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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第六章:(´・ω・`)魔王の国内で無双ターン
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魔王は狙いを定める


 遺跡は円形の階層が地下へ向け伸びている構造をしていた。

 入り口が最上階の、塔のような造りだ。

 今のところすべての階層が同じ広さの通路が入り組んだ迷路になっていて、どこかにある大きな階段で繋がっている。

 

 一度、試しに床を破壊しようとしてみた。なかなかに頑丈であり、しかも一メートル掘ってもまだ先があるようなので諦めた。探索がメインでもあり、地道に降りていくしかないらしい。

 

「なんだってこんなもの、昔のひとは作ったんだろう? あ、神様だっけ?」


 リッピが疑問を口にする。

 

「俺が前に潜った遺跡もそうだが、たいていは最深部に特別な建造物があり、そこを隠すようにこういった迷路やなんかをくっつけたようだ」


 ただ、本当に『隠す』意図があるのかは疑わしい。

 正しい道を進めば必ず最深部には到達できるからだ。すくなくとも他の遺跡ではそうだった。

 

 後付けの構造物も迷路に限らず、ただ通路と部屋が並んだだけのもの、中にはただっぴろい空間が何層にも続いている場合もあった。

 各所にはトラップ付きの箱にアイテムが隠されていることもあったが、無造作にアイテムが落ちていることも珍しくない。


 この遺跡の一階層はじっくり回って三時間ほど。広くもなく、狭くもない。

 敵との遭遇は四、五回といったところだ。こちらは頻度が少ないとガリウスは思う。一回に数体なので、対処も難しくなかった。

 

 地図化マッピングが完了した階は最短ルートをまっすぐ進めば階段まで行ける。

 地下七階のマッピングを終え、一行は下に降りる階段に到着した。すばやく駆け降りる。踊り場で挟み撃ちはごめんだ。

 

「そろそろ難敵も出てきそうだな」


 ガリウスを先頭にした基本陣形で進む。

 二度ほど戦闘をこなしてから、長い廊下の先で行き止まりに阻まれた。

 

 しかし、正面の壁際に、鉄製の大きな箱が置かれていた。宝箱だろう。

 

 ちりんと鈴の音が鳴る。暴露のランタンで照らされた宝箱は、赤みのある紫だ。

 

 ガリウス以外は一ヵ所に集まり、ククルが防御魔法を周囲に展開する。ペネレイとゾルトは武器を構え、互いの死角を補うように配置についた。

 

 ガリウスは宝箱に歩み寄る。

 鍵穴らしきは見当たらない。この手の宝箱は特殊効果で施錠されている。ガリウスが手を添えて、【アイテム・マスター】を発動して特殊効果を無効化すると。

 

 がちゃり。宝箱の蓋がわずかに浮いた。そのときだ。

 

 ズゴゴゴゴ、と入ってきた通路の向こうで音が鳴った。

 振動とともに、天井から壁が降りてくる。宝箱の中を調べなければ脱出には間に合いそうだが、それ以前に、続けざま異変が起きた。

 

 左右、正面。

 壁が崩れ落ちたのだ。そして崩れた壁の向こうには、スケルトン兵が並んでいた。


「なんて数だ。五十はいるぞ!」とペネレイが舌打ちする。


 数が多いくらいならどうにでもなるが、しかし。

 

「妙なのもいるな」


 ガリウスは宝箱の向こうに佇む巨兵を睨みつけた。

 

 ゾルト並みの長身に、黒い全身鎧。四本の腕にはそれぞれ曲刀が握られている。

 

(なんだこいつは? 状況からしてスケルトンの上位種だと思うが……)


 見たことも聞いたこともない姿かたちをしている。中身が不明なので特定も困難だった。

 

 ガリウスは聖剣を抜いて床を蹴った。宝箱を飛び越え、斬りつける。

 

 全身鎧は二本の腕を交差させて受け止めると、膝を曲げて衝撃を吸収、もう二本の腕を振るった。

 

 ガリウスは聖剣を押し出すようにして、反作用でひらりと躱す。着地して叫んだ。

 

「ゾルト、こいつの相手を頼む。見ての通り手数が多いが、君の防御力なら耐えられる。しばらく凌いでくれ」


「承知」


 ゾルトは巨躯を反転させ、四本腕に突進した。

 

