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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第八章:(´・ω・`)魔王は神殿で無双ターン
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魔王は神殿攻略を開始する


 王国の北に広がる大海に、小さな火山島がある。

 長らく火山活動が活発で、常にもうもうと煙が立ち昇っていたことから、かつての人々は上陸を躊躇った。

 

 そんな中、百年ほど前にとある冒険者パーティーが島に足を踏み入れる。古代遺跡を発見し、他の冒険者たちもこぞって一攫千金を夢見て上陸した。

 

 ところが、遺跡の攻略を始めた矢先に大噴火が起こる。多くの冒険者ともども、遺跡は溶岩に沈んでいった。

 

 神の怒りに触れた。

 そう考えた人々は島を神聖視し、また誰も近寄らない孤島と成り果てた、のだが――。

 

 

 近年、都市国家群が王国を素通りして、西の国家との交易が活発になると、傭兵崩れがその商船を襲うようになる。王国の混乱期で貧困が極まった漁師たちもそれに加わり、二百人規模の海賊団に成長していた。


 火口から煙が消えて二十年近く。火山活動が治まった時期であるのも影響しているだろう。

 

 待ち伏せには絶好の立地であるため、海賊団は溶岩でできた複雑な港湾部に居を構える。王国の北岸にもいくつか拠点を配し、表向きは漁をしながら、拠点を行き来して海賊行為に勤しんでいた。

 

「おカシラァ、獲物が来たみたいですぜ」


 島の拠点でくつろいでいた彼らに、そんな一報が入った。

 

 二隻の中型商船に、都市国家群の護衛艦が一隻付いて西へ向かっている、とのこと。


 酒瓶を手にしたごつい男がにっと隙間だらけの歯を覗かせる。

 

「情報通りだな。久しぶりにいい酒が飲めそうじゃねえか」


 海賊団の頭目はつるりとした頭をぺちりとたたいた。

 

「でも大丈夫ですかねぇ? 連中、魔族どもとつるんでるって話じゃねえですか。あっちの軍艦にゃぁ、化け物が乗りこんでるんじゃ……」


「へっ、一度は人族様に蹂躙された連中だ。オレらの強さを見せつけてやりゃあ、それこそ尻尾を巻いて逃げちまうよ」


「お頭、逃げられたらいい酒が飲めねえですぜ?」


「おっと、そうだったな。逃げられる前にぶっ殺してやらねえと」


 冗談めかした会話に緊張が解け、周りにいた団員たちが色めき立つ。


「前に連中から奪った魔法砲の試し撃ちにもちょうどいい。それでサクッと軍艦を沈めて、あとは商船の奴らを海に叩き落してやれ!」


 おおーっ! と威勢の良い掛け声が上がり、海賊団は一斉に彼らの船に乗りこんだ。

 

 大型軍艦が一隻、錨を上げて出港した。その後に小回りの利く船が複数続き、入り組んだ湾から大海へと姿を現した。

 

 そのときだ。

 

 ドォン!

 

 轟音に続いて、頭目が乗る軍艦が大きく揺れた。

 

「なんだ!? 座礁か? にしちゃあ、音が大きかったが……」


 まさか商船の護衛艦に先手を打たれた? だが向こうの船はまだ視界に入っていない。

 艦橋が大混乱に陥る中、慌てふためいた団員が飛びこんでくる。

 

「せ、船尾が吹っ飛びやした! 近場にいた二隻もひっくり返っちまって……敵の攻撃です!」


「バカ野郎! どっから攻撃するってんだよ? まだあっちは影も形も――」


『上です!』


 マストで見張りをしていた男からの声が、伝声管を通じて艦橋に響く。

 

『ふ、船が……でかい戦艦が空を飛んでやがる!』


「空……だと……? くそっ!」


 頭目は周囲が呼び止めるのを無視し、甲板へ飛び出した。見上げると、高い位置に巨大な戦艦がたしかに浮いている。

 

 噂があった。

 帝国が都市国家群の街をひとつ壊滅させ、のちに魔族国家に奪われた空飛ぶ戦艦。

 

「冗談じゃ、ねえぞ……。なんで、たかが海賊団にあんなもんを……」


 引っ張り出してくるのか?

 

 疑問を浮かべた直後。

 大きな光の砲弾が、頭目ごと彼らの軍艦を粉砕した――。

 

 

 

 

 

「目標を完全に破壊しました」


 飛空戦艦バハムートの艦橋で、ウェアラットの通信士が告げた。

 

 直立不動で聞いていたのはハーフオーガのペネレイだ。

 

「小型船はどうなっている?」


「初撃で二隻の沈没を確認しました。二撃目でさらに一隻…………残りは沖へ向かっています。逃げ出したようですね」


「なら捨て置くか。戦艦の魔力をむやみに消費するまでもない。それから、港湾部の拠点は都市国家群の船に任せよう。残りがいたとしても高が知れている」


 ペネレイは振り返り、艦長席に座る女の子に声をかけた。

 

「ククル様、我々は予定通り遺跡の入り口を特定しに向かいます」


「わ、わかりました。えっと、その……面舵いっぱい!」


 操舵手が復唱し、飛空戦艦が向きを変えた。

 

「ではククル様、私はゾルトと最終確認を行ってまいります」


「どうか気を付けてください、とゾルトさんにはお伝えください」


「承知しました」


 ペネレイは一礼すると、戦艦の最深部へと向かった。

 




 戦艦内部には荷を積む大きな部屋がいくつかある。そのうちのひとつに、ペネレイは入った。

 

