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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第七章:(´・ω・`)魔王は神の使徒に無双ターン
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魔王は外堀を埋める


 帝国皇帝によって飛空戦艦の攻撃を受け、壊滅した都市グラウスタ。

 一時的に退去していた住民たちはちらほら戻ってきてはいるが、いまだ元の住民の三割程度に留まっている。

 

 ここは特徴がないのが特徴のような街で、重要度は都市国家群の中でも低かった。奴隷強奪事件の後で各都市に余裕がなかったのもあるが、再建工事は遅々として進まなかった大きな理由は『なくてもよい都市』と認識されていたからだ。

 

 そこに住む者なら、そういった事情を苦々しく思うのは当然だ。

 中でもオリビア・テルドという女性は憤りを通り越し、他の都市国家を治める者たちに怒りや憎しみさえ抱いていた。

 

 二十九歳の彼女の父は、グラウスタの有力議員だった。飛空戦艦の攻撃で命を落とす。

 彼女は幸運にも別の街に出かけていたため難を逃れた。

 いまだ独身の彼女は、並々ならぬ意欲で街の再建に取り組んでいる。

 

 特徴のない街を復興し、さらには他の都市に負けないほど発展させたいとの野心に燃えていた。

 

 たとえ、悪魔に魂を売り渡してでも――。

 

 

 

 オリビアは街の外に出かけ、城壁の修復作業を見守っていた。

 以前から考えれば、いや常識で考えれば異様な光景だ。

 

 オーガやオークといった大きな体の魔族たちが、資材を運んだり石材を組み上げたりしている。

 彼らを意識しながらも、人族の作業員も触発されたのか、黙々と作業を進めていた。

 

 ひと月前ではあり得なかった。

 作業員たちはろくに働きもせず、酒をあおって時間をつぶすこともあった。

 オリビアは各都市から派遣されてきた彼らを叱責し、自身も都市国家を飛び回って窮状を訴える。

 

 そんな中、近くの街フラッタスが、魔族と農業の技術提携をしたとの噂を聞きつける。

 当時は『何を血迷ったのか』と呆れたが、フラッタスを現在実質統治しているマルコ・ホーマンは旧知の間柄だ。

 彼の紹介で魔族の首領ガリウスに会い、再建工事に協力したいとの申し出を受けた。

 

 賃金は人族並み。それでいて三倍から五倍の働きをする。

 ガリウスが言うには、『石材を用いた高層建築の技術を学びたい』からこその値段設定らしい。

 たしかに彼らはそういった建造物を作ってはいない。かつて魔の国にそびえた魔王城すら木造で、田舎貴族の城にも劣る粗末な建物だった。

 

 人に仇なす彼らに、防御を高める技術を提供してよいのか?

 彼女は葛藤すらしなかった。

 

 相手が魔族だろうと、使えるモノは使い倒す。

 あとでどうなろうとしったことか、と。

 

「オリビアさん、こんにちは」


 涼やかな声に目を向ければ、エルフの少女がにこやかに寄ってきた。人族のようなパリッとした女性用スーツを着こなす。

 ガリウスに代わり、グラウスタで働く魔族たちを取りまとめている彼女。

 エルフは見た目で年齢が計れないが、こんな小娘になぜ? との疑念は拭えなかった。

 

「リリアネア、だったかしら? 私に何か用?」


「もろもろの報告と、すこし相談がありまして」


 オリビアは嫌な顔を隠しもしない。魔族は利用しても、慣れ合いは御免だ。

 

「手短にしてちょうだい。あと、それ以上近寄らないで。私、魔族って嫌いなの」


「あー、はい。知ってます……」


「だったら私に直接報告せず、現場にいる人族の誰かにでも伝えてちょうだい」


「いえその、今日は直接お願いのようなものもあったりするんで……」


「煮え切らない言い方ね。まあいいわ。まずはとっとと報告してちょうだい」


「……はい。えっと、では」


 リリアネアはこめかみ辺りをぴくぴくさせながら、進捗状況を報告する。


「リスケジュールした計画からの遅れはありません。大きな問題も発生していませんし、人族のみなさんもがんばってくれるようになりました。順調ですね」

 

「当然でしょう? なんのために魔族なんかと契約したと思っているのよ。これで少しでも遅れていたなら、賃金を半分、いえゼロにしても足りないくらいよ」


「は、ははは……」


「なにヘラヘラ笑っているのよ。気持ち悪いわね。これだから魔族は、まったく」


「ぐっ……その、『魔族』と呼ぶのはやめてくださいと、前に言いましたよね?」


「貴女ではなく、ガリウスとかいう元勇者がね。従う必要があるの?」


 ぎりっと奥歯を噛みしめるリリアネアは内心で、

 

(あー、殴りたい……)