「ククルとペネレイは左の連中だ。俺は右を薙ぎ払う。リリアとリッピは援護を」


「はい! とぉ、りゃあ!」

「こちらはお任せを」

「わかったわ」

「りょうかーい」


「遠慮はいらない。全力で当たってくれ」


 ククルが長い金属製の棍棒でスケルトン兵を突き飛ばした。後ろにいた他の骸骨ごと吹っ飛んで、粉々に砕ける。

 ペネレイは大きな金棒を横に薙いだ。四体の兵をまとめて粉砕する。

 ともに魔力をこめた一撃だ。


 リリアネアは腰から短剣を抜いた。炎の精霊の短剣(サラマンダー・ナイフ)に魔力をこめると、炎の帯が飛び出し、ククルの側面を狙っていた集団を包みこむ。

 

「んじゃ、ボクはガリウスのほうを」


 リッピは慣れ親しんだシルフィード・ダガーを振るい、ガリウスに集まってきたスケルトン兵を風刃の乱射で牽制する。

 

 みな、ガリウスの言葉通り遠慮なく魔力をつぎ込んでいた。

 

「助かる」


 ガリウスは腰を落とし、ぐっと力を溜めてから、集団の中へ突っこんだ。ぐるぐると回転しながらスケルトン兵を斬り伏せていく。

 

 戦いながら、スケルトン兵たちの動きを観察した。

 これまでなんとなく感じていた彼らの特徴が、大規模な戦闘で確信に至る。

 

(統率は取れているが、連携は拙い)


 侵入者を倒すという明確な意図は感じられても、チームとしてのまとまりを欠いていた。

 

 スケルトンは集団での戦闘を得意とする。ガリウスが以前戦ったのもそうだ。前衛と後衛を明確に分け、ときには部隊単位で行動し、陽動すら行う。


(連携が鳴りを潜めているのは、悪霊化が原因だろうが……)


 だとすれば逆に、統率が取れているのが不可解だった。

 そも悪霊化したものたちは、群れるものなのだろうか?

 

「ぐあっ!」


 仲間の叫びが思考を破る。

 ゾルトの右肩から鮮血が飛んだ。

 

「面目ねえ、魔力が……」


 四本腕の猛攻を肉体の硬化で凌いでいたゾルトの、魔力が尽きた。

 すかさずリリアネアとリッピが炎と風で四本腕を押しとどめる。

 

「いや、よく辛抱してくれた」


 言いながら聖剣を振るい、右側に残った最後の一体を両断する。ちょうど左側も終わったようで、ククルとペネレイがゾルトの前に立ちはだかる。

 

 注意が二人に向いた。

 ガリウスは風をまとって四本腕の背後に回りこみ、

 

「ギィィィッ!」


 片側の腕を二本、聖剣に精神力を注ぎこんで両断した。切り口から覗いた中身は太い骨のみ。やはりスケルトンの上位種のようだ。

 

「隙あり、です!」

「うらあっ!」


 ククルとペネレイの強烈な突き。しかし巨躯は揺るがない。頑強な装甲で受け止めた。

 

 だが、その一瞬、動きが完全に止まる。

 ガリウスはありったけの精神力を注ぎこみ、背後から聖剣を振り下ろす。頭から真っ二つに斬り裂いた。漆黒の鎧は砂となって落ちていく。

 

「終わった、のかしら?」とリリアネア。

「でもこれ、閉じこめられたんじゃ……?」とリッピが困った顔をする。


「出入口をふさいだ壁はさほど厚くなかった。破るのは難しくないだろう。戦っていて気になることがあったから、一度戻ろう」


「まだ昼を過ぎたあたりですが、よろしいのですか?」とペネレイ。


「腰を据えて話をしたいのでね。今の探索中心の方針を変更するかもしれない。というわけで、みんな回復してくれ」


 ガリウスは腰のポーチから小瓶を取り出し、ぐいっと飲み干した。

 

「これ、使っちゃうの? 今から帰るのに、もったいなくない?」


 リッピも同じ小瓶を手にしたものの、飲むのをためらっている。

 なにせこれは疑似神薬パラ・エリクサー神の秘薬(エリクサー)に迫る超稀少なアイテムだ。王宮の宝物庫で見つけたもので、残りはわずかしかない。

 