「お嬢、準備はできてますぜ」


 大きな体を窮屈そうに丸め、オーガ族の戦士ゾルトが笑みを作る。

 彼の足元には、つるつるでぷにぷにのスライムがいた。

 

「ピュウイ殿、そちらの準備もよろしいか?」


「ぴゅい♪」


 ピュウイはぴょんぴょんと跳ねて楽しそうだ。

 

「よし、ゾルト。転移した先(・・・・・)でのろしを上げたら、なるべく遠くへ移動してくれ」


 ペネレイはゾルトの背後に目をやった。

 巨躯の向こうで、台座の上に球体が浮いているのが見える。球体の周りには帯状魔法陣がゆっくり回っていた。

 

 イビディリア神殿から回収した、神殿の制御装置だ。神殿自体はほぼ破壊されて使い物にならないので、装置のみを回収して飛空戦艦に設置している。

 

 目的は、その転移機能だ。

 

 七つの神殿は相互につながっているが、のちの検証で制御装置さえあれば転移機能も有効だと知れた。

 飛空戦艦そのものを転移するほどの力はないものの、リムルレスタと飛空戦艦を気軽に行き来できる。

 

 そして転移機能で火山島にあるとされる〝グリア神殿〟へ――正確にはその入口へここから転移し、場所を特定するのだ。

 

「とはいえ、遺跡の入り口は固い溶岩の下だ。もしそこへ直接転移してしまったら……」


「ぴゅい! ぴゅぴゅぴゅい~」


「いや、すまない。ピュウイ殿を疑っているわけではないのだ……」


 ペネレイたちはピュウイの言葉を解せないが、イルア神殿を守護するミスリルゴーレムの精霊獣タイロスが通訳したところ、『入り口を覆っている溶岩の上に転移する』とピュウイは断言した。

 

「大丈夫ですよ、お嬢。万が一のために、オレがやるんですからね」


 肉体を極限まで硬化していれば、転移した先でも溶岩に埋まったままで済む。そこから全魔力を解放すれば、脱出は無理でも地上まで亀裂を入れることはできるだろう。

 

「……わかった。くれぐれも気を付けてくれ」


「へい。んじゃ、ピュウイさん、やってくだせえ」


「ぴゅい♪」


 ピュウイがぷるぷる震えると、制御装置の帯状魔法陣が勢いよく回転した。辺りが白に染め上げられ、やがて景色が元に戻ると、ゾルトの巨躯だけがその場から消え去っていた。

 

 ペネレイは急いで艦橋に戻る。

 しばらく無言で火山を睨みつけていた。

 

「青いのろしを確認! わりと近いですね」


 海賊団の拠点からさほど離れていない場所で、青い煙が立ち上っているのをペネレイも目視した。

 ゾルトが溶岩に埋まっている事態は回避されたようだ。ホッと胸を撫でおろす。

 

「緑ののろしが上がりました。青いのろしから三百メートルは離れています」


 ゾルトが安全な場所まで移動したのを受け、ペネレイはククルに目をやった。

 ククルはこくりとうなずいて、

 

「主砲を発射してください!」


「照準、よし。魔力チャージ、よし。船体の姿勢制御、問題ありません」


 船員の確認ののち、ペネレイが号令する。

 

「撃て!」


 魔法砲から特大の砲弾が撃ち下ろされる。光の砲弾は、溶岩を吹き飛ばした――。

 

 

 


 

 リムルレスタの都にある自室で、ガリウスはピュウイが持ち帰った映像を確認していた。

 

 壁に映し出されたのは、火山の麓に大穴が開き、その中心部に階段らしきが岩に埋まっている映像だ。直後、艦橋にいるペネレイが映った。

 

『遺跡への入り口は溶岩の破片で一部埋まっていますが、すぐに撤去できるかと。海賊団の根城からも近く、そこを流用して拠点にします。〝グリア〟の攻略は明朝より開始する予定です』


 一緒に映像を見ていたジズルが尋ねる。

 

「飛空戦艦は呼び戻すのかのう?」


「火山島は王国の領域だが、海路で補給はできる距離だからな。あちらに留めておくのはもったいない」


 海賊団が狙っていた商船と軍艦には、遺跡攻略のための物資と人員が積まれていた。

 後方支援を含めて三百人体制だ。

 

「飛空戦艦は引き続き都市国家群との交易に使うよ」


「ん? 他の遺跡攻略には使わんのか?」


「教国はもちろんだが、南方の砂漠地帯まで飛ばすのは現実的とは言えない。それに、王国が何やら妙な動きをしているからな。俺と飛空戦艦はリムルレスタにいたほうがいい」


 帝国が南部の街トゥルスから撤退し、王国は次代の王を据えて急速に結束を固めつつある。

 いきなり攻撃は仕掛けてこないだろうが、力を取り戻す前に何かしらの対策が必要だった。

 

「というわけで、教国の神殿はケラからの情報を待つにして、砂漠地帯の〝アカディア神殿〟は現地でがんばってもらうしかないな」


 ガリウスはピュウイに頼んで別の映像を壁に映し出した。

 

 砂塵が舞う、荒涼とした景色が、一人の男の背後に広がっていた。

 

『いやはや、想像以上に過酷な環境だな。口を開けば砂が飛びこんでくる』


 苦笑いするのは、大剣を二本背負った老剣士。

 

『ひとまず遺跡と思しき〝塔〟は確認した。アレを上りきるのは骨だが、我が忠誠を示すには絶好の機会だ。せいぜい励むとしよう』


 最近になってリムルレスタに単身訪れ、仕官を申し出た人族。

 

 〝元〟教国の聖騎士、ダニオだった――。

 


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