 衝動を抑えるのに必死だった。

 亜人たちは基本、温厚だが、怒りの感情を持ち合わせている。特にリリアネアは感情的になる傾向が強く、亜人の中では怒りんぼなほうだとの自覚がある。

 

(でもダメ。我慢、我慢よあたし)


 ガリウスから大役を任されたのだ。

 フラッタスに続けて、都市国家の街ひとつと人的な派遣を伴う関係を結ぶ。

 それは亜人を毛嫌いし、排斥を訴えるルビアレス教国に確かな牽制となるとガリウスは語っていた。

 

 グラウスタ復興の旗頭であるオリビアの機嫌を損ね、交流が断絶する事態は絶対に避けなければならない。

 

 だから今は自分を殺し、この地で亜人に対する人族の意識を変えるよう努めなければ。


「用が済んだなら消えてもらえる? ああ、何か相談があるのだったかしら?」


「え、ええ。これなんですけど……」


 リリアネアは怒りに震える手で紙束を差し出した。

 

「作業効率の改善施策案です。今って作業時間がかなり長く設定されているので、そこを削って――」


「はあ?」


 予想通りの反応に、ここは怒りが湧かないリリアネア。

 

「冗談じゃないわ。そんなことしたら遅れが出るに決まっているじゃないの!」

 

「いえですから。その資料にも書いてある通り、休息が増えれば作業効率が上がって、試算ではスケジュールを前倒しできるんですよ」


「…………」


 オリビアは疑念を眉間に集めつつ、資料の隅々に目を通す。

 

亜人こちらの作業員の自由時間も多くなって、そうすると街での買い物なんかも増えますし、多少なりとも経済効果が上がる、という副次的な――」


「賃金は貴女たちがすべて搾取しているのではないの?」


「は? いえ、こちらで一度集めてはいますけど、所有者は作業したひとのモノですから」


 大金を個人で持つのは不安があると考え、国で管理して必要に応じて渡している。中には国の家族にいくらか送りたいと申し出る者もいるので、対応もしていた。

 国としてはわずかに税金を得る程度だ。

 

 実入りは人族基準でも出稼ぎのほうが圧倒的に多い。

 人族に抵抗ない者には人気の働き口だった。

 

「ふうん。あの男、魔族を支配して大金を稼ごうとしているのかと思ったけど、違うのかしら?」


「ガリウスはそんなことしないわよ!」


「ま、いいわ。進めてちょうだい」


「へ?」


 ばさりと紙束を突き返し、

 

「進めていい、と言ったのよ」


 リリアネアが紙束を受け取った瞬間、「ただし」と語気を強める。

 

「一週間で効果が見えなかったら取り止めよ。そちらへ払う賃金も再考するから覚悟しておくのね」


 ホントめんどくさい人だなあ、と思いつつも、

 

(でもま、話はわかるのよね)


 他の人族なら、進める進めない以前に、資料すら見てもらえない。

 不遜な言動を我慢すれば、わりと話しやすくはあるのだ。

 それは事前にガリウスから聞かされたオリビア評にも合致する。

 

 曰く、『利害関係を明確に提示すれば、彼女はこちら寄りの考えで動くよ』

 

 まさしくその通りだった。

 

 ひとまず話は終わり。長居は無用とリリアネアが立ち去ろうとしたとき。

 

「ところで貴女、いくつなの?」


「はい? 年齢、ですか?」


「そうよ。エルフって見た目じゃわからないでしょう?」


「……十七です」


「若っ!?」


 普段ツンツンした彼女の驚き様に驚いた。


「魔族はよほど人手不足みたいね。貴女みたいな小娘を使いっぱしりにするなんて」


 さすがにカチンときた。油断していたのもあり、反論を止められない。

 

「ただの使いじゃないです。その資料だってあたしが作ったんだし。小娘なんて心外です」


 ガリウスに助言を受けてはいるので胸を張っては言えないのだが、いちおう褒められたので自慢してもいいはずだ。


「はっ、まともな恋愛もしたことない子どもでしょう?」


「むっ。結婚してますよ、失礼な」


 売り言葉に買い言葉、にはならないよう何とか耐えたが、オリビアは口をあんぐり開け広げて放心している。

 マズった、と反省し、すぐさま謝ったのだが。

 

「あの……すみません。こっちこそ失礼なことを……」


 ハッとしたオリビアはプルプルと震え、

 

「ふん! 私は行き遅れなんかじゃないからね。私にふさわしい男がいなかっただけなんだから!」


 そんな捨て台詞を残し、オリビアは立ち去ってしまった。

 

 哀愁漂う彼女の後姿を見送りながら、

 

(なんとなくだけど、仲良くやっていけそうな気がするわ……)


 そんな風に思うリリアネアだった――。

 

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