「妙なトラップを踏んだから、帰りに何が起こるかわからない。慎重に越したことはないよ。使って後悔はできても、使わずに死ねば後悔すらできないからな」


 魔力も最大まで回復するようガリウスは指示する。

 

「上級魔力薬も貴重なんだけど……」


 リリアネアは眉間にしわを寄せつつ、別の小瓶をえいっと飲み干した。

 

 みなが回復している間に、ガリウスは宝箱の蓋を開けた。箱の大きさにそぐわぬ、小さな品が底に置いてある。

 

 手のひらサイズの、四角い金属。カードのような形状だ。

 拾って確認したところ、その機能に目を丸くした。

 

「最深部へ入るための『鍵』のようだな。いいタイミングで拾ったものだ」


 一同が首をひねる中、

 

「話は帰り道でしよう」


 ガリウスはカードをポーチに収めた――。

 

 

 

 遺跡を出て、ゴーレムたちが造ったひと際大きな家屋に集まる。

 

「――というわけだ、タイロス。貴方の意見を訊きたい」


『ふむ。悪霊化したものが群れを成す理由か。たしかにオレも妙だと思っていた。悪霊獣は自分以外のすべてを破壊しようとする。相手が悪霊であってもな。弱さといい、悪霊化が不完全であるのだろうと思っていたが……』


「自分以外を、か。ならば、ほぼ決まりだな」


 ガリウスは一同をぐるりと見回して、自身の考えを告げた。

 

「あの遺跡には、おそらく強大な悪霊獣が一体だけ(・・・・)棲息している。スケルトンたちはその影響で悪霊化し、そいつに使役されているのだろう」


『むぅ、それほど強大な悪霊獣か。前例をオレは知らん』


「遺跡の中で長い期間放置されていたのだから、規格外の悪霊獣が育っていてもおかしくはない。ところで、もうひとつ尋ねたい」


 ガリウスは真摯に巨大ゴーレムを見つめた。

 

「貴方たちゴーレム種や、スケルトン種といった〝血肉なき者〟は、死してもいずれ再生すると以前貴方は言った。再生は、どこで(・・・)行われるのだろう?」


『生まれた場所だ。仮にそこが生きていける環境になければ、再生は行われない』


「なるほどな。であれば遺跡内のスケルトンたちは、死して再生しても、その悪霊獣の影響でまた悪霊化してしまう可能性が高い」


『ぬぅぅ……』


 今にもこぶしを振り上げんとするタイロスを制すように、ガリウスはすぐさま口を開いた。

 

「そこで、だ。方針を改める。探索はいったん中止し、悪霊獣の発見と速やかな撃破としたい」


 一同がうなずく中で、部屋の隅にいた一人だけがしゅんとうなだれた。

 

「ムーツォ、探索はそのあとゆっくりやるつもりだよ」


「へ? あ、ああ、はい。すみません……。ガリウスさんたちが持ち帰るお宝の数々に日々心躍らせていましたので、残念ではありますが方針には賛成です」


 ただ、とムーツォは背筋を伸ばした。

 

「目標がどこにいるか、見当はついているのでしょうか?」


「わからない」


「あ、やっぱり……」


「だが、罪なきものたちを操っているような卑怯者だ。そういう手合いは、たいてい安全な場所でふんぞり返っているものさ」


「ふむふむ。つまり、最深部ですか?」


「おそらくな。幸いにも、最深部へ入るためのアイテムは入手した」


 ガリウスはポーチから金属製のカードを取り出した。

 

「ひとまず最深部を目指そう。そこに目標がいなければ迷路内を探し回るしかないが、見つけたお宝を持ち帰れば損はない」

 

 瞳を輝かせたムーツォに告げる。

 

「君は最短のルートを予測してくれ。あと何階ほど下にあるか不明だが、これまでマッピングした七階層までのデータを分析して、な。わかる範囲で構わない」


「はい! と言いますか、今までのデータからなんとなくは予想がついています。この迷路、わりと親切設計でしてね。けっこうわかりやすいんです。今日みなさんが遭遇した罠は予想外でしたが、あれがあそこにああなっていたなら、アレがあれしてアレでしょうから!」


「……さっぱりわからないが、よろしく頼む」


 ムーツォは「お任せください!」と胸をどんとたたく。


「では、もろもろ準備を整えよう」


 ガリウスが立ち上がると、一同は『おう!』と意気盛んに応じた――。


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