクラスメイトの輪もあり(といっても若干引っ込み思案で友人は多いほうではないのだが)、それを離させるには少々荷が重かった。

かといって自分一人で行くわけにもいかないので、夏季休暇(なつやすみ)に入ると同時に転校することにしたのだ。


夏季休暇に入る前の間はそれはもう大忙し。外国である以上使い慣れないもの、こちらにしかないものなどが沢山だと思われるので、荷造りには相当の時間を費やした。

そして学校が終わり、ミズチはクラスメイト達から送別会を開かれたのか、自宅に着いたときには泣き腫らしたのか目がすごいことになっていたのは覚えている。

そして二人は長い船旅(と少しの陸路)に出て、それももう終わりを告げようとしていた。


「もう今日から住居に入れるんだっけ?」


「どうやらな。入国審査が終わったらすぐに案内の人が来る事になっている筈だ」


「なんでか分からないけど至れり尽くせりだよねホント」


ミカヅチが一番驚いたのは、書類である。

説明には「書いて箱に入れておくだけで良い」的な事が書かれていたが、送り返さなくて良いのか?と思っていた。

しかしリターンさせるモノも入っていなければ、そう書かれているなら従うしかないだろうと用紙に記入してそのまま封筒ごと箱に入れておいた。

翌日になってミカヅチが気になって箱を開けてみると、なんと書いたハズの用紙が消えていてまた別の書類となっていたのである。


「『転移魔法(テレポート)』ってヤツなのか、それとも特殊な紙とインクでもあるのか・・・」


「私たちにはマンガやアニメの話だとしか思ってなかったもんね。存在そのものは知ってるけど」


ひらりとミカヅチが懐から出したのは、王国(アトランティス)の紋章がついた入国許可書。

手続きのために書いた用紙が消え、新たに入っていた書類のひとつだ。船から下りてターミナルで審査を受ける際にこれを提示すればいいらしい。


だが二人にはひとつだけ、どうしても避けられない心配事があった。


「果たしてコッチの言葉が通じるかどうかだな。」


「ネットで調べて簡単な挨拶とかは覚えたけど・・・会話が成り立つかどうかだよね・・・?」


「まぁ、最悪国王からの書類突きつけて本人呼ぶしかねぇな」


「だ、大丈夫かなぁそれ・・・」




日の暮れる前に港へと到着し、宿泊用の手荷物をまとめた二人は船を下りてターミナルへ向かった。

ジパングから大陸まで船で数週間、大陸から船まで鉄道で数日、そしてアトランティスまで船で数時間。

長かった旅路がようやく終わるとミカヅチは思いっきり身体を伸ばす。ゴキゴキと様々な関節が悲鳴を上げ、長いため息をついた。

ここから先は、まったく未知の領域。右も左も何もわからない国で、二人は暮らしていく。

さすがのミカヅチも少々気を引き締めて、入国審査の窓口へ向かった。


「それでは、案内の者を今お呼び致しますのでここでお待ちください。」


「あ、はい。」


通じた。

あっさり通じた。

イントネーションも全く一緒。

というより喋ってる言語が全く一緒。


まず第一声が聴き馴れた言葉で「審査書類はお持ちですか?」だった時点で二人の悩みはすべて崩れ去った。流暢に話せるどころの話ではなかったのだ。まるで元々言葉の壁というもの自体が存在していなかったかのように審査員は入国審査を進めていった。

余談だが、審査の際にポカンとした顔で「えぇ」「はい」を繰り返すミカヅチの姿がミズチにとってはとても面白おかしかったそうだ。


「あの審査員の人が特別話せる・・・ってワケでもないよな。」


「気張ってて全然気づかなかったけど、聞こえてくる周りの会話も理解できるよ・・・」


「ミズチ見てみろ、コッチの文字読めるぞ?」


「あっれぇ~~~・・・?」


悩みに悩んだ結果、特に気にしない方向で決着がついた。



「いやしかし、最初見たときは親子かと思ったのですが、まさか兄妹でしたとは申し訳ない」


「まぁ、自分で言うのもアレですが慣れてますんで・・・」


「入国審査の時も間違われてお兄ちゃん、睨んで黙らせてたよね・・・」


「そういうことは言わんでいい」


車に荷物を積み、アトランティスの街を抜けていく。

港がある南区から中央の街中へ入っていくと、王国らしい気品漂う芸術のような街並みにも見えるが、細かい部分を見ていくとそれなりに機能性というものに優れた点も見えており、なんとも伝統的な部分と革命的な部分を巧みに兼ね備えた国なのだろうとミカヅチは心の中で思った。

それにしても美しい国である。ジパングのようなビルや商業施設、娯楽施設がゴチャゴチャした街並みとは違い整っているので、街を散策するだけでも目の保養になるのかもしれない。



アトランティス・エリダンヌ王国


西の大陸内にできた巨大な海の中に存在している小さな円形の島国で、ジパングには無かった「魔法」というものが存在・発達している魔法発展率第一位の国。

ただ歴史自体はジパングと比べれば半分以下の期間で急速に発展した国であり、元々は遺跡以外何も無かった島に大陸の人間が移り住み、作られていった国らしい。わずか数百年内での出来事である。西洋は基本的に魔法文化であり、他の国にも魔法が存在していることは存在しているが、アトランティスのように出生率のおよそ6割強が魔力をもって生まれてくるというのは、世界基準で見ても頭ひとつ抜けている(発展率2位の国ですら半数は切っている)


また、元々存在している動物にも魔力を持ったものが存在している。

資料によると、こんなものが世界に存在するのかと思うほど見た事のない動物ばかりで、それらはすべて「魔獣(まじゅう)」と称されていた。

どうやら魔法技術やルーツなどを調べるためにも魔獣と研究施設は必要不可欠らしいが、国の悩みとしてはたまに実験用の魔獣が獣舎から個体または集団で脱走しては、その都度対処しなければならないらしい。

しかもその向かう先のには、よく学園が入っている。


「お二人は、このまま学園(ヴァルハラ)に?」


「えぇ。・・・しかし、西洋じゃ俺らのような東洋人が来るのは相当珍しいと思いますが。」


「でしょうね。基本的に通っているのは王国民だけですから、転校生の経験はほとんどないと思いますよ。私も学園出身ですが、中等から専門まで先輩後輩伝っても転校生が来た事はありませんでしたし。」


「そうですか。・・・ミズチなんで泣きそうなんだ?」


「ふ、不安だよ・・・。生まれも文化も違うのに、友達だってできるかどうか・・・。」


「頑張れとしか言い様がねぇや。」


この日は住居に到着するも、旅疲れかミズチはすぐ布団で寝てしまった。


二人に用意された住居は中央区の中でも東寄りの少し離れた場所にあった。

二階建ての一軒家でなんと庭までついていた。ジパングの市街地で見る建物とさして変わらないほど現代的な造りをしており、路面電車の駅からも徒歩十分ほどとそこまで遠くはない。

ぶっちゃけた話二人だけで生活するには少し広すぎるのではないかと疑問にも思ったが、手当も支給されながらこんないい物件を賃料なしで住めるなら文句はないだろうと心の中で納得する。

夢のダイニングキッチンを目の当たりにしたミズチのはしゃぎ様が今も目に映る。



二人が王国に引っ越して三日が経った。

荷物の整理や近辺の散策その他手続きなので慌しかったが、今日から学園でも新学期開始となるので、二人は今日付けでの転校となる。

クリーニングどころか新品の制服に袖を通すのも久々なミカヅチは、着てから腕を曲げ伸ばしたり足を振り上げたりと材質の確認をしていた。

背丈も高く筋肉質な以上特注された大きいサイズしか入らないが、思っていたよりも頑丈な記事ながらも身体にフィットする感触には良いものを感じる。

俗に言う学ランともブレザーとも言いづらい、どこか軍服にも近しい見た目もある中世の気品を匂わせた深いオリーブ色の制服。


コンコンとドアのノック音が聞こえると、開いたドアの隙間から顔の赤いミズチが顔を覗かせた


「お、お兄ちゃん・・・準備できた?」


「あぁ。・・・どうしたんだ?そんな隠れるようにして」


「だ、だって。この制服ずっごいオシャレすぎて」


「西洋なんだから当たり前だろう、どの道これから大衆の面前に晒すことになるんだ。」


「えっ!?あっ!ふぇあぁぁ~っ!」


若干強引気味にドアを掴んで開くと、その拍子にバタバタとミズチが入ってきた。

視界に入ってきたのは、目に優しい落ち着いた色の上着だった。

クリーム色に近い、肩部分が膨らんだシャツ。それを覆う、ブラウンのベスト。そして目線を下にやると、落ち着いた色とは少し対照的となる、鮮やかな赤色に黒と白のチェックが入ったスカート。白の一本線が入ったスカートと同じ赤のタイを通している金色のクロスが制服の色を一層引き立ててくれている。

自分と同じ髪の色がミスマッチとも思えるかもしれないが、十分可愛らしい。


「なんだ似合うじゃねぇか。俺は隣歩いてても全然恥ずかしいとは思わんぞ?」


「そ、そう?・・・えへへ、ありがとお兄ちゃん。」


兄に褒められて機嫌を良くしたのか、舞うようにくるりと回ってトテトテと居間へ戻っていく。

シャツの裾が三角の帯状に広がっているので、背中で結んだリボンと一緒にふわりと舞った。どうやら背中のリボンはベストのサイズの細かな調整役を買っているようで、靴紐やコルセットのように紐が交互に通っていた。


隣を歩いても恥ずかしくないとは言ったが、ミカヅチ本人はお世辞で言ったつもりはない。

兄バカかと思われるかもしれないが、実際のところミズチは可愛い。

完全に母親譲りとなった顔や体系は小動物とも思わせるような感じで、なんとうか保護欲を掻き立てられてしまう。母はかなり堂々とした度量のある人物だったが、ミズチは対照的で引っ込み思案。

母が亡くなってからは二人暮らしで、更に守ってやらねばならないという使命で生きていたが、端から見ればミカヅチも若干シスコンの気はあるのではないか。

少なくとも本人にはちょっと自覚はあるみたいだが。



妹の姿が見えなくなったと同時に、ミカヅチの眼が鋭くなる。

これはこの住居に入ってから感じだことなのだが、どうも誰かに視られているような錯覚が度々起きるのだ。

監視カメラや殺気の類がないかと、夜にミズチが寝てからおおかた家中のありとあらゆる場所を調べたが、結局見つからなかった。しかし視線が降り止むはなく、今もこうして誰かの視線を感じている。

現在できる解除の方法はひとつ。


「・・・・・。」


視線が消えた。

だが直接睨み返したわけではない。気だけをぶつけたのだ。

できるなら荒事にしたくないので、コレで治まってくれるならまだいいが、そのうち大本を引きずり出さないとならない。事故物件じゃないことを祈るばかりだ。

そう思いながらミカヅチは妹の待つ居間へ向かった。


・・・のだが。



「俺たちの武器がまだ港に?」


「うん。お兄ちゃん呼びに行くちょっと前に学園から電話があって『申し訳ございませんが、監査が終了次第そのまますぐ学園に輸送致しますので・・・。』って」


「ふむ・・・まぁ考えてみればこの独立された王国のことだ。海外から武器等が送られてくるなんて危険物だと思われてる可能性もなくないし慎重に検査してんだろう。」


「でも今日ってお兄ちゃん、そのまま実技試験あったはずだよね?」


「それなんだよなぁ。そん時までに間に合ってくれりゃいいんだが・・・。」


長年共に同じ道を歩んできた相棒だからこそ、使いたい。

最悪学園に代わりとなる装備を借りなければならないが、正直な話どんな装備がこちらにはあるのか全く検討がつかない。

果たして魔法戦だけに特化されているのか、ちゃんと物理武器を扱う習慣もあるのか。


「どちらにせよ此処で足踏みしてても意味があるまい。俺たちはまず遅刻せず無事に学園に辿り着くことが先決だ。」


「はぅあ!?そ、そう考えると緊張してきた・・・!」


「・・・頼むぜ我が妹。」



―――玄関のドアが閉まり、二人は歩き出す。

武人とその妹。東洋から来た黒い髪の兄妹の学園生活(ものがたり)が、幕を開ける。―――

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